3# さあ、遊ぼう
歌って踊ってカメラに笑いかけ、場を盛り上げてお金をもらう。アイドルの仕事とはすなわち、人の心に夢を売り込むことだ。そこには偶像崇拝を謳う宗教にも似た特性がある。人々はみずから進んで心の渇きを満たし、日々に潤いを求めようと、アイドルに群がってお金を落とす。それが彼ら彼女らの生きる糧になる。
アイドルって不思議な商売だと文綾は思う。普通の「商品」は売り込まなければ見向きもされないのに、どうしてアイドルは顧客の側から自発的に求められるのだろう。ただ笑っているだけで商品価値が生まれ、好きなことをしているだけで生活を送ってゆける、こんなに都合のいいことは他にない。アイドルって楽な商売だと、どこかのソーシャルゲームの登場人物が宣っていた。地べたを這う思いで営業をかけても自分の価値を売り込めない人間がいる一方で、素の魅力を売り出せば金になる人間もいる。その不条理をどう捉えればいいのか、文綾には分からない。ただ、私はやっぱり不幸な側の女だな、と思う。
「ねね、松永さん松永さんっ」
──明日菜の声で文綾は現実へ引き戻された。慌てて顔を上げると、真央が「行くよ」といって試着室のカーテンを思いっきり開ける。それまで着ていたグレーのチェスターコートを脱ぎ、代わりにクリーム色のダッフルコートを羽織った佑が立っていた。
「これどう思いますか? オトナっぽくて可愛いでしょ?」
「そうだね。すごくオトナっぽいや」
「だってだって! もうこれ買っちゃいなよ、まゆうっ」
当の佑は褒められ慣れないのか落ち着かないのか、コートの裾をしきりに指でいじくっている。「でもなぁ」と彼女はためらいがちにぼやいた。
「なんかちょっとシルエット重たいし、あと肌色成分が少ないかも」
「肌色成分……?」
「丈が長すぎるんです」
「そんなに丈を短くしてどうするの?」
「だってなんか……その方が注目されるじゃないですか。私ってあんまり可愛くないから。みんなスカートとか短い子の方が好きだろうし」
艶のない声で佑は裾をつまむ。面食らった文綾はとっさに反応を思いつけず、代わりに佑の全身をまじまじと眺め回してしまった。この顔で「可愛くない」などと放言しようものなら、どこからかスコップを持った集団が現れて彼女を生き埋めにしそうだ。もしかすると文綾もその一員かもしれない。
「そんなことないのになぁ」
明日菜が佑の肩にじゃれついた。あと一歩早ければ、文綾も同じ言葉を口にしていた。
「まゆうは何かと容姿に自信を持たなさすぎなんだよな。自然体でいれば十分オトナっぽくて可愛いのに」
「でもそれってさ、まおっちがトークに自信を持ってないのと似たようなもんじゃない? わたしはちょっと分かる気がする」
「あすちゃん音痴だもんね」
「お!? もしかしてケンカ売ってる? 一万円くらいで高く買っちゃうよ?」
「よく言うよ、財布も持ってないくせに」
わいわい虚しく騒ぎながらも、二人の手に背中を押されながら佑は会計へ向かおうとしている。──そうだった、私がこの子たちのATMなんだった。我に返っていそいそと後を追いつつ、もはやATMであることに何の違和感も覚えない自分を恐ろしく思いながら、文綾は改めて三人の背中を眺め直した。アイドルという色眼鏡を意図的に外した透明の世界では、彼女たちの出で立ちは有象無象の女子高生と何も変わらなかった。
いかなる経緯で佑が自分に自信を失ったのかを文綾は知らないが、少なくとも傍目に見る限り、三人の容姿は世間平均よりも明らかに恵まれている。逆にいえば「可愛い」以上の強烈な印象を持つ存在ではない。場の意識を惹きつけるどぎついオーラを放っているわけでもない。アイドルであることを隠した世界では、彼女たちは単なる年頃の女の子なのだ。
