6.雷雨、そして救援
未だに雨が降り続いていた。
私は最後の魔力を振り絞って自分に強化をかけ、陛下を洞窟の奥に運び、出入り口に座って見張りをしていた。
全身が炎天下で全力疾走したような、けだるい火照りのようなものでぐったりしている。
指から肩までは感覚がないほどにしびれている――それでも、この程度の消耗なら寝れば治るだろう。
聖騎士団がやってくる気配はない。
「あの時彼らが弓をいかけた相手が誰だったのか、今更気づいたのかもね……」
私は奥に眠る陛下へと目を向ける。
陛下はあれから意識を手放したまま黒いボロ切れをかけられて眠っている。そのボロ切れは私の一張羅だ。
私は下着姿で座っている。
雨が降る山中は、春とはいえ流石に気合ではどうにもならないくらい、寒い。
一応、こんな格好でいるのにも理由がある。
私が洞窟の入り口にいれば、雨の降る森でも人肌は明るく浮かび、魔力を使わずとも目印になる。
そろそろ聖騎士団に見つかる心配より、陛下の部下に発見されないことの方が心配だった。
「陛下――」
私は穏やかに眠る陛下の顔を見ながら、前世プレイしたシナリオのスチルを思い出していた。
東方国皇帝という立場を放棄して逃亡した情けない愚帝。
「嘘だわ、そんなの……」
少なくともこの人が、国を捨てて逃げる皇帝陛下だとは思えない。
臣下でも民ですらない私のために、必死で飛んで助けてくれた人なのだから。
運命ではサイが恐ろしい悪の巫女であるように、そこには何かの理由や齟齬があるはずだ。
――でも。
陛下がもし、これから滅亡する運命にあるのなら。
「陛下。……助けていただいたこの生命、思い出した前世の知識、魔力。全てを陛下のために捧げます」
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その時、遠くのほうから男性の声が響いた。
「あそこに娘が!」
ひらひらとした装いに異国の鎧を身に着けた彼らは私に近づき、ぎょっとした顔をして慌てて戻っていく。
ほどなくして雨の向こうから、かぐや姫のような長い黒髪の武官が、雨に濡れながらやってきた。
儀礼用の豪奢な鎧と衣を身に着けた彼は、土に汚れることも構わず、私に片膝を突いた。
「私は東方国皇帝陛下直属左翼官、錐屋雪鳴。貴女がサイ殿か」
彼に向かって私は膝を突き、深く拝礼する。
「お待ちしておりました左翼官様。私は元中央国クトレットラ領主、サイ・クトレットラと申します。陛下は、中に」
全てをわかっているのだろう。
彼は私に外套を羽織らせ、洞窟の奥へと進んでいった。
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