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第三十九話【遺跡を目指して】

「……きろっ……」


 ……んん……なぁに……?


「……起きろ……」


 起きろぉ……? ふぁ……気持ちよく寝てたのにぃ……


「おかあさん、今日休みじゃん──」

「ハル、さっさと起きろ! 出発の時間だぞっ!」

「ふぇ……あれ、ソラじゃん……出発……?」

「……はあ、ねぼすけめ。もう僕とリエッタは準備出来てるぞ」


 んー……ちょっとまって、状況整理……


 昨日温泉入った後、村の旅館に泊まって、ベッドの大きさに驚いて……。

 あ、そういや寝る前にソラと話したような……あっ!


「遺跡行くとかなんとか!」

「そうだ、思い出したか? まったく……」


 ……その時すっかり忘れてたー! とか騒いでたよな、わたし。

 うん、鳥頭って言われてもしょうがないわ、これじゃ。


「ごめん、すぐ着替えるから……ふぁ……」

「まず顔洗って寝ぐせを何とかしろ」

「むう……お母さんみたいなこと言う」

「お前がだらしないからだろっ!」


 ぐっ……ぐうの音も言えねえ……。

 と、とにかく! わたしはベッドから這い出て出発の支度を始めたの。

 "大体お前は気が抜けてる"から始まったソラの愚痴を聞かされながら。

 ……うう、何も言い返せなくて辛い……わたしの馬鹿っ!


                  ◇


 二人より一足遅く準備が終わったわたしは、外へ出て新鮮な朝の空気を吸う。

 やっぱり森に囲まれてるからか、空気がおいしい……気がするな。


「ハルちゃんおはよう、よく眠れたみたいね」


 両手翼を広げて伸びをするわたしに、出入り口の近くにいたリエッタさんがふふっと笑いながら声をかけてきた。


「ふぁっ……あう、リエッタさんおはよう……とごめんなさい、遅れちゃって」

「いいのよハルちゃん、なんだか起こすのも悪かったし……ふふっ」


 くすくす笑いながらリエッタさんはわたしを見ている。

 えっと……寝ぐせ直した、よね?


「ああ、見事に熟睡してたからな。ひどい顔だったぞ」

「え、なにそれ」

「いや、なに。ただ"何処かのねぼすけ"の寝顔が、まあマヌケ面だったというだけだ」


 ……ちょ、え、わたしどんな顔で寝てたの!?

 なんかソラは意地悪そうにニヤニヤしてるし、リエッタさんは笑い堪えてるし!


「う、うわあああ! 忘れて! どんな顔してたか分かんないけど忘れて!」

「どうだかなぁ? 忘れたくても忘れられないかもしれん──」

「忘れろぉっ!」

「ぬわぁ!? 掴んでくるなっ! 揺するんじゃ、おいやめろぉっ!」


 恥ずかしさのあまりソラの服を掴んでぐわんぐわん揺らし始めちゃって。

 それを見ていたリエッタさんが堪え切れずに声を出して笑ってる。

 うーっ、恨むぞぉ、寝ている時のわたしっ……!


「みっ、みなさぁん……!」


 ソラが目を回し始めた頃に、か弱い声が遠くから聞こえてくる。

 目を向けると、トアムナちゃんが急いでこちらへと向かってきていた……にじり寄る感じで。

 その後ろには村長さんたちもこっちへと向かってきている。


「ふう、ふう……遅れてすみません、その、私、足が遅いので……」


 わたしたちの前にたどり着く時には、少し疲れた様子を見せていた。

 うーん、たしかに座ったまま移動しないといけないのは大変だろうな……。


「トアムナちゃん大丈夫だよ、わたしも今来たところだから!」

「あう、お気遣いが……眩しい……はっ、えっと、遺跡の鍵をお持ちしましたっ」


 そう言うと、あわあわした様子で小さなポーチから鍵束を取り出した。

 一見普通の鍵束に見えるけど、一つだけ変な形の鍵が。

 なんていうんだろう、鍵にしてはちょっとぐにゃっとしてるというか……波線のような形をしてる。

 トアムナちゃんはその変な形の鍵を持って、わたしたちに見せた。


「これが村長さんの言う遺跡の鍵、です……管理者さんが落としてしまったのを、森にある私のお家で保管してて……そ、その……盗むつもりはなかった、んですが、返すタイミングが……あう……ごめんなさい……」


 じ、自分をよく責めるなあ、この子……。


「はは、もう気にしてないから安心してください、トアムナさん」

「あ、村長さん……はいぃ……優しさが、しみるぅ……」


 追いついてきた村長さんがくすりと笑いながらトアムナちゃんをフォローする。

 本当、わだかまりもなく丸く収まってよかったよかった。


「その変わった鍵を使えば遺跡の扉が開くはずです、是非お持ちください」

「えっ、良いんですか? 遺跡の鍵って大切なものなんじゃ……」

「実を言うと、あの遺跡はほとんどの区域が探索済みでして、価値のあるものはすべて研究のために持っていかれてしまったので残ってないのです。今では立ち入りも殆ど無いですし、何なら物置に使おうかと思っていたぐらいですから」


