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第三十四話【魔女トアムナ】

 結局、二人を落ち着かせるのに十数分掛かって……。

 

「ううぅ……怖かった、です……ぐすっ……」

『トアムナちゃん、この人たちは悪い人じゃないからね、安心してね』


 トアムナちゃんが元の姿に戻って、ティルちゃんに連れられてゆっ……くりと木の裏から出てきて、何とか騒ぎは収まったの。


「ふ、ふん! まったく人騒がせな……フタを開けてみればただの臆病者ではないか」

「自分も木の後ろに隠れてんじゃん」

「う、うるさい!」


 ソラはというと、トアムナちゃんが隠れた木の向かい側で下ろせって暴れたから下ろしてあげたの。

 今はトアムナちゃんみたく木に隠れて、へっぴり腰で剣を握ってる。

 その様子がちょっとおかしいやら呆れたやら、とにかくわたしはニヤニヤしながらソラを見ていた。


「う、えっと……あの……」

「あっ、怖がらせちゃってごめんね、トアムナちゃん。わたしハルっていうんだ、向こうのはソラ」

「あ、はい……ハル、さん」

「ちゃん付けでいいよ、歳も同じぐらいだろうし」


 隠れてるソラから目を離し、わたしはトアムナちゃんの方を向く。

 距離は離れてるけれど、安全だと理解してくれたのかこちらの方に身体を向けて話してくれている。……今のところは。

 目を合わせようとはしないけれど、ちらちらとわたしの方を見てるのは分かる。

 うん、見ての通りすごい臆病なんだろうな……驚かせたらまた逃げちゃいそう。


「えっと、その、じゃあ……ハルちゃん、その……どうして森の中に、ティルちゃんと一緒に……?」


 トアムナちゃんはおどおどしながら聞いてきた。

 もしティルちゃんがわたしたちと同じ大きさだったら、その後ろに隠れてそうだなってくらい。

 わたしは彼女を驚かせないように話そう……と思ったけれど、話題が話題だからなあ……。


「トアムナちゃんを探しに来たんだ、えっと……村のみんなを驚かせてるのって、トアムナちゃんだよね?」


 わたしがそういうとトアムナちゃんはうつむいて、こくりと頷いた。


「はい、その……私が皆さんを、おどっ……驚かしているのは事実、です」

「そっか……それは森を守るためなんだよね?」


 トアムナちゃんはまたこくりと頷いて、顔をあげてこちらを見る。

 相変わらずおどおどしているけれど、その目は強い意志を感じられる真剣なものだった。 


「私にとって森のみんなは……家族、なんです。こんな私を唯一受け入れてくれて、私の居場所を作ってくれた恩人、なんです……その家族が困っているのを、えと、何とかしたくて……それで、怪物の役をやってました……」

「唯一受け入れてくれた、って?」

「その……私は見ての通り、なんですけど……"上手く擬態ができない"体質で、今こうして自分の姿を保つので、精いっぱいなんです……元の故郷じゃのけ者にされて、居場所なんて、なかったんです……そんな私を、この森に住む動物さんや、妖精さんたちは受け入れてくれて……だから、私……」


 とんがり帽子のつばを両手でつまんで、目元を隠してうつむくトアムナちゃん。

 その手は少し震えている。もしかしたら怒られるのかと思っているのかもしれない。


「……ふん、トアムナと言ったか?」


 いつの間にかソラが剣をおさめて木の陰から出てきていた。

 ゆっくりトアムナちゃんの方へと歩いて、震える彼女の姿を見ている。


「お前が悪意でやっている訳ではないということは分かった。僕たちは森で何があったのかも聞いているから、行動に理解はできる」

「えっと……その……」

「だが、お前はやり過ぎたんだ。誰かを殺めていないのは良いが、お前の妨害は村を確実に衰弱させている。それは自覚しているのだろう?」


 震えながら、トアムナちゃんはこくりとうなずいた。

 ソラは腕を組んで、いつものごとく偉そうだったけれど。


「生きるということは何かを奪うことでもある、と父上が言っていたことがある。村人が狩りをするのも、それを糧に生きるためだ。それを奪ってしまうということは、彼らを殺すことと同義だ」

「でも、だからって……遊びで動物さんたちが殺されてしまうのを、見ているわけには……」

「だから一度、村の連中と話し合おうではないか。話を聞く限り対話もなく始めたことなのだろう? 村の奴らも森の生き物も生かす方法を、互いに探り合うべきだと僕は思う」


 その言葉はとても真剣なもので、村の人たちと森の生き物の共存を切に願っていた。

 トアムナちゃんは少しはっとした様子で顔をあげ、ソラの方を見る。

 そして、少しうつむいて考えた後。


「…………わかり、ました。 その……一度、村に行って、話し合ってみます。どっちも生き残る道を、探るために」


 真剣な表情でわたしたちの方を見て、そう強く言った。

 ソラはその表情を少し緩め、ふっと軽く笑って見せて。


「その意気だトアムナ。僕やハルも協力しよう、一緒に村の連中を説得するんだ」

「……! はいっ」


 優しげにトアムナちゃんに語りかけ、震えながらも決心する彼女を安心させようとしていた。

 ……ソラ、ちょっとかっこいいじゃん。なんか悔しいけど。


『トアムナちゃん、いいの? 村の人たちは怖い人ばっかりだよ?』

「うん、ティルちゃん……私、ちゃんと話し合ってみる。きっと分かり合える道が、あると思うから……」

『……そっか、分かった。私も精いっぱい応援するからね』


 ティルちゃんもトアムナちゃんに協力してくれるみたい。

 互いに理解しあうことで、この騒動が解決できればいいんだけど……。

 まあ、なにはともあれ、早速村に向かわなきゃね!


「じゃあみんな、早速ユク村に戻ろう!」

「ああ、こうしてる間にも討伐隊が結成されているかもしれんからな」


 そういってユク村に戻ろうとした……んだけれど。


「討伐、隊……?」


 その単語を聞いたトアムナちゃんの顔色がどんどん悪くなっていく。

 そういえば言ってなかったけど、これ聞かせちゃダメな奴じゃ……!


「うむ、村の連中はお前を討伐するため、プースの方に救援を送ろうとしていたぞ」

「ちょ、ソラ!?」

「まあなに、敵意を見せなければそうそう攻撃してくることは──」


 次の瞬間には、トアムナちゃんは声にならない叫びをあげて木の陰に再び隠れてしまったの。


『と、トアムナちゃん落ち着いて! 私たちが守ってあげるから!』

「行ったら殺される……殺されちゃうぅ……うえええええ……っ」


 ああ……完全に怖がらせちゃったよね、これ。


「ソラ?」

「……いや、その、まあなんだ、口は災いの元ってやつだな! ハハハ……すまぬ……」


 ……結局、トアムナちゃんを木の陰から引っ張り出すのに一時間はかかった。

 ううん、大丈夫かなぁ、これ……先行きが不安だよ……。

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