第三十話【異形の魔女】
中に入って案内されるまま階段を上るわたしたち。
内装はオーク向けに作られてるからか大きめの家具がよく目立つ。
階段も少し一段一段が高めで、少し上るのに苦労した。
階段を上がって通路を進んだ先、衛兵さんに守られてる扉が一つ。
多分あそこが村長さんの部屋かな? なんて近づくと。
「おやおや、他種族の皆さんこんにちは! 村長さんに用事ですかな?」
と、にっこり笑顔で迎えてくれる。
オークの人たちって本当に友好的なんだなぁ……笑顔はちょっと不器用だけどね。
「プースから来ましたぁ、ドワイお爺さまの使いですー」
「おお、プースから! 丁度プースに救援を願おうかと思っていた所です」
「救援、ですかー?」
「はい、詳しい話は村長からお聞きください。どうぞ中へ」
そう言って衛兵さんは扉を開けてくれた。
中に入ると険しい顔のお爺さんオークが一人、机に肘をついて考え事をしていたの。
長いヒゲを結んで三本のおさげみたいにしてる。これも伝統的なファッションなのかな?
「む、客人ですか……こほん、ようこそユク村へ。私が村長です」
わたしたちに気付くと真面目な顔でこちらを見る村長さん。
今まで見た中でも一番コワモテのオークかも……眉毛も太くて剛毛だし、目つきがとっても鋭いや。
「お久しぶりですぅ、村長さんー」
あ、知り合いなんだ……。
レティシアちゃんはコワモテを微塵も気にする様子もなく、前へ出てうやうやしくお辞儀をした。
「おお、これはレティシアお嬢様。ユク村まで来るとは珍しいですね、どういった要件で?」
「ユク村で管理してる遺跡の見学許可を貰いに来たのですけどぉ……少し大変な状況だと聞きましたー」
「なるほどそうでしたか……少々タイミングが悪い時に来てしまいましたな」
村長さんは困った様子で頭を掻いている。
どうやら何かあったのは確かみたい、わたしも前に出て村長さんに聞いてみた。
「えっと、衛兵さんから遺跡見学の許可が出せないかもしれないと聞いたのですが」
「レティシア嬢のお友達ですかな? ……おっしゃる通り、許可を出す事が出来ないのですよ」
「それは何故ですか?」
「……『異形の魔女』に遺跡へ入場する為の鍵を奪われてしまったのです」
えっ、異形の魔女って……レティシアちゃんが話していたやつ、だよね?
「鍵の管理者が森に入った時に襲われて、鍵ごと飲み込まれてしまったのです。管理者はなんとか帰ってきましたが、飲み込まれた時に鍵を落としてしまったみたいで」
「な、なるほど……よく無事でしたね」
「飲み込まれて意識を失っても、何故か解放されるみたいで……人を殺す気は無いみたいなのですが、森に入る者を拒むのです」
オークを飲み込んじゃうって、相当大きい怪物だよね……。
でもすぐに解放するなんて、何が目的なんだろう?
「その異形の魔女とやらはどんな姿なんだ?」
「緑色に透き通った身体を持ち、オークすら丸呑みにする巨大な口と、何本もの触手を垂れ下げている……なんといいますか、人の形をしていない名状しがたい化け物なのです。頭と思われる部分に魔女を思わせる三角帽子を身につけている事から、"異形の魔女"と呼ばれるようになりました」
「そうか……もしかしたら帽子は犠牲者のものかもしれないな」
ソラが少し表情をこわばらせてそんなことを呟く。
うん、そう考えるのが自然だけどさぁ……めっちゃ怖いじゃんやめてよ……!
