リルさんのカクシゴト
最近ベイブレードを弟とやってます。ただのコマのくせに当たると痛いですね。
苦しむリルさんを前に私は悟った。無理に力を使って元気に見せていたこと。本当は結界を張る魔力など無く、私が寝ている間自分で魔物を監視してくれていたこと。
「アキさん…隠していたこと…今伝えます…」
私は頷く。
「私は大精霊・リル。元々はこのダンジョンを含む地域一帯の守護者でした」
やっぱり大物だよね。どっかで読んだ知識だと精霊は魔物なんて倒せないはずだし。
「ことは300年ほど遡ります。人間界で暴れていた牛魔人を、当時世界一の強さを誇った勇者が命からがらここに閉じ込めたのです」
最強である勇者が命を削るほどの魔物がいたのか…。なんか昔の人大変そう。
「それでどうなったの?」
「奴は最後の力を振り絞り、私の生気を吸う呪いをかけたのです。厄介なことに、この呪いは術者か対象者が死ななければ解けない強力な呪いで…」
あのリルさんだもん。自分でできることなら私に頼ったりしないよね。だんだん話が見えてきたぞ。
「奴は今はどうしてるの…?」
「もちろん、私にかけた生気を吸い取る呪いのおかげでピンピンして最下層にいますよ…」
「……つまり…私はそいつと戦わなきゃいけないんだね?」
大精霊であるリルさんでも解けない呪いをかけ、勇者の命まで脅かすと言う牛魔人。
「…奴に挑んで命を落とした冒険者や騎士は数が知れません。いつしかここには人が寄り付かなくなりました。そんな時アキさん、あなたが現れたのです」
なんてタイミングで転生してきたんだろう私。不運というか、偶然にもほどがあるでしょ。
「私なんか頼ったって勝てっこないよそんな奴…」
「勝てる可能性があるからこそ私はあなたに賭けることにしたのです…どうかお願いします…」
なんで私なんかにそんなこと押し付けるの。私は戦うためにこの世界に来たんじゃない。そもそもなんでこの世界に来たのよ。私だって本当は帰りたいよ。でも向こうの世界で私はおそらく死んでるから帰れない。だからここ生きていくって決めたのに。
「今すぐにじゃなくてもいい。私が消えてからでもいい。ただ奴を生かしておいたらあなたまで同じ目に遭ってしまう。あなただけが頼りなんです…どうかこの願い聞き入れてくれませんか…?」
リルさん、そんな悲しそうな目で見ないでよ。私がこのダンジョンに迷い込んだ時から、そいつと戦う運命は決められていたのかも知れないけどさ。
「……いいよ、その願い受けるよ」
数秒の間だけど覚悟を決めた私は言う。
「一つ聞いてもいいかな」
「なんでしょうか…?」
「その…期限はいつまでなの?」
リルさんが弱々しく笑う。
「奴と会うまではなんとか持たせますよ。それが大精霊としての意地です…」
また厄介な頼みごとを受けてしまったよ私。よく友達から宿題やってとか頼まれて断れなかったよね…。
それにしてもあんな顔で頼み事されたら断れないでしょ普通。それも命の恩人の頼み事を。
そこで大事なことを言い忘れがちなリルさんが大事なことを言う。
「言い忘れていましたが、奴を倒せばその先に転移魔法陣のある部屋があり、外に出られるはずですよ…」
「えっ!色々やる気出てきたわ…そう言うこと先言ってよ」
「そのやる気のままサクッと倒せればいいんですけどね…」
切り替えの早い私は急にやる気が湧いてくる。
絶対倒すよ、そのミノタウロスって奴。リルさんを苦しめ、よく知らないけど最強の勇者を苦しめ、出口を塞ぐ最低な魔物め…!!まあその勇者さんがさっさと倒してくれればこんなことにはならなかったんだけどさ。
お互い黙って岩陰から荒地を見る。どこから光が入るのかはわからないが、梟眼を使わなくても見えるほど明るい。あまりにも広く、所々岩や影があるため見渡せるというわけではないが。
