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第十八話【お風呂タイム!】

「ふんふふふーん♪」


 宿の豪華な大浴場にて、わたしは上機嫌で身体を洗っている。

 狩ったタウロスを見に行くだかなんだかで、宿のお客さんは私たち以外みんな外へと出ていった。

 つまり今は貸し切り状態! 自然と鼻歌も出てきてしまう。

 

 羽を丁寧に洗い、シャワーで流してぶるるっと身体を震わせる。

 誰かが居るところでは水しぶきなんて飛ばせないけど、今日は思いっきりやっちゃう、えへへ。

 ハーピーとか毛皮のある種族はついついやっちゃうんだよね、水しぶき飛ばし。


 それにしてもこのシャワー、話では聞いていたけれど素晴らしい発明だ。

 最近解明された人間が残した技術の一つで、ゆっくりだけど普及が進んでる代物。

 まだ値段が高くて、こういう高級宿とかにしか付いてないんだよね。


 他にも水を温める技術とか、液体を汲み上げる技術とか、人間の技術があらゆる所で使われている。

 まさしくお風呂は人間の技術の結晶。人間がいなければお風呂は無かったといっても過言じゃない。

 きっと人間はお風呂好きなんだろうなー、仲良くなれそう……あ、もう仲良しが一人いたっけ、えへへ。


 わたしがそんなことを考えていると、お風呂の入口が開かれて誰かが入ってくる。

 おっと鼻歌をやめなきゃ……なんて思ったけれど。


「あら、ハルちゃん。先に入ってたんだね」


 あ、良かったリエッタさんだ。


「うん、待ちきれなくて、えへへ」

「ふふっ、お風呂好きなんだねハルちゃんは。あ、隣いいかな?」

「もちろんっ!」


 リエッタさんが隣の椅子に座って身体を洗い始める。

 服の上からでも分かっていたけれど、本当に素敵な身体つきだ。

 騎士らしく引き締まってる身体なのに、ところどころがとっても女性的で……うん、正直羨ましい。

 

「……? どうしたのハルちゃん? じっとこっちを見て」

「あ、いや、えーっと……羨ましいなあって」

「羨ましい?」

「その、胸とかこう、色々大きいじゃん、リエッタさんって」

「ああこれ? ふふ、みんなそう言うけれど、あまり良い物じゃないのよ? 肩は凝るし戦闘中は動き辛いし……」


 とリエッタさんは言うけれど、羨ましいものは羨ましい……ぐぬぬ。


「でもやっぱり魅力的に見えるよ、とっても羨ましいな」

「ふふっ、きっとハルちゃんも大人になれば大きくなるわ」


 って、にっこり笑うリエッタさんだったけれど。

 そのやさしさが余計に劣等感を感じてしまう……むうっ……。


 そうして話してるうちにリエッタさんは身体を洗い終わり、湯船へと向かおうと立ち上がる。

 その後ろ姿もまるでモデルさんみたいで……ああもう羨ましい!

 嫉妬といたずら心が沸いたわたしは、こっそり油断しているリエッタさんの後ろから……!


 がばーっ!


