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第十九話【鋳造の巨神】

 はー、さっぱりさっぱり……。

 わたしは宿の寝間着に着替え、廊下を歩いていた。


 リエッタさんは先に部屋に戻って、わたしはちょっとソラの部屋に用事。

 その用事は、アイツが読んでた漫画を借りる事。

 あのいつもむすっとしてるソラが爆笑するくらい面白いんだもん、どんな内容か気になって仕方がない。


 わたしはソラの部屋の前に来て、扉に手を掛けた。

 扉を開けようとした時、中から誰かの話声が聞こえてくる。

 この声は……ラルスさん?


「……まさか本当に存在するとはねえ」

「僕もまさか、地上にそんな伝説として言い伝えられているとは思わなかった」


 何かソラと話し合っているみたいだ。

 わたしはこっそり扉をあけて、その様子を伺った。


 ソラはベッドに座り、鞘に収まった剣を膝に置いている。

 ラルスさんは近くの椅子を持ってきて、手を組んでその剣をじっと見つめていた。


「宝剣フェルム、人間が作り出した"二対の鍵"の一つ、"鉄の鍵"。大昔に失われた魔法によって作り出された"魔法剣"……この眼で見る事になるとは思いもしなかったよ」

「うむ、この剣に秘められた力はラルスも見た通り、端的に言えば"金属を操る力"を持っている」

「地面の砂鉄を纏わせて斬撃のように飛ばす……まったく、どういう原理をしてるんだか」

「それは僕にも分からぬ、多分父上でさえも」


 そう言うとソラは悔しそうな顔で拳を握った。


「恐らく僕を襲った不届きものたちは、この剣を狙って来たに違いない」

「君がソラジマから落ちて来た理由だったねえ。確か何者かに襲われて、逃げる最中に落ちてしまったとか」

「うむ、しかしそれでよかったのかもしれぬ。この剣が奴らの手に渡ったら、きっとロクな事にならないからな」


 そっか、そういえばソラがソラジマから落ちた理由を聞いてなかったな。

 不届きものに襲われたって言ってたけれど、もしかして足の怪我もその時にしちゃったのかな? 病院の時にも"あの時"って言ってたし。

 うーん、ソラにも話を色々と聞いてみたいけれど、アイツ話してくれるかな──あっ。


「むっ! 誰だそこに居るのは!」


 やばっ、ぎいって扉の音立てちゃった……なんか悪い事した気分。

 わたしは素直に扉を開けて、部屋の中に入った。


「ごめんわたし、盗み聞きするつもりは無かったんだけどさ」

「なんだハルか……まあいい、そこの椅子に座れ。いずれ話そうと思っていたからな」


 わたしはソラが指さす場所にある椅子に座る。

 ソラはふう、と一息つくと、わたしの方を見て話し始める。


「どこから聞いていた?」

「えっと、二対の鍵がどうとか、魔法剣がどうとか……あ、あとソラが落ちて来た理由も聞いたかな」

「ふむ、じゃあ二対の鍵について説明せねばなるまいな」


 そういうとソラは、持っている剣が"鍵"と呼ばれている理由を話し始めた。


 大昔、魔法がまだ残っていた時代に、人間は二つの剣を作り上げた。

 一つはソラの持っている剣、"宝剣フェルム"。金属を操ることから、"鉄の鍵"って呼ばれているみたい。

 もう一つはソラのお父さんが持っているという"宝剣イグニース"、"火の鍵"って呼ばれてて、炎を操るらしい。


「二つの鍵は人間学に携わってる者ならだれでも知っているほど有名な伝説でねえ、世界中探しても見つからなかったから神話の物とも思われていたんだよ」

「そうなんだ……って、なんでラルスさん知ってるの?」

「ヒ・ミ・ツ」


 うーん、ラルスさん、本当にただの船乗りなのかなあ……。


「コホン、続けていいか?」

「あ、うん。どうしてその剣が鍵って言われてるの?」

「それは二つの剣が"とある装置"を動かすために作られたからだ」

「とある装置?」

