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54.狐色の総髪、美貌の青年

 私は藁に縋る思いで、肩にかけていた薄衣を両手に掴んだ。

 蚕精の紡いだ絹糸は魔力の触媒として上等だ。


 ぎゅっと握りしめた瞬間、薄衣が輝き、魔力を帯びた『私の一部』になるのを感じる。

 脳の扱える容量を挙げるための処理、その情報が頭から腕、そして両手を繋ぐ薄布の中でぐるぐるとめぐる。大分楽になってきたが、それでも、まだ意識を失いそうになる。


「斎!!!」


 ――遠くから、叫ぶように名を呼ばれた気がする。

 ばたばたと足音が近づいたと思えば、私は体がふわりと浮くのを感じた。

 倒れていたこと、そして抱き上げられたことに今更気づく。

 額に大きな手のひらが載せられる。冷えていて、ごつごつとしている男性の手のひらだ。

 癖のある長い狐色の髪。眼鏡の奥。眩しいくらい美しい緑の瞳が、私をにらみつける。


「この馬鹿娘が――おい、聞こえるなら僕の手のひらに意識を預けなさい! いいか、僕の魔力回路を使え!!」


 男性の声。そこには必死の形相になり私を助ける青年の姿があった。来夜様と同じくらいだろうか――華奢なくらい細い体に、背中を覆って床に触れるほど長い狐色の総髪の文官だ。

 眼鏡の奥の大きな双眸は、どこかで見たことがあるような気がする。


 それだけの観察をしたところで、私は体が楽になったのに気付いた。

 熱が引いている。これなら、いくらでも魔力を操って『完了』できそうだ。


 私は再び目を閉じ、彼の手を借りて魔力処理に意識を集中した――


---


 ――結論から言えば大成功だった。

 頭の中で情報をまとめながら、薄布を画面ディスプレイとして頭の中の情報を投影。

 視認しながら頭の中で処理することで、期待どおりの表計算ソフトのような処理を自分でできるようになった。


 私がその魔力を見せると、助けてくれた男性はとりあえず黙ってその一部始終を見て、納得した後――思い切り説教してきた。

 


「僕が気づかなかったら死んでたんだぞ!? 鶺鴒宮の生霊騒ぎを解決したと思ったら、次はここを瑕疵物件にするつもり!? 勘弁して!?」

「申し訳ありません。自分の認識が甘かったです。うまくいったのも貴方様の魔力のお陰でした。……本当に、ありがとうございます」

「ったく……中央国なら魔力保持者も多いけれど、僕が気づかなかったら誰も助けられなかったんだぞ」

「はい……」


 たまたま近くを通りかかったこの男性が魔力保持者で、くわえて、私の魔力暴走をなだめられるくらい強い魔力回路を持っている人だったのは本当に奇跡だ。


 私は深々と頭を下げる。


「お陰様で無事に情報処理できるようになりました。これで来夜様――図書頭殿からいいつかったお仕事を手際よく片付ける事ができます。本当にありがとうございます」

「まって。……これ、片付けるために死にかけてたの?」

「はい」

「もう少し考えて能力を使え! 馬鹿!!! 僕はそこまでやれとは言ってなかったぞ!?」

「はい……私の勝手な一存で魔力を発動しました……」


 ここでふと、あれ?と思う。


「あの。……『僕』、とは……」

「呆れた」

「す、すみません」

「魔力回路を感じて、僕に触れてもわからないの? 僕は来夜本人だよ」

「……え」


 目の前の男性は、呆れたように髪をかきあげてため息をつく。

 確かに、狐のような色の髪も眼鏡も、目の大きさが目立つ顔立ちも、服装も、あの少年図書頭そのままの姿で。

 愛らしい顔立ちの少年が成長すると、ここまで美しい青年になるなんて。

 陛下も柔和だが、もっと線の細く手足の長い、厳しい文官らしい雰囲気の漂う青年だ。


「………………そうだったの、ですね……」

「とにかく。今日はもうゆっくりしていていいから。君に何かあったら僕の首が飛ぶ」

「申し訳ありません、お役に立てずに……」

「馬鹿。今日は、ゆっくりしてていいんだよ。明日からはその能力で処理、頼んだよ。僕の手を煩わせたぶんだけ、きっちり働いて」

「……はい!」

「じゃあ、僕は仕事に戻るから。……もう、今日は余計なことするなよ」


 私はその後、終礼の鐘がなるまで、新しく得た情報処理能力の確認と、魔力回路を休めることに務めた。


 ここで無理をして明日以降に引きずるほうがよくない。


 帰りに挨拶をした時の来夜様は、朝会ったときと同じ少年の姿だった。

 どうやら、普段は魔力を使って少年の姿を保っているらしい。


(……魔力の都合で、あの姿で過ごしているのかしら……)


「斎。僕のあの姿、誰にも言っちゃだめだよ」

「かしこまりました」


 私は明日の仕事に備え、鶺鴒宮に戻った後すぐに就寝支度を済ませて体を休めた。

お読みいただきありがとうございました。m(_ _)m

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