「へへ、買っちゃった買っちゃった」
「ありがとうございます松永さんっ」
支払いを済ませた文綾を取り囲み、三人は頬をほころばせた。袖口から覗くガラスのような肌や頬の赤みに気を取られ、曖昧に笑って返しながら、じわじわと心を侵食してゆく違和感に文綾は顔をしかめた。本当に三人が普通の女の子なら、なぜ文綾は時々、彼女たちの一挙手一投足に目を奪われてしまうのだろう。なぜ彼女たちはアイドルとして、誰かの心を射止めることができるのだろう。
いったいアイドルって何なのだろう。
不条理な世界の理屈は、難しい。
ハンバーガーセット、カフェラテ、チョコケーキ、イタリアン、ジェラート。そして今、コートやバッグの分も支出した文綾の財布からは、信じられないほどの勢いで紙幣が減少しつつある。とうとう途中からは現金での支払いを諦め、クレジットカード利用に切り替えた。明日菜も真央も佑も「クレカで買い物するの格好いい!」と羨望の眼差しを注いできたが、クレジットカードまで動員しなければならない事態に追い込んだのが誰なのかを彼女たちには是非とも考えてもらいたいものだった。
しかも困ったことに、クレジットカードはすべての場所で使えるわけではない。
台場地区の南端には最新科学技術の粋を集めた『宇宙科学未来館』がある。明日菜のたっての希望で入口に立ったはいいものの、入場券の購入にクレジットカードが使えず、文綾は最寄りのコンビニまで現金を下ろしに走る羽目になった。いったい初対面の女に何万円使わせれば気が済むんだ──。さすがの寛容な文綾にも限界の天井が見え始めたが、浮かぶような足取りで「うわー!」と館内を振り仰ぐ明日菜の横顔に憎めないものを感じ取って、醜い感情をどうにか喉の奥へ押し込んだ。
「ここ、すっごく来てみたかったんです! なんか機械とかハイテクなものに触れるとキラキラシュワシュワーってなっちゃうっていうかっ」
「『心が湧き立つ』って言ってます」
相変わらずの通訳っぷりを発揮しながら、真央も明日菜を追って館内へ迷い込んでゆく。多大な出費が懐に痛いのは事実だが、こうして彼女たちが楽しんでくれているのなら無駄な出費とも言い切れない。こういうところが甘いんだな、私って。置いてゆかれた佑とともに入り口付近の巨大地球儀を見上げつつ、しみじみと文綾は自分を情けなく思った。
クリスマスイブだけあって人出は多かったが、際立って人々の関心を惹いていたのは人型ロボット『ジェミニ』のブースだった。自動車会社の開発した二足歩行の自律ロボットで、センサーを装着した人の動きを真似することが可能だという。
「こういうときはまおっちの出番でしょ!」
「やめてよ、こんなとこでダンスしろっての?」
「他の誰が適任だと思うの? 歌ならまゆうが歌うから心配しないで、ほらほらっ」
明日菜に背中を押された真央は、しぶしぶ体験の列に並び、センサーを装着した。ユニットリーダーを名乗る明日菜の前では、なんだかんだといって誰も彼女に逆らえない。それだけの不思議な牽引力を彼女は持ち合わせている。
念のためを思って、こっそり隣の佑に尋ねた。
「……歌うの?」
「あんなとこで歌うくらいなら穴でも掘って埋まってた方がマシです」
彼女は即答した。マイペースな人柄の割には羞恥心が強くて、容姿への自信もない。佑という少女には独特の二面性があると思う。
顔を上げると、ちょうど真央の順番が回ってきたところだった。
いざ人前に立つや否や、真央は表情を変えた。それまで嫌そうに傾いていた眉はどこかへ流れ去り、すっと息を腹に溜めたかと思うと、彼女は扁平なジェミニの顔を一直線に見据えた。すかさず「好きなように動いてみてください!」とアナウンスの女性が促す。真央が右手を挙げるとジェミニも右手を挙げた。思いのほか可動領域が広いようで、なめらかな真央の腕の動きにもきちんと追いついている。