「うむ、伝説にはこう記させている。"人間は地上の絶対的な支配を得るために、神の化身を作り上げた──"」


 そう言うとソラは、その装置の名を緊張した面持ちで語ったの。


「"──鋳造の巨神、タロス"」

「鋳造の巨神……?」

「うむ、僕たち人間の間に伝わっている伝説だ。"タロスは人間によって操られ、人間は世界を支配した"と言い伝えられている」


 ソラが言うには、タロスは山のように大きく、無限に近い動力を持ち、熱線を放ち、巨大なハンマーを持っているという。

 まるで漫画の世界に出てくる怪物じゃん……って思ったけれど、ソラの表情は真剣だった。


「"しかし人間の支配は十数年しか続かなかった、神の怒りを受けたのだ。人間は散り散りになり、世界は再び誰のものでもなくなった"……と、伝説はここで終わっている」

「神の怒りって?」

「それは諸説ある。タロスが誤作動を起こしたからとか、タロスを操れなくなったからとか。まあ全て憶測にすぎないが」


 ソラは鞘から剣を取り出し、わたしとラルスさんに見せた。

 美しい装飾が部屋の明かりに照らされて、きらりと光る。


「僕が襲撃されたのはこの剣が原因だと聞いたな? 恐らく奴らは地上に進出し、タロスを再び動かす事が目的なんだと思う」

「タロスを再び動かす?」

「うむ。近頃、革新派が怪しい動きをしていてな、父上から用心するようにと言われていたのだ。おそらくあの不届きものたちは革新派の刺客なのだろう」


 革新派とは、ソラジマの議会で地上進出を訴えている派閥の人たちらしい。

 彼らは地上の支配を密かに目論んでいて、ソラとソラのお父さんが持っている剣を狙っているのだと言う。

 片方の剣があればソラジマを動かして、地上近くに進出することが出来るからだとか。


 そして地上に進出した後は、何処かに眠っているというタロスを探しだし、その力を持って地上を支配する気なのだとソラは語った。

 確かにソラの言う通りの力を持つのなら、地上を支配することなんて簡単だと思う。

 でも……果たして伝説の通り動く代物なのだろうか?


「ねえソラ、本当にタロスは動くと思うの? 伝説だと神の怒りだかなんだかを受けて、タロスが動くかも分からないんでしょ?」

「そもそも実際の所、タロスが実在するかも分からない。伝説は伝説だからな」

「えっ? じゃあなんで革新派の人たちは……」

「……奴らはその伝説を心から信じている狂信者なのだ。タロスが地上にあることを妄信し、それが人間の支配に繋がると信じている狂った思想家たちなんだ。そんな奴らが地上に降りたとしてみろ、どんな手を使ってでもタロスを探し出そうとするに違いない」


 確かにそんな人達が地上に降りて来たなら、きっと大混乱になるに違いない。

 わたしはハーピニアにソラジマの革新派が降りて来たらと想像して、少し恐ろしい気持ちになった。

 ソラはふう、とため息をついて剣を鞘にしまう。


「だから僕は一刻も早くソラジマへと帰還して、父上と共に首謀者を探し出さねばならない。僕たちは地上から身を引いた種族である以上、本来はもう地上に関わるべきではないのだ」

「そっか、ソラが急いで帰りたい理由が分かった気がするよ……でも、ソラジマに帰る方法が検討もつかないや」


 地上にはソラの言っていた飛行機みたいな空を飛ぶ乗り物なんて存在しない。

 少なくともわたしは聞いたこと無いし、そんなものがあるのはおとぎ話の世界ぐらいだと思っていた。

 あてのない旅をしている時間もないだろうし、どうしたらいいのかな……。


「こほん、ちょっといいかい? 俺に考えがあるんだよねえ」


 と、ここでラルスさんが考えているわたしたちに声を掛けてくる。

 その時のラルスさんは、待ってましたとばかりの表情で、ちょっとだけ笑いそうになってしまった。ごめんね?

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