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1.焼いた実家の畑に、私の処刑台を立てないでください

数ある小説の中からお目通しいただき、有難うございます。初めての長編異世界転生です。

短編版から別の完全書き下ろしです。何卒よろしくお願いいたします。

 花曇りの春の空。そして緑豊かな森。

 青い火柱をあげて私の家が燃えている。


(マンション広告の光の柱みたい……綺麗。自分の家が燃えてるのでなかったら、だけど)


 亡き両親や祖母の遺品、巫女として受け継いできた財産全てがごうごうと燃えるのを見ながら、私は前世の記憶を思い返していた。

 私は転生前の記憶を持っている。

 幼い頃『鶺鴒の巫女』としての能力が開花した時、記憶の底から沸き上がるように思い出したのだ。


「私は、『悪の巫女』として断罪されるNPCキャラ、『サイ・クトレットラ』……」


 口に出すと妙に薄っぺらくて、乾いた笑いが出てきそうになる。

 自分がどうあがいても十六歳で処刑される巫女というのは知っていたし、実際どうあがいても私の立場は追い詰められていった。

 死ぬ運命が覆せないなら、せめて私は強い魔力を持つ『鶺鴒の巫女』として高潔に生きようとした。

 誰が信じてくれなくとも、認めてくれなくとも、私は正しいと思う生き方をしようと。


 私の魔力で少しでも救える人は救ってきた。学ぶべきものも学んだ。

 そして結局、規定通り、私は罪を着せられ、家を焼かれ、今処刑されようとしている。

 大切な畑は聖騎士によって踏み荒らされ、すでに無骨な絞首台が設えられている。


 そして私の十六年の生涯を閉ざすのは――


「ハハハハハ!! この悪女め!!! 焔の色を見ろ!! これがお前の罪の色だ!!」


 火柱を前に一人、高揚した高笑いをし続ける男。

 金髪碧眼の聖騎士団長アレクセイ。その顔には天誅を下した正義に酔いしれる笑みが滲んでいた。

 私の冤罪を全く信じてくれなかった元婚約者、運命シナリオにおけるメインキャラ。


「もう俺は騙されんぞ!!! 大人しい顔しやがって、俺たち聖騎士を食い物にして!!! さっさとお前もこの家のように、灰にしてそして川に流してやろう!!!! ハッハッハ!!!」


 何がそこまで楽しいのか。

 生涯連れ添う相手だと思っていた婚約者に、そんな言葉を言われる人生ほどやるせないものはない。

 私はため息を吐きながら、この騒ぎにおびえているだろう領民に申し訳ないと思う。


(私がこんなことになったせいで……クトレットラ領の方々にはご迷惑をおかけして、不甲斐ないわね……)


 せめて領民に連帯責任がかからなかったことだけを、私は幸福に思う。


「なんだサイ。何か言いたいことでもあるのか?」


 はっとして見上げると、アレクセイの怒ったまなざしが私を睨み下ろしていた。

 いつも彼が私を殴る時と同じ、低い威圧的な声。


「いいか、サイ。お前が死のうがどうなろうが、俺は絶対お前の裏切りを忘れないぞ!!!!」


 アレクセイはあらんかぎりの憎しみを込めるように、私に唾をとばして叫んだ。


「お前が、俺と、騎士団と、そして国家を!!! そしてお前の体に流れる巫女の古き血さえ裏切った事を、俺は絶対許さない。今後お前が処刑され灰になり川に撒かれ、砂利となって、後悔するといい!」


 元婚約者に一生恨まれることが、私にとって一番の贖罪らしい。

 なんだかんだ、それだけ、彼は私を信じていたようだ。

 荒っぽいけれど根は純粋。

 だからこそ周りの言葉を素直に信じ、私を信じられなくなった。

 特に『聖女』に恋をしてからというもの、彼は熱病にうかされているようだ。


「……はあ」

「……ッ おい!! 今明らかに溜息ついただろ!? お前!!!」


 私の態度が気に入らないアレクセイは美丈夫の顔を歪め、ますます不快そうにする。


「ですから……私は無実ですから、何を言われても響きません」

「あれだけ証拠を突きつけられても、家を燃やされても、まだ言うか!!!」

「川底の砂利になろうとも、下水に留まる泥に混ざろうとも、無実は無実で変わりなき真実です」

「こッ、の、ッ……!」


 アレクセイの白い肌が真っ赤に染まっていく。

 言わなければいいのに、言ってしまう私も私だ。

 けれど煽ろうが煽るまいが、どうせこのまま死ぬ。最期くらい、少し反抗したかった。


 憤怒と義憤で燃え盛る彼の双眸に、表情の固いぼろぼろのわたしが映りこんでいる。


 半年に渡る勾留でぼさぼさになった黒髪に、絶望して疲れ切った黒い瞳。

 みすぼらしい黒いドレスをまとう『悪の巫女』。

 処刑を待つだけの惨めな小娘――私、サイ・クトレットラの最期の姿。


 私は元婚約者へ深く頭を下げた。


「長い間お世話になりました。貴方の許嫁として至らぬ女で、申し訳ありません」


 耳にかけていた髪が、さらさらと頬にこぼれていく。

 婚約が決まった日に髪を捧げ、それからずっと短くしていたショートボブの髪。


「どうか聖女さまと、お幸せにお過ごしください」

「おい、」


 頭をあげたとき、そこには無表情のアレクセイがいた。


聖女リリーは、関係ないだろ……?」


 右手が振りかぶられる。手加減のない、本気の拳だと本能的に悟る。


(殺される――!!)


 これから死ぬ覚悟をしていたくせに、情けないことに思ったことは暴力への恐怖で。

 ――身を縮めた、その時。


 私の足元に、彼よりずっと大きな影が降りてきていた。


(鳥……? いいえ、これは…………人……!)


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