小手調べとばかりに真央はステップを踏み始めた。靴音を軽やかに響かせ、すらりと伸びた二本の足が床を踏み鳴らす。ジェミニも真似をしてステップを踏み出す。驚きの声がジェミニの方に注がれるのを聴くや、眉を少し曇らせた真央は、一気にステップを複雑なものに切り替えた。リズム感のいい小刻みな足音が、床を伝って心地よく骨に響く。ジェミニも律儀に真央の動きを追いかける。あんなにやったら足が絡まって転ぶんじゃないか──。彼女がダンス慣れしていることを頭では知っていても、不器用な文綾は不安のあまり動悸を抑えられない。
誰かが拍手を打ち始めた。拍手の輪は瞬く間に大きくなり、しまいにはジェミニのいる一角がライブ会場のような喧騒に包まれた。衆人環視の中心に立つ真央とジェミニは、いまや腕の振りまでつけて、本格的な無音のタップダンスを競い合っている。なんだかんだ言っても彼女は几帳面で挑戦的な子なのだ。しみじみと感心していると、隣に戻ってきた明日菜が「ちゃんとダンスしてるじゃん」と嬉しそうに笑った。真央を推薦した張本人の横顔は、未知の星を発見した天文学者みたいに誇らしげだった。
結局、二分間にわたって真央はダンスを踊り切り、ジェミニはその動きに辛うじて食らいついた。交代の時間をアナウンスが告げるや否や、大きな拍手が真央とジェミニに襲い掛かった。駆け寄った明日菜と佑に「すごいすごい!」と褒められた真央は、苦笑しながら額の汗を拭った。
「すごいね、あのロボット。完璧に真似されたわ」
「すごいってのはまおっちのことのつもりだったんだけど」
「いや、別にすごくもないでしょ。このくらい普通だよ」
「言うねー。さすがダンス専門だ」
「でも確かに、あのくらいなら私たちでもできるかも」
「まゆうができるなら全員できるね」
「サイドプランクよりはキツくないもんな」
「ねーひどい、そんな言い方しなくたっていいじゃん!」
憤慨した佑が真央を叩いて明日菜に笑われている。爽やかに弾けた汗の粒は一瞬ののちには氷のように冷え切って、傍観する文綾の背筋にそっと悪寒を流し込んだ。彼女たちにとってはあれが普通だったというのか。ダンス素人の文綾の目には、真似どころか動きを目で追いきることすら叶わなかったのに。
先天的という言葉を使うことには後ろめたさを覚えるが、こればかりは他に代替表現が思いつかなかった。きっと天賦の才という言葉は、彼女たちのためにこそ存在するのだろう。神様がありのままの姿を崇められるみたいに、アイドルは自然体の魅力や才能を発信するだけで価値を生み出してしまう。それはスタイルや顔立ち然り、ダンスの才覚も然り。まだ耳にしたことはないが、歌を歌わせても彼女たちは上手くやるはずだ。なぜならアイドルはそういう存在だから。
生まれつきの才能に恵まれる気分って、どんなもんなのかな。
私だってありのままで誰かに惹かれてみたかった。
どろりと胃の底が淀んで、ふたたび動き始めたジェミニを眺めながら文綾は立ち尽くした。当のアイドルたちは文綾を置き去りにしたまま、すごいすごい、遊園地みたいだとはしゃぎながら『インターネット物理モデル』の展示に釘付けになっている。吞気で無邪気な彼女たちを文綾は羨ましく思った。それが字面通りの羨望ばかりでないことにも、たぶん、心のどこかで気づいていた。
よほど『インターネット物理モデル』の展示に触発されたのか、いきり立った彼女たちは「遊園地に行きたい」と言い出した。ゆりかもめの青海駅前に観覧車が建っているのを文綾は思い出したが、彼女たちのいう遊園地とは観覧車のことではなかった。
