宝箱を開けるのに苦戦する主人公
勉強って大事だなと今になって思い始めています。
ということで8話目です。
「思ったより宝箱って開けるの難しいんだね…」
宝箱は、荒地の階の階段の途中にある小部屋の中にあった。薄暗くて少し君が悪いけどまあダンジョンなんてそんなもんかと割り切って宝箱を開ける作業に入った。
だが作業に入ったはいいものの、この宝箱全く開かないのだ。一体このダンジョンどんだけ人入ってないんだよ。確かにミノタウロスとかいうやつも怖いけどさ、それに勝る冒険心のあり私を守ってくれそうな強い男はいないのかな。
「アキさん、こうしたらいいんじゃないですか…?」
「確かにそうかも」
「違います、こうですよ」
「余計な指示をしないで!」
「あ、こここうですよ?」
「ああもうわかってるよ!」
「いやだからですね…」
「…」
そんな会話を繰り広げ、やっとあと一歩で開けられるところにたどり着いたのは開ける作業に入って小1時間経った頃だった。
「ほんと疲れるんだけどなにこれ…」
「かつて共にいた勇者も最初はそんな様子でしたよ」
「いや別に勇者になりたいわけじゃないし…」
というかリルさん勇者と旅したことあったんだね。勇者との信頼関係があったからこそここに敵を閉じ込められたのかもしれないな…。
私が最後の力を振り絞り大きな蓋を持ち上げると、ギギギというとても不快な音を立てて宝箱は開いた。そして気になる中身を取り出そうと中を覗く私。
中には半透明な石が幾つか入っていた。
「リルさん、これは?」
「それはこの間説明した魔法石です」
「へえ、宝石みたいだね」
他にも何かあるのかと探したが、なんと何も無かった。いや1時間の努力の結果がこれですか……。なんとも貧相な宝箱だ。まあそんなに深く潜ってないし仕方ないのかもしれないけどさ。
と、その時リルさんが私を呼んだ。
「アキさん、ちょっと来てください」
「何かあったの?」
魔法石しか手に入らなかった不満を込めながら聞き返してリルさんの方へとだるそうに寄る私。だがそんな私の態度を一瞬で吹き飛ばすものがリルさんの手にはあった。
リルさんの手には、燻んだ薄紅に輝く刀身の剣が握られていた。
「何それ、すごいかっこいいじゃん。どこにあったの?」
興奮してまくし立てる私に対して、リルさんは落ち着いて答えた。
「そこにあるものはなんだと思いますか?」
リルさんが指差す方を見ると錆びた金属のような物がこんもりと積まれていた。よく見ると白い棒のような物もその金属の隙間から見える。
「ここで息絶えた冒険者の物だったんだね…」
「ええ…恐らく…」
私は亡き冒険者の方を向き手を合わせる。
「何をしているのですか?」
「私の生まれた国では死者に手を合わせてその冥福を祈る風習があるんだよ」
「なるほど…それでは私も祈るとしましょうか…」
そう言ってリルさんもぎこちなく手を合わせて祈る。薄暗い小部屋にひと時の静寂が訪れる。
数秒だが祈りを捧げた私たちは改めて剣に向き直る。
私は剣に対する率直な疑問をリルさんに投げかける。
「なんで装備に使われてる金属は錆びてるのにこの剣は全く劣化してないのかな?」
「それは私も疑問なのです…なぜ普通の冒険者が騎士が持つような最高級の剣など持ち合わせているのかと…」
なんとなく高級で強そうだと思ってたけど最高級なんだねこの剣。てことは大儲けじゃん私達。これで努力が報われたね。
「しかしこのタイプの剣を扱うには持ち主と剣の相性が大切になってくるのです…私は魔法が使えるからいいとして、アキさんに使いこなせるか…」
どこかにあったな。持ち主となる魔法使いを選ぶ杖の話。それは置いておいて。
まずリルさんが剣を持ってみる。大きさは60cmあるかないかの中くらいのサイズ。特殊な剣だからなのか普通の物より軽そうだ。リルさんは片手で構えている。
素振りでもするのかと見守っていたらリルさんが私に渡してきた。
「どうやら私には合わないようです…」
「どうやってわかるの?」
「よく見てください…この刀身の輝きが消えているでしょう…剣に適性のある者が持つと魔法石の活動が活発になり刀身が輝くのです」
「まるで剣が生きているみたいな話だね」
「そうですね…全くその通りかもしれません…」
意味深な余韻を残してリルさんが繰り返す。こういうこと言う時リルさんがどこか寂しそうな顔をしてるのはなんでだろう。
気を取り直し私が持ってみる。柄には余計な装飾はなく、小さな赤い宝石が一個はまっているのみだった。
最初にズシッと重みが伝わるが、しっかり持ってみるとそこまで重いわけではないことが分かる。私は試しに素振りしてみる。
「えいっ!」
振り心地は抜群。黒狼戦で落として無くしてしまった魔物の剣とは比べ物にならないほどだ。
よく見ると刀身が燻んだ薄紅から半透明な薄紅に色を変えていた。
「リルさん、これって…?」
「ええ、アキさんが持つにふさわしい剣ということですよ」
リルさんがにこやかに言う。
改めて、小学生の頃男子たちが憧れてたような物を自分が高校生にもなって持つのだと思うと笑えてくる。小学生の時、ちょうど剣で戦うアニメが流行ってて、普段ゲームしかしない男子もチャンバラとかしてたんだっけ。
「ついでに言っておきますと、魔法石を混ぜて作られた剣は魔法から物理攻撃までほとんどの攻撃を防ぐことができます…」
またリルさんのさらっと爆弾発言コーナーだよ…。つまり私がこの剣を完璧に使いこなせれば最強ってことでしょ?
