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第二十五話【セリアンシティ-獣人街-】

 港町プースへと向けて出発したわたしたち。

 一週間の間、特にトラブルとかもなく船は進んだ。

 まあラルスさんは安全な航路を取るって言ってたから、トラブルがあっちゃ困るんだけどね。


 初めての船旅の感想は……とっても楽しかった!

 果てしない大海原と潮風の匂いは、まさに旅をしているってひしひしと思わせてくれたの。

 時々船の横をイルカが付いてきたり、カモメが船を追ってきたり、船員さんが釣りをして見たことのない魚を釣って見せたり……。


 船員さんたちも面白い人たちばかりで、わたしの知らない国の話や海での出来事をたくさん話してくれた。

 人間の遺跡から発掘された物を見せてくれたりもしたっけ?

 まあ、それが何なのかよくわからなかったんだけどさ。ソラでさえも……あ、そうそう、ソラなんだけどね──。


「うう……ま、まだ着かないのか……」

「もうすぐで到着らしいですよ、頑張ってください王子」


 実は船酔いしちゃって、船室のベッドで横になってたんだよね……。

 出発して数時間もしないうちにダウンしちゃって、それからずっとこんな感じ。

 リエッタさんに看病してもらいながら、ソラにとっては地獄の一週間を過ごしたんだ。


「おのれえぇ……船がこうも気持ち悪いものとは思わなかった……」


 船に対する恨み言は尽きる事なく。

 あれだけ楽しみにしてたのに、なんだかちょっとかわいそう……。


 まあそんな船旅ももうおしまい、なんてったって目の前にはすでに大きな大陸が見えているのだから!

 私は船首の手すりから身を乗り出し、港町が見えないかじいっと目を凝らしていた。

 海岸沿いに街道があるから、もうすぐ見えてくると思うんだけどな。


「んー……あっ! 見えた!」


 思わず声をあげてしまうわたし。目線の先には船がいくつも止まっている港があった。


「おうい、見えたかハルちゃん!」

「はーいっ! 大きな港が見えましたよ、ラルスさん!」


 わたしは興奮気味にラルスさんへと伝える。

 見えて来た港はツギーノとはまた違う風貌で、異国に来たんだなってひしひしと感じさせてくれた。


 白塗りの家が多かったツギーノとは違い、プースは砂色の家がよく目立っている。

 町全体が坂の上に作られていて、階段状に築かれた街並みがとても美しい。

 こんなに発展しているように見えるのに、まだまだ未開の地が多いって言うのだから驚きだよね。


「うう……着いたのか、ハル」


 プースの港町に目を奪われていたら、ソラがリエッタさんに連れられてよろよろと近づいてきていた。


「ソラ、大丈夫なの?」

「うむ、リエッタに助けられてなんとかな……しかし、これは見事な街並みだ」

「だよね、ちょっと感動しちゃったよ……!」


 わたしとソラはプースの街並みを眺め始める。

 ここから遺跡を巡る大冒険が始まるんだって思うと、少しワクワクしてきちゃうな!


「久しぶりに来ましたが、前よりも発展していますね」

「リエッタさん、プースに来たことあるの?」

「ええそうね、放浪していた時に寄って、ヴァラムに戻ろうとしたら船を間違えてイリス大陸に渡っちゃって……」

「へ、へえ……そうなんだ」


 ……リエッタさん、実は元から方向音痴なんじゃ?


 ラルスカヌス号は帆を畳んでスピードを落とし、ゆっくりと入港。

 桟橋に停泊し、わたしたちは一週間ぶりに大地を踏みしめた。

 ソラはすごくくたびれた様子で膝に手をついている。お疲れ様だね、本当に。


「いやーみんなお疲れお疲れ! 特にソラは大変だったねえ」


 ラルスさんが船から降りてきて、ひらひらと手を振って近づいてきた。

 残った作業は船員さんたちに任せてるみたいだ。


「休憩したい所だろうけど、まずは俺の知り合いに会いに行こう。ちょっと坂を上るけど我慢してくれよ?」

「船じゃなきゃなんでもいい、行こう」


 ソラ、本当に船が嫌いになったみたい……船を睨んでるし。


 さておき、わたしたちはラルスさんの案内されて、プースの街中を歩き始めた。

 外から見ただけじゃ分からなかったが、街中を歩くと見たことのない物で溢れている。

 すごい量の荷物を背負う猪の獣人(セリアン)、変な匂いのするお香を売ってる猫の獣人……。

 今気づいたけど、そこらじゅう毛むくじゃらの獣人だらけ! 他種族は私たちぐらいかも?


