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84.郷家の役割、巫女の役割

 ――数日後。

 島から出て宮廷に戻った後、緋暉様は鶺鴒宮まで私を送ってくれた。

 鶺鴒宮入り口の太鼓橋に立ち、緋暉様は私を見て言った。


「一旦諦めるよ」

「……?」

「何のこと? みたいな顔してんじゃねえよ。襲うぞ」

「ッ!?」

「斎ちゃんを嫁にすることをだよ」


 彼は清々しい顔をしていた。


「何度も命を守ってくれた女にそのまま求婚続けるのは武人としちゃあ、ちょっとな」

「そういう問題なんですか?」

「軍人っつーか、男の矜持ってもんだよ、矜持」


 よくわからないが、彼は彼なりの考えがあるのだろう。


「ま、今のところはだけどな。斎ちゃんが「緋暉さまがお嫁さんにしてくれなきゃヤダ」って言ったら考えてやるよ」


 風が吹く。

 鵲の番が、ぱたぱたと飛んでいく。

 緋暉様は捕まえようとするように手をのばす。

 鵲はかちかちと笑うような鳴き声をあげながら、遠くに飛び去っていった。


「――なあ、斎ちゃん」


 飛び立つ鵲を見つめながら、緋暉様は独り言のようにつぶやく。


ごう家は陛下を戒めるための役割があるんだ。陛下の母方の錐屋きりや家にもできない、他の弱小勢力にもできない立場として」


 彼は真面目な顔をして、鵲の飛ぶ姿を見送っている。


「……うちの国は先帝時代「北方国の奸狐」の存在によって国が乱れた」


 来夜様のことだ。

 私は子どもの姿に変化してもなお、国のために影で支える彼のことを思う。

 緋暉様はそのことを知らされてないような口ぶりだ。


「とはいえ、彼の政治自体は悪くなかったし、事実情けない話、未だに「北方国の奸狐」の知恵に頼らざるを得ない面もあるくらいだーーしかし、理屈だけで人心は納得しない。人は、感情で良し悪しを決める、残酷なほどに」

「緋暉様……」

「陛下が斎ちゃんを溺愛しているのはよく分かるよ。今はふたりとも民にも朝廷にも支持され受け入れられている。だが支持なんて脆い。薄氷の上に立っているようなものだ」


 彼は私の存在を案じてくれているのだ。

 私が、『鶺鴒の悪女』となってしまわないように。


「緋暉様…」


 緋暉様はふっと目元を和らげると、私を頭をポンと撫でる。


「中央国生まれの巫女がアホだったら、そのアホ巫女の奪還に力を貸した俺たち郷家もアホってことになる。けれど……君は、国に呼んでよかった」

「そう思っていただけるのでしたら、なによりです」


 風が吹く。

 彼を待つ武官たちが集まってくる。

 もうゆっくり話す時間はなさそうだ。


 緋暉様は真面目な顔をして私を見下ろした。


「陛下はおそらく、君が思ってる以上に頭はきれるし。あの笑顔で人を操るのに長けている。だからこそあの若さで重臣連中を手なづけられている……その賢さが支える『鶺鴒の巫女』でいてくれよ」

「今後ともよろしくおねがいします」

「んじゃ」


 彼は踵を返して去っていく。

 私はその背中に声をかけた。


「緋暉様。…あの」

「ん、なに?」

「私は今、まだこの国の貴族の方々との縁が浅いのです。私はもっと、東方国の事を知りたいです」

「どんなことを?」

「…一言では表せません」


 私は首をすくめて笑う。


「私は恥ずかしながら、緋暉様の事もまだ良く存じ上げないまま、ここ最近ずっと一緒にすごしておりました……もっと緋暉様のことも、郷家の方のことも、貴族の方の事も知りたいのです。よかったら今度、色々教えていただけませんか?」


 彼は笑った。


「もちろん。ようやく会えた『親戚』だからな、俺たちは。うちの女連中に会わせてやるよ。きっと仲良くできるぜ」



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