「その異形の魔女を倒す事は出来なかったのですか?」
「何人ものハンターが挑みましたが、剣や弓が全く効かないのです。まるでそう、スライムを斬っているかのようだと言っていました。仮に正体がスライムだとしても、コアが全く見当たらないのでどうする事も出来ずにいたのです」
「コアのないスライム……? どうやって動いているのでしょうか……」
リエッタさんもその話を効いてううんと考え込んでしまう。
スライム族にはコアって言う、いわば心臓みたいなものがあって、それを壊さない限りずっと再生しちゃうんだよね。
コアの無いスライムって……もしかして、スライムのお化けとかなんじゃあ……。
私が気味悪がっていると、扉の外がなんだか騒がしくなっているのき気がついた。
衛兵さんと誰かが言い合いをしているみたいだけど……あ、扉が開いた。
「だからそれは森の祟りなのだよ! 村長ッ!」
……ええと、なんというか、スゴイ見た目のオークが来た。
頭に赤いバンダナと、ボサボサの髪。
顔にいわゆる呪術師のような模様を描いてて、民族衣装の腰みのを身につけた、特徴的な見た目のオークが、そんなことを言いながら部屋に乗り込んできたの。
村長はため息をつきながら、その人の方を見た。
「はあ……『テミス』、またその話か?」
「またその話か、って!? 分かるまで何度も話してやろう、ハンターの行動を規制しないから森が怒って魔女を生んだのだ!」
「祟りだの非現実的な……それに今まで森で狩りをしていて問題が起こった事はないだろう」
「礼儀を知らないハンターが増えすぎだって言いたいのだ! 俺もハンターだが、森に対する礼儀は忘れたことがない。しかし近頃の連中は娯楽で狩りをしている、獲物に対する礼儀も忘れてな! そのせいで森の神が怒って、動物を守る為に魔女を生み出したのだ!」
そう主張するテミスっていうオークは、部屋の外からやってきた数人のオークに取り押さえられる。
そしてそのままずるずると引っ張られていった。
「村長! 今からでも遅くない、狩りをやめさせろ! 森の怒りが静まるまでやめさせるのだ──」
そんな事を喚きながら村長の家を追い出されるテミスさん。
わたしたちはぽかんとした表情でその光景を見つめていた。
「いや、すみません……奴は村一番の変わり者でして」
「い、いえ、大丈夫です」
わたしはうろたえながらもそう返事を返す。
ちょっとびっくりしちゃったけど、でも礼儀を知らないハンターが多いって、どういうことだろう?
「村長さん、あの人が言っていたことって?」
「ああ、気にしないでください。確かに最近は娯楽で狩りをする者も増えましたが、それが魔女に関係している可能性は低いでしょう。ましてや祟りだなんて……馬鹿馬鹿しい」
厳しい顔でそう言い捨てる村長。
確かに変な人だったけど、娯楽で狩りをするハンターさんが本当に問題じゃないのかな……。
「とにかく、鍵を取り戻せないと遺跡には入れないのです、すみません」
村長さんはそう言って頭を下げ、謝罪した。
うーん、ここでも足止めかぁ……せっかく来たのに残念。
「ううーん、一度プースにもどってぇ、お爺さまに相談するしかないですかねー」
「そうして頂けるとこちらも嬉しいです、あの魔女にはほとほと困り果てていたので」
村長さんは再び頭を下げてお願いをする。
このままじゃ先に進めないし、異形の魔女をなんとかするしかないのかも。
一度プースに戻って援軍を連れてこなくちゃね。
わたしたちは村長の部屋をでて、外へと出ようと廊下を歩く。
「……なあ、ちょっと気になることがある」
「え、どうしたのソラ?」
「さっきの男にも話を聞いてみないか? この村で何が起きたのか知ってそうじゃないか」
途中、ソラがそんな事を言い出した。
確かに、あの人にも話を聞いてみるのも良いかもしれない。
村長さんが悪い人とは思えないけど、若いハンターさんがどういうことをしていたのか気になるしね。
「レティシアちゃん、ちょっと寄り道してもいいかな?」
「もちろんですわぁ、さっそく行きましょー」
わたしたちは村長の家を出て、衛兵さんにテミスさんの家を教えてもらう。
あの人が何を話すかは分からないけど、せめて友好的だといいな……。