「『東京アクアポリウス』ってあるじゃないですかっ」
「ペガススタウンの隣にある屋内遊園地ですよ」
「あそこだったらほら、チケットもそんなに高くないですし。私たち高校生料金だから……」
じかに料金のことを弁明するようになったあたり、彼女たちもいよいよ本格的に使い込み過ぎた自覚を持つようになったらしい。もう三時間ほど早く持ってもらいたかったものだが、勢いに押し負けた文綾は不覚にも「いいよ」と口走り、勇んだ三人に最寄りの駅まで連行された。いい加減、犠牲になった金額を考えるのはやめよう。日向の出費を肩代わりしているだけなのだから──。味のしなくなった文句で辛うじて理性を保っている間に、四人を乗せたゆりかもめは湾岸の空を泳いで台場駅に到着した。
全天候対応の屋内遊園地・東京アクアポリウスは、台場駅前に立つ大型商業ビルの三階から五階までを占める形で営業されている。文綾も名前を知らなかったわけではないのだけれど、そういえば一度も来たことがなかった。パスポートは高校生料金が三五〇〇円、大人料金が四五〇〇円。とっさに「高くない」とつぶやいてしまい、金銭感覚の狂いように改めて深い失望を覚えつつ、三人の後ろをよたよたと追いかけて文綾も入場した。
たちまち、きらびやかな電飾と音に彩られた夜色の異世界が文綾を飲み込んだ。ショッピングモールのような要領で各アトラクションがコンパクトに並び、中央の吹き抜けを幾本ものエスカレーターが結んで光の導線を作っている。昼間の世界から都市夜景に迷い込んだような感覚がして、思わず文綾は「すごい」と唸った。三人の誘いがなければ、この世界に踏み込むことなど今後十年はなかっただろう。
「どこ行こっかっ」
「うちはVR対戦のやつ行きたいなー」
「VR難しくてやだよ。私、回転レースゲーム乗りに行きたい」
「まゆう不器用だし、あれ乗ったらゲロゲローってなっちゃうんじゃない?」
「ならないよ! だいたい絶叫マシン苦手なのはあすちゃんの方でしょ」
「三階にまゆうの似合いそうなのあるぞ。ほら、ルーン占いがどうとかって」
「見てなよ二人とも、あとで絶対に痛い目に遭わせてやるんだから……」
いちおう文綾のことも輪に加えつつ、三人は広げたパンフレットを前に盛り上がっている。こんな風に仲良くパンフレットを覗き込んで巡回の順番を決めるのが、かつては友達と遊園地に来た時の恒例行事だったものだ。なんでもいいや、どうせ私は荷物番だろう。諦めを決め込んでパンフレットから焦点を外していたら、「あの」と真央がアトラクション一覧の一角を指差してきた。
「松永さんはVRとか無理ですか」
「ぶ、VR? やったことないよ」
「他の二人とも嫌だっていうんですよ。二人以上じゃないとプレイできないみたいだから、松永さんさえよければこれ行きたいなって」
文綾はアトラクションの説明に目を通した。チーム対戦タイプのVRシューティングアトラクションで、小銃サイズのデバイスを装備して撃ち合い、陣取りゲームの要領で味方エリアを拡大しながら勝利を目指すという。
「……私、こういうの下手だよ」
恐る恐る申し出ると、真央は鼻息を荒くした。
「うちが倍くらい倒すんで大丈夫です」
「でも、足手まといになるかもだし……」
「なりませんって! あっちの二人はお化け屋敷行こうとしてるみたいだし、VRの方がぜったい楽しいですよ」
前門の虎を狩るか後門の狼を狩るか、おそるべき二者択一が文綾の前にそびえ立った。当の二人を窺うと、うきうきとはりきる明日菜の隣で佑が真っ青な顔で立ちすくんでいる。どちらがお化け屋敷に行きたがっているのかは一目瞭然だった。
