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85.郷緋暉と陛下のエピローグ

 ――郷緋暉は謁見にて、『鶺鴒の巫女』そして部下と並び、陛下に島での慰霊祭の報告を行った。

 隣で頭を垂らす斎の小さな頭を見下ろしていると、本当にただの女官のように見える。

 彼女は膝を折ったまま、鈴のような声で報告を口にした。


「島における襲撃事件の被害状況、事後処理につきましては、右翼官殿よりお話があったものに『鶺鴒の巫女』も相違ございません。島各地域の魔力装置の点検につきましては神祗官と共に問題なく完了いたしました。子細、書類にて担当神祇官へお渡ししております。休養をいただきましたので、私の魔力も問題なく回復いたしました」


 続いて。

 島民らの今後の処遇に関しても、斎は彼ら全ての連帯責任にならないことを乞い願った。


「この度の責任は迂闊に彼らと距離を縮めてしまった私にございます。彼らに対する処罰はあるとのことですが、どうか寛大なお取り計らいをお願い申し上げます」


(弓で射られて落とされて、それでその優しさねえ)


 生きにくい女だ、と緋暉は思う。

 彼女が自ら申し出た通り、この性格は武官の妻には向いていない。『鶺鴒の巫女』として戦地に赴いても両親と同じように、無駄に命を散らすだけだろう。

 代わりに彼女は管理者としての能力には秀でているようだし、その大人しい姿から想像するよりずっと肝が座っている。平和な場所で活かせる能力なら、適材適所の場所で生きるのが良い。この女は、平和な場所で国をもり立てるのに向いている。


 陛下を見上げる彼女の眼差しは、柔らかな敬愛で満ちていた。緋暉や従者、島民たちに向けていた眼差しとは明らかに違う。


(……俺だって、結構モテるんだけどねえ)


---


 ――謁見の間から緋暉以外の全ての者が人払いされ、鶺鴒の巫女も広間を後にする。

 陛下は玉座に広げた翼をゆったりと揺らし、足を組んでこちらを見下ろした。

 春果陛下と緋暉、二人きりになった。


「右翼官。これは予とそなたしか居ない場としての話だ。楽にしろ」

「は」

「鶺鴒の巫女と接してどうだったか?」


 薄絹ヴェールごしに賜る言葉に頭を垂れながら苦笑いする。どういう意味だ、どういう。


「恐れながら、陛下。私の率直な意見を申し上げてよろしいということでしょうか?」

「ああ」


 その砕けた返事に応えるように、緋暉も肩の力を抜く。そして取り繕わないまま率直に答えた。


「武人の妻には向かないでしょう。彼女は自己犠牲を厭わなすぎます。それでありながら安易に人の心を掴んでしまう……武人の妻として嫁がせればどこかの戦場で命を捨てて士気を挙げかねない気性をしています。活かしたいのならば()()()()()()()()()()()()、歌を歌わせるのが一番向いているでしょう」

「随分褒めるな、右翼官」


 くすり、と陛下が笑う声が聞こえる。


「囀りに心を掴まれたのか? 右翼官」

「とんでもございません」


 まるで己の小鳥を自慢されている気分になってきた。緋暉は独り者として非常にこう、もやもやするものがある。はいはい、陛下が鶺鴒の巫女を大事にしてるのはよーくわかったから。

 ――しかし、ここで引き下がるばかりでいるのも癪だ。


「しかし、そういえば――」


 緋暉はちら、と陛下を見上げて言葉を続けた。


「最近、我が郷家に遊び来てくれました。特に、郷家の女性陣とは話があうようです」

「遊びに、……だと?」


 陛下の翼がぴく、と僅かに動いた気がする。緋暉は続けた。


「ええ。彼女は東方国に縁故の薄い身なので、我が郷家を家族のように感じて貰えればと取り計らっております。郷家は同じ『鶺鴒の巫女』の血を継ぐ者同士ですので」

「そうか……それは、彼女にとっても良いことだろう」

「特に我が母を始めとする女たちは皆喜び、妹を可愛がるように服を与えたり料理を教えたり、まるで花嫁を迎えたかのように喜んでおります。確かに我が郷家は『鶺鴒の巫女』を妻に迎える場合の準備もしておりましたが……」

「武家には向かないと申したのはそなただろう、右翼官」

「勿論でございます。心から残念ですが」


 陛下は平静を装っているが、翼の先端が僅かに震えているのが隠せていない。今日は雷雨になるだろう。


「私の妹が『鶺鴒の巫女』殿にあこがれて、鶺鴒宮に出仕したいと申しております。父も私も、是非にと考えておりますが、陛下はいかがお考えでしょうか?」

「……それは良い事だ。鶺鴒の巫女に郷家の事を教えてやってほしい」

「では、今後とも『鶺鴒の巫女』とは家族のような交際を勤めてまいります」


 陛下は何も言わない。緋暉は腹の中で笑った。


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