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第一章 夢迷いしアリエス王国 2話 

 王の住む城の廊下を一人の少年を担ぎながら歩く騎士の男。この廊下は王城の訓練場と隣接しており、訓練のために互いに剣術稽古をしていた。稽古中の騎士たちが少年を担ぐ騎士を見かけ、口々に彼に対しての意見を述べた。

「おいおい、あいつが抱えている子どもはなんだ?」

「さぁ? 恐らく例の子どもだろう」

「あぁ、国に隠れ住んでいる孤児って噂の」

「この国も平和なのだけどなぁ。あの子どもが一番の問題を引き起こしていたらしい。」

「しかし、その子どもを捕まえたのがあのヤマトっていうのもなんか癪に障るな」

「あぁ、あいつ本当はどこの貴族の者でもないのだろ? スタージュン家に拾われただけの平民。しかも、異邦の民って噂じゃないか。髪も肌も俺たちとは全然違う」

「あぁ、あんな奴が俺達と同じ騎士だと思うと腹が立つよな。俺たちより位の高い」

「ああやって少しでも国のために活動して、評価を貰おうって魂胆なんだろうぜ。今までだってそうしてきたのだろう。いけ好かない」

騎士には彼らの陰口が聞こえていた。しかし、それを怒ることも何もすることはない。

この男、ヤマト=スタージュンは、まだこの町に『ウロボロス』が建設される前に、その建設の指揮権を持っていた貴族スタージュン家の領主が、建設前に国外で倒れていたところを拾われた身分なのだ。

 肌の色は他の者達よりも少し濃い肌色をしていることも自覚しているし、この黒髪も随分と珍しいものらしい。だから騎士になる前からこのような不当の目で見られることは多々あり、ヤマトにとっては慣れたものだった。それよりも、この小僧を、王の前に献上することにこそ今全力を尽くさなければと意気込んでいるのだ。

「はっ、離せ!」

抱えていた少年が目を覚まして暴れまわる。ヤマトはもう少しのところだったと溜息を吐く。少年は身体をひねらせてヤマトから無理やり降りた。しかし、身体には紐が巻き付けられており、腕も手錠をかけられているのでまったく動けなかった。足で逃げようとしたが、身体に巻き付いている紐の先をヤマトが掴んでいることもあり、思いっきり走って逃げようとした少年は受け身も取れずに転んでしまう。

「いってえ……」

「逃げるな。国王さまがどのような処遇を与えなさるか、判決を仰がなければならないのだから」

「うっせぇ! だからってここまでするこたあねぇだろ!」

「ここまでしなければ貴様は逃げるだろう?」

「ちっ!」

「おとなしくついてこい。次も逃げると今度は足も縛り付けるぞ」

ヤマトは少年を繋いでいる紐を引っ張りながら歩いていく。抵抗すると背中に紐が食い込んで痛いので、少年も仕方なくそれについていった。

 ヤマトは大きな扉の前で止まり、三度ほど扉を叩く。

「入れ」と声がした後、ヤマトは扉を開く。

「失礼いたします。彼の噂の少年を捕らえて参りました」

 ヤマトが扉を開けると、見慣れない書物の山に囲まれた部屋の奥で、大きな机に肘をついて王が座っていた。その左端に側近の男もこちらを不振そうに睨んでいる。少年を引き連れたヤマトの姿に、目の前の国王は驚いたような表情をした。その後、少し困ったように表情が歪む。

「……それはご苦労だったな。ヤマト=スタージュン。スタージュン卿もさぞ誇らしいであろう。」

「ありがたきお言葉です。このヤマト、この少年を野放しにすれば、今平和なオフィックスもこの少年に触発されて罪を行う不届きものが増える可能性があると考えました。現に、オフィックスの城下町付近の子どもたちはこの少年に憧憬の眼差しで見つめている者も多いと聞きます。」

「確かにそれはそうだな。かといって見せしめで殺すわけにもいかぬ。それこそこの国の者たちに悪影響だ。さらに牢に閉じ込めてもあまり良い効果はないと思われる」

「なぜでしょうか?」

「ヤマト=スタージュン。貴様は知らぬだろうが、そのコブラと言う少年の逃走劇を一種の娯楽と捉えている者たちもいるのだよ。彼はちょっとしたカリスマとなってしまっている。それを国が残酷に扱えば――」

「国に不評が飛ぶと?」

「その可能性を否定できないと考えておる。どうしたものか」

 国王はわざとらしく頭をかしげ、迷っていると、横にいた側近が耳打ちをしはじめた。

 それを聞いた国王はうんうんと頷く。

「ほぉ、そうだな。それがいい」

 国王は何か納得したように満面の笑みを浮かべた。少年はその表情に少しイラつき、睨みつけた。国王はそんな睨みつけたコブラを見つめ返して、またニヤリと微笑む。

「突然だが少年。貴殿は『星巡り』はしっておるか?」

「知らねぇー」

「貴様! 王に向かって無礼であるぞ」

 ヤマトは怒号をあげながら少年に向かって拳骨を喰らわせる。コブラは、ヤマトにぶつけられた拳骨が痛みで頭上がヒリヒリとしたが、痛がっていることをヤマトに悟られぬように表情を隠す。オフィックス王はヤマトに手の平を向けて、彼を静止させる。