「もちろんアキさんの力量次第ですがね…弱者が最強の剣を持っても使いこなせなければ無用の長物ですから…」
「そうだよね…私は強さを求めてるわけじゃないけど最低限の力は持ってないといけないよね…」
この弱肉強食のダンジョンでは力が全て。しかも最終的にはミノタウロスとか言うバケモノの相手をしなければいけないのだ……。
「さて、新しい武器を手に入れたことですし次の階に進みましょう」
「ミノタウロスなんかこの剣で真っ二つよ!」
リルさんがクスッと笑う。しかし私の胸には驕りとは違う思いがあった。自分がこのまま強くなってしまっていいのだろうかと言う疑問、そして刻一刻と近づくミノタウロスとの戦いへの不安。
◇◇◇
階段を下るとそこには鬱蒼と木が茂っていた。なんとも気味の悪い所だ。しかも蒸し暑いと言う…まあスキルのおかげで一瞬ですっきり爽快になったけど。いやすっきり爽快って…。
「足元に気をつけて下さいね。ぬかるんでいたり倒れた木が邪魔をしている所がありますので…」
言われて地面を見ると確かに湿っぽいようだった。流石リルさん、気づくのが早いね。
足元を確かめ、空間探知で敵の位置を探りながら慎重に進んでいく。どうやらここには際立って強い魔物はいないようだけど、かなり大きい群れで行動してるようで相手にすると厄介そうだった。
ただ、人が全く来なくなったとはいえここはダンジョンである。魔物は冒険者を倒すために存在している。つまり戦いは避けられないのだ。
歩き続けること2時間程。木陰で休んでいた時のことだった。
「!!」
「アキさんも感じましたね…」
「うん、近づいてきてる」
この階に踏み入れた時から探知に引っかかり続けていた魔物の群れが急に近づいてきたのだ。推定でも10匹以上はいる。
先の戦いではリルさんと私が離れ離れになってしまってピンチの時に助け合えなかったことが敗因だった。その反省を生かして今度こそは勝たないとだ。それに今回は私には力強い武器がある。途中でリルさんに簡単な剣の手ほどきを受けたこともあり、以前より気持ちも落ち着いている。
「森という環境、群れで活動、あまり大きくない体…どんな敵だと思います…?」
私の頭に一つの動物のシルエットが浮かぶ。
「………猿…みたいな魔物?」
「…正解だ」
「誰だ!?」
突然後ろから現れた男に驚き飛びのく私とリルさん。リルさんは驚き様からどうやら気づいていたようだけど、完全に不意をつかれた私は一瞬パニックになる。
立っていたのは中年手前くらいの男だった。地味な服装に普通の剣。何から何まで一般的そうな装備の男だった。ただ一つ顔に深い傷が刻まれていることを除いて。
男が口を開く。
「待てよ、俺はあんた達と戦うために来たんじゃない。ここはちょいと協力し合おうじゃないか?」
私を二度目の驚きが襲う。
あれ…?いつの間にか言葉がわかるようになってる。これって…?
頭に例の文字が浮かぶ。
精霊リルニノヘンカンニヨル
えっ、つまりリルさんがわかるようにしてくれてるってこと?待って全然わかんないよ…。
「おい、ボサッとするな。奴らの動きは素早い。剣を構えとけ」
男の声に我に帰る私。いけないいけない。混乱に飲まれて本当の敵を見失うところだった。
しばらくして群れの一匹が木の上に姿を現す。偵察のために来たのか、すぐに去っていく。
この前のような失敗はしない。してはいけない。そう言い聞かせ剣を握る手に力を込める。
私とリルさんと正体不明の男とのデコボコな共闘が始まろうとしていた。
ついに来ましたこの物語で二人目の男性キャラ!
この後の展開が気になりますね。え?ならない?