 そうなんだ……うーん、となると情報を得られる可能性は低いのかな。


「ほとんど、ということは開かずの間が残ってるわけか?」

「そのとおりです、ソラさん。遺跡の最奥に、どうしても開かない扉がありまして……レティシア様から聞きましたが、どうやらあなたにはその扉を開けられる力があるとか」

「うむ、僕ならきっとその扉を開けられる。ラルスからも聞いたが、他の遺跡にも同じような扉があるんだな?」

「はい、必ずと言っていいほど。その共通点は内部に入れていないので分かりませんが……」


 そうなんだ……もしかしたら、すごく重要な場所なのかも?

 なにかを研究してた部屋とか……うーん、そこはちゃんと見てみないと分かんないか。


「村長さん、遺跡はかなり長い間放置されてたのですか?」

「はい、リエッタさん。野生動物が住み着いている可能性がありますので、万が一に備えて戦闘の準備はしておいたほうがいいでしょう」

「なるほど……情報ありがとうございます。……開かずの間の先も危険かもしれませんね」

「はい、罠に十分注意してください。どの遺跡もそうですが、罠で随分と探索に困難しましたから」


 罠もあるんだ……ちょっと怖いな。

 リエッタさんがついてるから動物は怖くないけれど、気をつけて進まないとね。


「みなさぁん、お待ちになってくださいましー」


 村長さんからの話を聞いていたところに、のんびりした声が馬車の音と共に聞こえてくる

 プースの街からユク村まで送ってきてくれたあの馬車に乗り、レティシアちゃんがやってきのだ。


「レティシアちゃん! 早朝に帰るって言ってたから、もう出発しちゃってたかと思ってた!」

「うふふー、最後にみなさんの顔を見ておきたくて、無理を言って来てしまいましたわぁ」


 馬車から降りてにこりと笑うレティシアちゃん。

 わざわざ見送りに来てくれたんだ……! えへへ、嬉しいな!


「ふふーん、いやぁ人気者は辛いですなぁ~、えへへ」

「……まったく、すぐ調子に乗るな、ハルは」


 ソラにちょっと呆れられたけれど、でも嬉しいものは嬉しいからね!


『みなさーん!』

「おう、ここに居たか」


 そうこうしてると、ティルちゃんとテミスさんまでやってきて。

 村の人たちも集まってきて、いつの間にかすごい人数がわたしたちを見送りに来てくれたの。

 ……あ、妖精さんたちもこっそり物陰から見てる。話し合い進んでるといいんだけど。


「やれやれ、こんなに集まるとは……騒がしい見送りになってしまって申し訳ありません」

「いえっ、むしろこんなに大勢の人が見送ってくれて嬉しいです!」

「そう言って頂けるとありがたいですね……遺跡探索が無事に終わることを祈っています」


 村長さんがにこりと笑ってそう言うと同時、村の人たちからのたくさんの応援が飛んできた。

 な、なんだかここまでされると恥ずかしいかも……ソラはちょっとふんぞり返ってるけど……。


「……ふふっ、ハルちゃん。ソラ王子、そろそろ出発しましょうか」

「う、うんっ! そうだね! リエッタさん!」


 リエッタさんが密かに助け舟を出してくれて、なんとか出発を切り出せた。

 このままだと色んな人の話を聞くことになりそうだし……!


「じゃあ皆さん、見送り本当にありがとうございました! おもてなしも嬉しかったです! また寄らせてもらいますからっ!」


 わたしがぺこりと頭を下げてみんなにお辞儀をして、ソラの前に屈んで背負う体勢に。


「……あぅ、その……」


 ソラを背中に乗せ、さあ行くぞという時。

 トアムナちゃんが前に出て、もじもじと指と指を合わせながら何かを言おうとしてたの。


「トアムナちゃん、どうしたの?」

「う……えと……い、いえ! なんでもない、です……旅、頑張って下さい、ね?」


 そう言うとトアムナちゃんは三角帽子を深くかぶって、後ろに下がっちゃった。

 うーん……なんだろう、やっぱり寝ぐせとかついてたかな?


「……? うん、ありがと! トアムナちゃんも元気でね!」

「は、はい、その……日陰者なり、ひっそり……そこそこの元気でいます、ね」


 そういってわたしは一歩下がってぺこりとお辞儀して、体を翻しゆっくりと村の外へと向かって歩きだした。

 走ってもいいけれど、村の外に出てからのほうが迷惑かからないだろうしね。

 リエッタさんもそれを知ってか、コウモリ状態にならずについてきてくれた。


 大勢の歓声に見送られる中、わたしたちは力強く歩き出す。

 目指すは"ユク村の遺跡"!村を出たら全速力で突っ走らなきゃ!


『…………ねえ、トアムナちゃん──』

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