「まぁ、落ち着きたまえスタージュン。お主はどうだ?」

「はっ、申し訳ございません。ヤマト=スタージュン。そのような知識を持ち合わせておりません。何分、よそ者なものですから……」

 ヤマトは少し申し訳なさそうに頭を下げた。コブラは自分より目線の下がったヤマトの頭上を見つめる。見慣れぬ黒髪が小さく揺れる。

「よいよい。ずっと昔の話で知っている者の方がむしろ少ない話だ。それではヤマト、この国の周辺に十二の王国があるのは知っておるな?」

「はい。それでしたら。アリエス王国・タウラス民国・ジェミ共和国・キャンス王国・レオ帝国・ヴァル皇国・ライブラ王国・スコーピア王国・サジタリア連邦共和国・カプリ学習院・アクエリア王国・そして最後にピスケス王国と全てで十二か国でございますね」

「うむ。わかったか、少年」

 少年は王に話しかけられたが、ヤマトの言っていた国全てを覚えきることが出来なかったので、思いっきり視線を逸らす。自分に教養がないことが今さらになって少し恥ずかしくなってきているのである。

「その十二か国が囲う形で存在しているのはこの大陸の守り神を祀るためなのだよ」

「守り神……ですか?」

「左様。遥か昔に、星の神を祀るためにこのような地に神殿を作る形でいくつも国が出来たと言われているのだ」

 王は誇らしげに、しかしまるでついさっき知ったかのように大げさに語る。その様子は自慢げに語る子どものような話しぶりだった。

「そ、それで王よ。失礼ながら、その『星巡り』の伝説と、この少年の処遇はどのような関係で?」

「え? あぁー、つまりだ。星巡りとは、この中央に位置するオフィックス王国から円を描くように各国で儀式を行い、天空におわしまする星の神の加護をこの国、そして十二の国へお与えになっていただく。そういう儀式なのだ。その儀式の使者に少年を起用したいと思う。少年はこの任務を達成することで恩赦を与えよう」

「そ、それはよろしいのですか!? オフォックス王よ」

 ヤマトは困惑気味に王に対して叫ぶ。少年は真横から発せられるヤマトの怒号に耳を傷めた。彼は自分が手錠のせいで耳を防げない事実を恨んだ。

「あぁ。国で放置では危険だとお主も言う。ならば、しっかりとした任務を与えて、この国の外へ行く。それが賢明な判断だと私は思う。違うか。ヤマト=スタージュン」

 ヤマトはオフィックス王が放つ気迫が変わったことを感じ、思わず萎縮する。

「いえ、確かにそうではございますが、先ほどから聞く『星巡り』と言う儀式はこの国にとってはとても大事なものだと判断します。それを、このような少年に任せてもよろしいのでしょうか?」

「もちろん一人では行かせない。それではこの少年はただの追放と一緒になってしまう。それは処刑と同じだ。そこで、ヤマト=スタージュンよ。お主も同行をお願いしたい。私もそろそろ『星巡り』の儀式を行わなければと考えていたのだ。国の名物小僧の罪と、大事な儀式の着手。この二つを成し遂げて頂けると私は大いに助かる。それに、この少年。聞けば大層な身体能力を有しているというではないか。お主も優秀な騎士であると聞き及んでおる。二人で行けば各国でもうまくやっていけるだろう。この少年をお前の補佐として使わし、同時に、お前はこの少年がしっかり任務をこなすことが出来るかを監視する。どうだ、良く理解したまえ。これは大事な任務だぞ。ヤマト=スタージュン。君の父、スタージュン卿もさぞお喜びになることだろう。」

 そういって国王はヤマトの目をじっと見つめ続ける。ヤマトは思わず冷や汗をかく。先ほどまで明るそうな雰囲気を纏っていた王が、瞬く間に鬼気迫る気配で見つめる。ヤマトはまるで蛇に睨まれたカエルのような気持ちに襲われた。

「は、はい。わかりました。このヤマト=スタージュン。このような大命をお預かりいただき、まことに光栄でございます」

 ヤマトは片膝をつき、国王の前で頭を下げた。国王はそれを確認した後、口角が上がり、笑みを浮かべているのを少年はじっと睨んでいた。

「では、明日までこの少年を牢に入れ、明日に出発してもらう。ヤマト=スタージュン。しっかり家族に伝えておけ。長旅になるぞ」

「わかりました。それではこれで」

 ヤマトはそういって少年を引っ張り、部屋を出た。

 ヤマトが出ていって、しばらくすると国王はほっとしたように溜息を吐いた。

「うまくまとめましたね。国王様」

 二人が去った後、側近の男は口元を手で隠しながらも、笑い声が漏れていた。

「はぁ……。これで『国の罪人』と『嫌われ者の異邦者』と『星巡り』の全てが片付いたな。いやぁ、よかったよかった」

「騎士団の中で、ヤマト=スタージュンを快く思わない者も多かったですからね」

「あぁ、優秀な男なのだがなぁ。優秀が故に、奴は国の騎士団としては少々回りの士気を下げる。これで全て解決。この国から不穏分子が全て無くなり、一安心だよ」

 国王は椅子に背中を預けて、下卑た笑みを浮かべた。


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