この男、何者なんだ!?
あっっっ、また話数忘れました…
猿の魔物は普通、魔猿と呼ばれているらしい。偵察に来た個体より一回り大きな個体が群れをなして私たち3人に向かって襲いかかってくる。
「名乗り忘れてたな、俺はジーノウだ」
「この状況で自己紹介すんなよ!」
思わず私は突っ込む。いつもならボケる役のはずが、リルさんもこのジーノウという男も私を突っ込み役にしてくる。
木の上から5匹ほど降りてくる。さすが猿だけあり、手に武器を持っている個体も見られる。
隣でリルさんの魔力が急激に大きくなったのが感じられた。そしてリルさんの十八番が放たれる。
「炎術・紫炎!」
前回より威力は下がっているが相手の前衛を焼き払うには十分すぎる威力を発揮した。辺りの気温が上がる。
「私が魔力を回復してる間残りを頼みます…」
「了解!」
私が返事をしてる間にジーノウは構えていた片手半剣を振り上げ斬りかかっている。一瞬刀身に虹色の輝きが見えたのは幻覚だろう。いやまさかね。
私は明るさ故しばらく使っていなかった梟眼を起動する。ちなみに身体強化と気候変動耐性は常時発動中である。
焼かれた味方の屍を乗り越え、1匹が私に飛びかかってきた。よく見ると短剣を持っている。
「はあっ!」
激しく切り結ぶ。猿とはいえ知能の高さは他の魔物に比べ頭一つ抜けている。武器を扱うのもお手の物のようだ。
そういえば人型の魔物ってまだ出てきてないけどこれから出てくるのかな…?
そうしてるうちに敵の加勢がやってくる。ふと先の戦いの光景が頭をよぎる。このままだと二の舞だな…。
私は隙をついて目の前の魔猿の胴体をまっ二つにする。
横ではジーノウが余裕で5匹まとめて斬り払っていた。多分だけどこの男見かけの数倍強いやつだ。
私は勢いのまま突進して思いっきり斬りつける。身体強化を獲得してから相手の動きが数段遅くなったように感じる。まあ自分が速くなっただけなんだけど。もう一つ、生半可な攻撃ならダメージをほとんど受けず、すぐに回復できるようになったことが大いに役立ってることかな。
さすがに相手も怯んだのか私たちに距離を置くように周囲を囲んで近づいてくる。リルさんは回復したようでいつの間にか私の後ろに立っていた。
よく見てみると、最初に探知した時より数がぐっと増えている。他にも仲間がいたんだろうか。とにかく厄介なことこの上ないのだけれど。
「聞けよ、俺に提案があるんだ」
ジーノウが口を開く。彼を完全に信用しきれてない私は少し尖った言い方で聞く。
「何よ…」
「この先に洞窟みたいな所があるんだ。とりあえずこの包囲を突破してそこに向かいたい」
「それは私も賛成です。ここに留まると不利になるばかりですし…」
何か反論するかと思ったけど思ったより素直に承諾するリルさん。
「リルさんがそう言うなら私も良いけど…」
私も渋々承諾する。洞窟に行って何をするんだろう。籠城戦するにしても相手の数が多すぎると思うんだよね。
「俺の合図で12時方向へ真っ直ぐ進むんだ。わかったな?」
12時の方向ってどっちだ?とキョトンとした顔をしてるとリルさんが小声で正面ですよと教えてくれた。それを聞いて、なるほど、時計を参考にしてるんだなと勝手に納得する私。
そうしてるうちに敵はジリジリと近づいてくる。あと5mもないと言うところまで近づいてきた時だった。
「行くぞ!」
ジーノウが力強い声で合図する。いやそれ敵にバレバレじゃん…。
敵もこのタイミングで一斉に飛びかかってきた。ジーノウが邪魔だてする敵を薙ぎ払ってくれるので私とリルさんは近くの奴らだけを相手するだけで十分だった。
突破口を確保して私たちは走り出す。魔猿は普通の猿とは違い地上を走ることができるようで走って追いかけてきた。それに結構速いのが悔しい。身体強化がなければ確実に追いつかれていただろう。
しかしジーノウという男、足が速いこと速いこと…。後ろを気にしているうちにずっと先に走って行ってしまった。こんな不安定な足場でよくあんな速く走れるよね、と感心している私。
しばらくして洞窟らしきものの入り口が見えてきた。狭そうだしやっぱりあそこに閉じこもるつもりなのかな…と心配になる私。それくらい狭い入り口だったのだ。
しかし人の造ったこのダンジョンに洞窟なんてあるのかと感心してしまう私。今まではひたすら石の廊下だったのが荒地の階に下りてから一気に雰囲気が変わった感じがする。深く潜るとどんどん険しくなるってことなんだよねきっと。
洞窟に着くとジーノウが言った。
「お前らは後ろから魔法の援護射撃を頼む。俺は入り口を塞いで全滅させる」
いやいや私魔法使えないんですけど…。て言うかやっぱり一対一戦術ね。なんかどっかのボクサーもやってたって聴いたことがあるような…?
そうしてジーノウによって死体の山が作られることになったのだ。リルさんもかなり魔力を使って撃退している。一方私は…傍観するだけ。嗚呼悲しきや。
「うおおお!!!」
ジーノウは雄叫びをあげて魔猿を目まぐるしい速さで駆逐していく。中には冒険者から奪ったと思われる剣を使ってくるものもいたが関係なく斬り捨てていく。
一方、敵も数だけは多く中々途切れない。次から次へと新手が飛び出してくる。そうして30匹程始末し、流石に少し疲労を見せ始めるジーノウ。
「魔猿退治はここからが本番ですね…」
リルさんが不吉なことを言う。
「ああ。そろそろくるぜ」
え、なになに、なんのこと言ってるの二人とも??
その時遠くから獣の叫び声が聞こえてきた。耳の奥が震え、心臓の鼓動が早くなる、不気味な鳴き声だ。
探知にこれまで探知したどんな魔物よりも大きな反応をキャッチする。おそらく黒狼三頭合わせても足りないくらいの大きさだろう。と言うことはボスなのか。
それにしてもリルさんやジーノウの反応からすると勝てて当然のような印象を受けるけどビビってるのもしかして私だけ…?なんだか嫌な予感するけど…。
すぐに声の主は姿を現した。いかにもと言った大猿だった。
「貴様らがワシらの仲間を殺すんだな?」
どすの利いた声で話しかけてくる。と言うか人間の言葉が話せるのか…。
怯まずにジーノウが答える。
「お前らが邪魔しなきゃ殺したりはしねえよ、それに俺もあの2人も早く進みたいんだ。悪いが道を開けてくれないか?」
「ふん、ワシに勝てたら開けてやろう。その前に仲間の仇打たせてもらう!」
そう大猿は告げる。ジーノウは余裕そうな笑みを浮かべている。猿のボスよりこいつの方が怪しいよね…。
「それならお前もバラバラにするだけさ。さあやろうじゃねえか」
大猿の後ろから今までのより少し大きめな猿が2人出てくる。おそらく私たち3人とそれぞれタイマン張るつもりなのだろう。いいわ、この剣で分からせてあげる。
そうして私はこのダンジョンで初めてボスと言う存在と戦うことになったのだ。メインはジーノウだけどね。
ついにきましたボス戦!
これは盛り上がる予感がしますね。ジーノウという男の実力もだんだんわかってくるのでしょうか。