「ひゃっ!? ちょ、ちょっとハルちゃん……!?」

「ええいっ、女もたぶらかす悪い身体めっ! こいつめこいつめぇ!」

「ちょ、やめてくすぐった……ひゃあっ!」


 ばっと後ろから抱きつくように、リエッタさんを羽でくすぐり始めたのだ。

 へっへっへー姉ちゃん良い身体してまんなあ! って思いながらやったけれど。

 余計にその歴然とした差を思い知らさせて、少し心に傷がついた。……しゅん。


                  ◇


「んーっ……! 極楽極楽ぅ……!」

「ふふっ、ハルちゃん本当にお風呂大好きだね」

「えっへへ、だってぽかぽか気持ちいいもん……はぁー癒される……」


 なんやかんやわちゃわちゃした後、わたしたちは一緒に湯船に入ってくつろいでいた。

 あの後ちょっと怒られたけれど、軽いおふざけってことでリエッタさんは許してくれたのだ。

 相変わらずリエッタさんは優しいなぁ、なんて思いながら、大きな浴槽の縁に手翼をのっけて湯船の中で足をぱたぱた。


「そういえばさー……リエッタさんってすごく優しいよね」


 身体もぽかぽか気持ちよくなってきたところで、そんなことをふと口に出す。


「そうかな?」

「うん、まるで家族みたいに接してくれるもん」


 リエッタさんの方を向いて、わたしはそう返す。

 パンの恩だとは言うけれど、その接し方は他人とは思っていないような感じで。

 わたしにお姉ちゃんは居ないけれど、居たらきっとリエッタさんみたいなのかなって思うほど。

 どうしてそこまで優しく接してくれるのか、わたしは常々疑問に思っていた。


「リエッタさん、どうしてわたしやソラにそこまで優しくしてくれるの?」

「うーん、意識はしてないつもりだったんだけど……ハルちゃんや王子を見てると、故郷の弟と妹を思い出すんだ」

「えっ、リエッタさん兄弟いるの?」

「ふふっ、驚いた? 隠すつもりは無かったんだけどね」


 そういうとリエッタさんは故郷の家族の事について話してくれた。

 リエッタさんは兄弟姉妹の一番上で、ヴァラムが戦争になった数十年前にちょうどわたしくらいの弟と妹が居たらしい。

 家ではいつも姉さん姉さんと慕ってくれていたのだとか。


「……会えなくて寂しい?」

「寂しくないと言えば嘘になるけれど……でも、私は戦から逃げたも同然の逃亡騎士。きっと家族全員何かしら罰を受けたかもしれないし、あの子たちも恨んでるかもしれない」


 もう会わない方が、私にとっても家族にとってもいいのかもしれない。

 そう言うリエッタさんの表情は、とても悲しそうだった。


「……ふふ、ごめんね? 暗い話になっちゃったね」

「ううん、大丈夫。聞いたわたしも悪かったから……その、リエッタさん」


 家族に会えないという寂しさは、なんとなく理解できる。

 わたしもお父さんとお母さんにもう会えないってなったら、なんだか寂しいもん。

 だから、わたしはリエッタさんのちょっとした支えになれたらと思って。


「うまく言えないけれど……その、さ。寂しくなったらいつでも付き合うからね」

「ハルちゃん……」

「リエッタさんにはいっぱい助けてもらったもん、それにリエッタさんの事もっと知りたいしさ」

「……ふふ、ありがとうハルちゃん」


 リエッタさんはにこりとほほ笑んでくれた。

 やっぱりこの人に悲しい顔は似合わない。いつも優しく笑ってくれてる方がいい。

 その笑顔に調子に乗ったわたしは、こんなことを言い出してしまった。


「何なら家族みたいに扱ってもいいよ! ええと……"リエッタ姉さん"──」

「……!」

「な、なんてね! えへへ──あ、あれ? リエッタさん?」


 ちょっと驚いた表情をしたリエッタさんは、少しだけ悲しそうな顔で無言でわたしを抱き寄せて。

 ぎゅっと、大切な物を抱きしめるかのようにわたしを抱きしめていた。


「ごめんね、ハルちゃん。ちょっとだけ……ちょっとだけ、こうさせて欲しいの」

「……えへへ、うん」


 その声は少しだけ震えていて、泣きそうなのを堪えているような感じだった。

 ああ、きっと。この人はずっと寂しかったんだろう。

 国に戻りたいのに戻れなくて、家族に会いたいのに会えなくて、ずっとずっと辛かったんだ。


 わたしはリエッタさんに寄り添うように、お風呂の中でしばらく一緒に過ごした。

 少しだけ、この人の本心を知ることが出来たような、そんな気がした。

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