いくらアクションが不得意でも、ホラー演出に比べれば苦手ではない。文綾の天秤は一気にVRの側へ傾いた。佑には可哀想だが、無事を祈ってやることしかできない。罪悪感の味を舌先に残しながら「いいよ」とぎこちなく笑うと、水を得た魚のごとく真央は顔を輝かせ、ガッツポーズを決めた。
「よっしゃ!」
──文綾の目には真央のガッツポーズが焼き付いて離れなくなった。『宇宙科学未来館』でジェミニを相手に見事なダンスを披露し、喝采を浴びた時には見られなかった率直な感情の発露が、いやに濃厚な印象の尾を引いた。結局、ゲームに不慣れな文綾は満足に敵へ弾丸を当てることもできず、VR対戦ゲームは真央ひとりの活躍で圧勝に終わったが、デバイスを握っているあいだもVRゴーグルを着脱しているあいだも、なぜか文綾は敵キャラクターの姿ではなく、隣で意気込む十七歳の少女の姿ばかり見つめていた気がする。
容姿も完璧。
ダンスも完璧。
聴いたことはないが、多分、歌も完璧。
揃いも揃って当たりを引いたスロットみたいにすべての魅力を兼ね備えておきながら、そのくせ時おり、年齢相応の振る舞いで子供に戻りたがる。思い返せば食事中にしても買い物の最中にしても、彼女たちの振る舞いはアイドルのそれではなかった。ごく当たり前に東京の片隅で息をしている、ごく普通の女の子の笑い方だった。
私は何か思い違いをしていたんだろうか。
今更ながらに文綾は疑問を手放せなくなった。
哀れ、お化け屋敷から戻ってきた佑は目を赤く腫らしていた。よほど恐ろしい思いをさせられたと見えて、いまだに嗚咽の余韻が口元を濁している。残らず生気を吐き出して白色矮星のようになった彼女を撫でながら「ごめんごめん」「怖かったね」「次はまゆうの行きたいとこ行こ」と必死になだめている明日菜の様子があまりにも滑稽で、真央と二人で不覚にも噴き出してしまった。血走った目で彼女を睨んだ佑は「次はこれ!」と叫び、手近にあったリズムゲーム仕立ての絶叫マシンに明日菜や真央を引きずり込もうとする。
彼女たちは隅から隅まで完璧に出来ているわけではない。等身大の生き方で交流していれば、こんな風に仲間を傷つける場面も、傷を埋め合わせようと躍起になる場面もある。練習をサボりたくなることだって、年上の女を図々しくATM扱いしたくなることだってあるだろう。アイドルは神様のようだが、決して神様ではないし、神様にはなり得ないのだ。
「……みんな、アイドルである前に女の子なんだな」
独り言ちたら素直に合点がいった気がした。
あんなの乗ったら死んじゃうよ、やめようよと喚く明日菜を無視して、佑と真央はずんずん待機列の通路に入ってゆく。ひとり取り残された彼女の背中を、そっと文綾は手のひらで押してみた。なおも明日菜は「無理です」と声を震わせ、足をすくませている。意外に往生際の悪い子だ。
「お化け屋敷に連れ込んだ罰じゃない?」
「そんなの分かってますしぃ……」
「大丈夫。怖くないから。私が保証してあげる」
「ほんとに?」
「多分ね」
思いきり目を泳がせたが、明日菜は大人しく文綾の励ましを聞き入れた。「ひとりぼっちでここに残るよりマシだから」などと言い訳のように口走りつつ、おっかなびっくり待機列に踏み込んでゆく。
こういう年齢相応に無邪気なところがあるから、彼女たちを嫌いになれない。ひとつ嘆息を落として邪気を払ってから、文綾も三人を追ってアトラクションの乗り場へ急いだ。ようやく明日菜たちをアイドルではなく十七歳の女子高生として見られるようになりつつある事実に、急ぎながら些細な安堵を覚えてもいた。
「あんなにダンス上手くても埋もれちゃうんだ」
──「あんなに?」
「あっいや、言葉のアヤです……」
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