リルさんに聞いてみると面白い答えが返ってきた。
「なんでこの階は他の階より明るいの?」
「それはですね、今までの階は地震の影響で魔法による光が消えたんでしょう」
「魔法の効果が消える…?それも地震で…?」
魔法の原理とか法則をイマイチ知らない私はさらに聞く。
「対象物である階層が崩れたりしたことによって効果が消えたのでしょう。流石にここまで潜ると影響が少ないですがね」
なるほどね。それにしても魔法って不思議だよね。いつか私も最強の魔法とか使えるようになりたいな。最強の魔導士とは私のことだ!なんて言っても笑われないだろうしね。
「次はリルさんの寝る番だよ」
私に唐突に声をかけられ驚くリルさん。
「私は眠らなくたって…」
「寝なくてもいいからとにかく休みなよ、見張りは私に任せてよ」
探知したところ、近くに大きな魔物はいない。
「そうですね…それではお言葉に甘えて休むことにしましょう…」
寝袋のある方へと歩いていくリルさんを見送り、私は退屈な見張りをするのだった。
◇◇◇
「あっ、リルさん起きたんだね?」
見張りを始めてから3時間ほど経った頃、リルさんが戻ってきた。
「私は寝てなどいませんよアキさん…それに独り言はあまり大声で言うものじゃないと思いますがね…」
「えっ、聞こえてたの!?」
「もちろんです」
流石に私も3時間を無駄にするような女ではない。この一人の時間を有効に使うべくスキルの色々な効果を試していたのだ。ちなみに独り言というのは、スキルをひたすら試すのに飽きつい愚痴を言ってしまったことだろう。
そして私の3時間の努力に成果はあったのかと言うと、少しあったという表現が正しいかな。何やら荒地の気候に対応したのか気候変動耐性というよくわからないスキルを獲得することができた。具体的な効果は、熱と寒さへの簡易的な耐性と、気候変動への体の即座な順応というものだった。
正直あってもなくてもいいような気がするけど、だんだん私が人じゃなくなっていくのが感じられてくるようで怖い。いやそもそも旅人っていうスキルのおかげでほぼ不老不死みたいな体らしいし、そこにさらに寿命長くするスキルが足されただけなのかも。まあ一度死んでるしもう人間やめどきなのかもね!てへぺろ!
一方成果が上がらなかったのは既存スキルの練習だ。近づいてきた弱い魔物を撃退する時梟眼をフル起動してもあの光は見えなかった。ただ空間探知はいつも使ってるおかげか、少し精度が上がったような気がする。そもそもこの二つのスキルって相手を見るという効果が少し被ってるよね。まあどっちもなくちゃならないスキルだけど。
「そういえばリルさんってどんなスキル持ってるの?」
「私ですか?聞く価値もない平凡なものばかりですよ…」
「そんなこといいから教えてよ!」
私が急かすとリルさんは仕方なさそうな表情をして話し始めた。
「まず魔力操作ですね、これは魔法が使えるようになる例のスキルです。もう一つが幽体化です。これはこの前のように対象に乗り移ったりする時に使う、精霊などの完全な実体を持たない者達の固有スキルです」
「へえ…他にはないの?」
「作業の効率化を図るものや防御系のスキルなどですかね…目立って強いスキルは持っていないので…」
この時私の胸に一つの疑問が浮かんだ。
あれ?私と初めて念話した時スキル使ったんじゃなかったの?
だがその疑問は口に出すまでもなく消えてしまった。それがリルさんに隠された真の能力だと私が気づくのはもう少し後なのだった。
「さあ、時間はあまりないですよ。宝箱のある場所まで行きましょう?」
そう言ってリルさんは歩き始めたのだった。
リルさんまだ消えちゃダメだよ…。