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第三十二話【妖精との邂逅】

 妖精……こうして目の前に現れるまでは、おとぎ話の存在だと思っていた。

 彼らは身長が紙幣くらいの大きさしかない小さな種族で、人里離れた森の奥で暮らしてるらしい。

 姿を消すことが出来て、気に入った相手にしか姿を見せることはないという。

 つまり、わたしたちはあのお茶を飲んで気に入られたって事?


『ねーねー、もう一回お茶飲んでよー、くすくすっ』

『なんでフード被ってるのー? 外して外してー』

「だああっ! まとわりつくなあーっ!」


 なぜかソラは凄く気に入られるみたいで、周りに沢山の妖精が集まっている。

 ソラは嫌がって手をぶんぶん振っているけど、妖精たちはくすくす笑いながらそれをひらひら避けて。

 その攻防はソラが疲れ果てて諦めるまで続いた。


「うむ、全員森の声に認められたようだな……これで話を進めることができる」


 テミスさんは満足そうに頷いている。


「テミスさん、あのお茶って一体……?」

「先ほど言った材料は全て森の声が好むものだ。あれを飲むことで仲間と認めて貰うことができる」


 テミスさんがそう言うと、わたしたちに怒鳴っていた妖精が腕を組んで偉そうに語った。


『俺たちは毒が効かないからな! むしろ刺激的で好きなのさ! へんっ!』


 な、なるほど……妖精ってすごいなぁ……。


『しっかしお前らもよく飲むよなあ、妖精以外には劇物だぜアレ?』

「えっ、そうなの!?」

『持って数時間の命だろうなあ……全ての内臓がゆぅっくりと腐って死ぬんだぜ……』

「ちょ、嘘でしょ!? やだ! 死にたくないよお!」


 わたしが慌てていると、怒鳴り妖精を一匹の妖精がべしっと叩く。


『こらっ! 不安にするような事言わない!』

『ってえな! ほんとの事だろお!?』

『ごめんねハーピーさん、わたしたちの鱗粉を吸っていたら解毒されるから、心配なら何回か深呼吸してね』


 その妖精が語り終えると、わたしたちの周りを何匹かの妖精がくるくると回り始める。

 彼らの羽からきらきらと粉のような物が降り落ちているのが分かった。

 わたしは急いで深呼吸してその鱗粉を吸い込んだ。……あ、ちょっと甘い香り。


『くすくすっ! 必死になってやんのー!』

『もう、意地悪なんだから!』

『だってテミスとあの子以外に姿を見せられる相手なんて久しぶりだからなー、ついついちょっかい出したくなるのさ!』


 くすくす笑いながら怒鳴り妖精はわたしから離れて仲間の元へ。

 今度は何してやろうか、なんて仲間と話をしているみたいだ。


『まったく……ごめんねハーピーさん』

「いや、大丈夫……ねえ、解毒されてるかな? 大丈夫かな?」

『この空間には私たちの鱗粉が漂ってるから、自然と良くなるはずだよ。ハーピーさんは深呼吸もしたから絶対大丈夫』

「ほっ……よかったぁ」


 その言葉に安堵して胸をなで下ろすわたし。

 テミスさんってば、死ぬことはないって言ってたのに……まったくもう!


「さて……全員見えるようになったことだし、ちゃんと話をしよう」


 内心怒ってるわたしのことなんかさておいて、テミスさんは語り始めた。


「といっても森の声は詳しくは語ってはくれないのだがな……分かるのはあれが森の神がつかわしたのだろうという事だけだ」

「え? どういうことですか?」

「森の声は魔女をとても親愛している、だから彼女が不利になるような事は決して語らない」


 魔女を親愛している……?