「ハルちゃん、この街が気になるかい?」

「はい、なんだか見たことないものだらけで……」

「よしそれじゃあ……ガイドを務めるこのラルス、興味津々なハルちゃんに色々説明してあげようねえ」


 なんだか気取った様子で語り始めるラルスさん。

 その様子が少し面白くてくすりと笑ってしまった。


「プースは別名セリアンシティ(獣人街)とも呼ばれていてね、住んでる住民のほとんどが獣人なのさ」

「へえ……でもどうしてなんですか? 獣人って言えば普通、森に近い所に住んでいるイメージなのに」

「ふふふ、それについてはプースの成り立ちについて説明しなきゃならないねえ」


 ラルスさんか言うには、プースという街はそもそも座礁した大型の移民船を中心に作られた街なのだという。

 その移民船に乗っていたのはほとんどが獣人で、プースの住民はかつての乗組員の子孫らしい。

 街の拡大で移民船はほとんど解体されちゃったんだけど、今でも街の中心地には船首の飾りが残っているんだって。

 ちなみにプースって名前は、その移民船の船長さんの名前なんだとか。


「ここはとにかく多種多様の獣人が住んでいてね、創立当初は価値観の違いから住民同士の争いも少なくなかったんだとか」

「そうなんですね……今は大丈夫なんですか?」

「じゃなきゃこうして街を歩けないからねえ。ある時みんなをまとめ上げるリーダーが現れて、法律だの自警団だのを作って街を安定させたのさ」

「へえ、凄い人なんですね」

「ああうん、確かに凄い人だよ……色々とねえ……」

「えっ?」


 ラルスさんが何か意味深な発言をしたところで、ある家の前に立ち止まった。

 その家は他の家よりも一回り大きくて、立派な門が付いている。

 門の傍には武具で身を固めた二人の狼の獣人がわたしたちをじいっと監視していた。

 多分というか、明らかに門番さんだよね……。


「さ、ここが目的地だ!」

「ラルスよ、本当にここに知り合いがいるのか?」

「ふっふっふ、あまり人を疑うもんじゃないよソラ! まあちょっと待っててねえ」


 そう言うとラルスさんは門番さんに近づいて、一言二言声を掛ける。

 なんて言っていたのかはちょっと分からなかったけど、多分獣人の言葉なのかな?

 門番さんはこくりと頷いて、門を開けて私たちを迎えてくれた。


「行ってもいいってさ」

「ううむ、解せぬ……なんでこんな飲んだくれが、このような場所に住んでいる者と知り合いなのだ……」

「ハッハッハ! ソラからの好感度が低すぎて俺泣きそう」


 難しい顔をしながら解せぬと呟くソラとなんだか悲しそうなラルスさん。

 ソラの言い分も分かる……って言っちゃ失礼だけど、そろそろ信頼してもいいかもしれないよ?


 リエッタさんは門番さんをちらりと見て、ふむ、と呟いた。


「……ラルスさん、彼らは自警団の者ですか?」

「ん? ああ、そうだねえ」

「あの身のこなし、よく手入れの入った防具。自警団というよりは一国の兵士、それもかなり練度の高い者たちだと伺えました」


 えっ、ちらっと見ただけでそこまで分かっちゃうの?

 自警団の人達が凄いのも驚きだけど、リエッタさんにも驚いた。


「ラルスさん、貴方の知り合いとは一体何者なんです?」

「……ふふ、まあすぐに会えるから、そう焦らないの」


 ……なんだか、二人の正体がますます気になってきた。

 ラルスさんとリエッタさんって本当、何者なんだろう?

 いつか分かる日が来るといいんだけどな。


 ラルスさんが玄関の扉をノックすると、がちゃりと扉が開く。

 中から執事服を着たフクロウの獣人が現れて、ラルスさんを一瞥すると。


「ホッホウ、これはこれはラルス様、ずいぶんとお久しぶりで」

「やあどうも執事さん、元気そうで! お嬢さんと『ドワイの爺様』も元気かい?」

「ええ、ええ、とても元気でいらっしゃいますよ。ラルス様が来たと聞けば二人も喜びます」


 親しい友人のように話す二人。

 ラルスさんの知り合いって、ドワイって人なのかな……?

 執事さんはわたしたちの方を見て、ふむと呟くと。


「そちらの方々はラルス様のお知り合いで?」

「ああそうだ、ちょっとこいつらの為に爺様の力を借りたくてね」

「なるほど、なるほど、でしたら少々お待ちくださいませ、ドワイ様に確認してきます」


 フクロウの執事さんはしばらく待つように言うと、扉を閉める。

 ラルスさんは相変わらず変わってないなあとか嬉しそうに呟いていた。

 ほんの数分待つと、扉が大きく開かれて、執事さんを始めとする使用人の人たちがわたしたちを出迎えてくれた。


「お待たせしました、皆様こちらへどうぞ」


 執事さんがわたしたちを家の中へと案内する。

 獣人の使用人さんたちの横を通ると深々とお辞儀をしてくれて、なんだかちょっとだけ恥ずかしい。

 ソラは逆に堂々として偉そうにしてたけど……もう、ソラったら。


 しかしこんな豪邸に住んでる人って、どんな人なんだろう?

 わたしは少しだけ緊張しながら、家の階段をゆっくりと上った。

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