 わたしが疑問に思っていると、一匹の妖精が高らかに言った。


『あの子は森を荒らす悪いやつを追い払ってるだけなんだ!』


 妖精たちがそれに頷くと、またもう一匹の妖精が言い出す。


『あの子は僕が怪我したとき親切に助けてくれた、とっても優しい子なんだ!』


 妖精たちはそうだと口を揃えて言うと、あの怒鳴り妖精が前に出てきてふんぞり返った。


『俺たちはあの子に助けられた! だから俺たちもあの子を守る! たとえ姿を見せれる相手でも、あの子の事を話す訳にはいかないのさ!』


 彼がそう言うとわーっと歓声があがった。

 なるほど、妖精たちはその魔女に助けられてたみたい。

 こんな調子じゃ確かにお手上げだね……。


「森の声よ、このままでは村は痩せ細ってしまう。なんとか怒りを鎮めてもらえないか?」

『いくらテミスの願いでも、村の連中が森を荒らすのをやめてくれなきゃダメだ! 一切の狩りを辞めない限り、俺たちは話なんてしないからな!』

「……といった具合なのだ」


 ほとほと困り果てた様子のテミスさん。

 多分、ずっと説得し続けていたんだろうけど、妖精たちは絶対に喋らなかったんだろうな。


「ねえ妖精さん、その魔女さんとお話は出来ないの?」

『フン、説得しようとしたって無駄だぞ! そもそもお前らは部外者じゃないか!』


 わたしが聞いてみてもこの調子。もう、頑固者だなぁ。


「お話もできないとなるとー、お爺さまに相談するしかないですねー」

「確かに、魔女を退治するために兵士を派遣して欲しいって村長さんも言っていたけれど……」


 レティシアちゃんとリエッタさんの話を聞いた妖精たちは、少しざわつきはじめる。

 すると、さっきわたしに話しかけてくれた妖精さんがレティシアちゃんの前に出てきて、不安そうな表情を見せたの。


『あ、あの……兵士を派遣するって、本当の話なんですか?』


 そう聞く妖精さんにこくりと頷いて、レティシアちゃんは少しだけ真剣な様子で語った。


「はいー、お爺さまならきっとすぐに兵士を派遣すると思います、ユク村はプースにとっても大切な村ですからー」


 それを聞いた妖精たちはそれぞれ不安そうな様子でこそこそ話をし始める。


『……ふ、フン! だからどうしたってんだ、あの子にかかれば兵士の一人や二人──』

「一人二人の話じゃなく、恐らく数十人の部隊が送られてくるかもしれませんねー。それこそ、ユク村の住民と同じ数かもー」


 妖精たちはそのことに驚いて、おびえた様子でがやがやと騒ぎ出した。


『そんな数が来たらあの子も危ないよ! どうしよう!』

『村の奴らめ、卑怯だぞ!』

『こうなったら私たちも戦うしか……』


 ちょ、話が危ない方向に進み始めちゃったよ!?

 このままじゃ、それこそ妖精との戦争になっちゃう……!


「森の声よ落ち着いてくれ! なにも我々は戦いをしたいわけではないのだ!」

『お前らが戦いたくなくても、他の奴らがやる気ならこっちもやるしかないだろ!』


 テミスさんと怒鳴り妖精が言い合いになっている。


 確かに、わたしたちが戦わないと言っても、村の人たちは多分違う。

 状況が変わらない以上、魔女を退治しようって気持ちは変わらないはずだ。

 うう、どうすれば良いんだろう……村長さんを説得するにしても、狩りをやめさせるなんてことはできないだろうし、かといってこのままじゃそれこそ大騒動になっちゃうよ……。


「……はあ、まったく……面倒な上に血の気の多い奴らだ」


 室内がざわつく中、呆れたような声が聞こえて来る。

 その方向に視線を向けると、やれやれといった様子でソラが妖精たちを見ていた。


「要求するだけして事態を解決する情報は寄越さない、挙句最後は暴力で解決しようとする。まるで子供の集まりだ」

『なっ……お前も子供だろうがっ!』

「少なくとも、要求が全て通ると思っているお前たちよりは大人だと思ってる。一切の狩りをやめろだなんて、それこそ村の連中に死ねと言っているようなものではないか」


 腕を組んでため息をつくと、ソラはくるりと体をひるがえして出口へと歩いていく。


『おい、何処へ行くんだよ!』

「お前たちが魔女について何も言わないのなら、直々に出向いてやるだけのこと。馬鹿馬鹿しい戦いになる前に、僕が魔女を説得してきてやる」


 そしてそのまま妖精たちの静止を振り切って、ソラは外へと出て行ってしまった。

 言葉は悪かったけれど、ソラなりに考えた結果の行動……なのかな。

 ……うん、ソラの言う通り、このままここで話し合っていても事態は良くならないし、行動するしかないよね!


「リエッタさん、レティシアちゃん、わたしもソラと一緒に魔女さんと話してみる。あいつ一人だけじゃ生意気なこと言って怒らせちゃうだろうし」


 そうと決まれば即行動! ソラだけじゃ不安だし、わたしも一緒についていこう!


「……うん、分かった。私たちは村長さんを説得できないか試してみるね」

「話では魔女さんは危害を加えてこないらしいですが、十分にお気をつけてー」


 二人はこくりとうなずいてくれた。

 わたしはにこりと笑って立ち上がると、出口に向かって駆け足。


『あ、おい待て! あの子を傷つけたら──』

「そんなことしないって! じゃあねっ!」


 妖精さんたちはみんなに任せて、わたしはソラを追った。

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