支離滅裂な精霊・リル
六話目でしたっけ?
私は今人生初の宝箱を開ける作業に突入しようとしている。
宝箱の大きさは結構大きい。おそらく座卓くらいはあるだろう。座卓の標準的な大きさがイマイチわかんないけど。
「中から何が出てくるかめっちゃ楽しみなんですけど!」
「まずは開けてみることですよ」
そうリルさんに諭され、私は開ける作業へと移っていく……。
◇◇◇
遡ること半日前。
私は黒狼との戦いに負け、リルさんに連れられ荒れ地の階へとやってきた。リルさんは宝箱の場所が近いと言ったが、傷も多く疲れていた私は休みたいと申し出た。リルさんもさっきの戦いの影響かかなり疲れたようだったし。
「そういえば私、今までよく休憩なしで進んで来られたな〜」
どこも明るさが同じ。理由はわからないが疲れがたまらない。この二つのことから、私は一日以上ぶっ続けでこのダンジョンを冒険していたようなのだった。
「秋さんのスキルが関係しているんですかね…幾ら何でも肉体的な疲れを感じずに動き続けるのは不可能ですから…」
私やっぱり異世界から来たから何か変なのかな。なんかこの世界に当てはまっていない気がするんだよね。
「そういえば休んでいる間に敵に襲われたりしないの?」
「そこは心配なさらずに、私の結界魔法で敵の視界から外すことができますので…」
あんた有能すぎかよ。これで安眠が保証されたわけだ。
それにしても何も食べないってのは何か物悲しいよね。今まで体重とか割と気にしてた自分がバカらしくなってくる。
「秋さん、私もベッドまでは持ち合わせていないので休むのはここの岩陰でいいですか?」
私も最初は木を組んでテントでも作るのかと思ったけどよく考えたらここ荒地で木とか生えてないんだよね。気持ちよくはないが地面で寝なきゃいけないよね。リルさんは私の答えを聞くこともなく結界を張り始める。
「逆にベッドを色んなところに持ち運べる人の方がすごいでしょ」
私が笑いながらいうとリルさんはこう答えた。
「いえ、空間を操る魔法を扱うことのできる者は最低限の生活用品を自分の亜空間に仕舞っておくそうですよ。まあそんな高度な魔法を使える人間がこの世界に何人いるかは知りませんが」
いやいや全く参考にならないこと言わなくていいよリルさん。それつまりできなくて当然ってことでしょ。そもそも亜空間とこの現実世界を繋ぐのって相当やばいことじゃないの?
そうしてるうちに手際のいいリルさんは魔法の結界を張り終えた。気のせいだろうか、私の前に最初に現れた時より元気になってるように見えるのは。
そんなことは置いておいて、私も準備の手伝いをする。
そこで私はあることを思い出す。私制服のままずっと戦ったりしてきたんだよね。うっわ、黒狼に襲われた時に穴空いてたのか…流石に恥ずかしいわ…。
気づいたのかリルさんが私に声をかける。
「服はここを出てから買いに行きましょう。生憎私はモノづくりに関わる魔法の才能には恵まれなくて…」
「いいよ別に、私なんか魔法さえ使えないしね。そもそも魔法ってどうやって使うの?」
「魔法は魔力操作というスキルを獲得することで使えるようになります。でもこのスキルが厄介者でして、どのような方法で努力したり練習すれば獲得できるのかというのがいまだに判明していないんです」
あれ、今すごい重大なこと聞いたような…。
「スキルに具体的な入手方法があるの?」
「あっ、言い忘れてましたかね。スキルの主な獲得方法は、努力、生まれつき、身の危険の三種類ですよ」
「なるほど…」
うーん。なんかそれっぽいことは言ってたけど、ここまで具体的に教えてもらった覚えはないぞ……。これはしっかりと覚えておかないとね。
気になっていたことがもう一つ。
「リルさん、その寝袋みたいなのどこから持ってきたの…?」
「これですか?最初から持ってたじゃないですか、何を今更」
リルさんは笑顔で答える。いやこの精霊言うこと支離滅裂すぎるでしょ。言っちゃ悪いけど、しょぼいワンピース一枚着ただけの格好で現れてさ、どこにそんな物隠すんだよ…。
まあ寝心地よくなるし黙っておこうかしら。
「リルさん、私の体に憑依した時に私について何かわかったことあったかな。例えば旅人のスキルの内容とかさ」
「はっきり言いましょう。旅人については何もわかりませんでした」
「え〜!」
「梟眼や空間探知はお借りすることができましたが、旅人は意図的に使うことができなかったのです。スキルの存在自体が私には感じられませんでしたよ」
なんすかその反応。まあ私も「旅人」の存在知ってから何回も発動を試みてるんだけど、頭にあの文字が浮かんでこないままなのだ。
「スキルというものは、未だにその存在の意義や種類などがほとんど分かっていないこの世界でも異質なものなのです。秋さん一人で悩むことではありませんよ」
「そう言われてもさ、自分の物は自分で使えるようになりたいものだよ?」
「となると、この探検の第二の目的はそのスキルの解明ですね。」
第一の目的が脱出って言いたいんだろうね。というか言葉足りなすぎだよ。
こんな調子でくだらない話を延々としていたら軽く3時間程経っていたようだ。途中から横になって話していたので、寝る必要のあるかどうかわからない私の体にも眠気が襲ってきた。
「魔物きたらちゃんと起こしてよねリルさん」
「安心してください。精霊は眠らない種族なので」
そんなこんなで、私はあまりにも支離滅裂な精霊の隣で眠りにつくのだった。さっきまで気を失ってたけど。
◇◇◇
幾らか経ち、私が意味もなく目を覚ますと、横のリルさんの気配が消えていた。
どこに行ったんだろう。私は寝袋をそっと出てリルさんの姿を探す。
いた。岩陰の出口に一人で立っていた。けど何をしているんだろう。よく見ると苦しんでいるようだ。慌てて駆けつける。
「リルさん、大丈夫なの?」
「アキ…?」
弱々しそうに答えるリルさん。
「具合でも悪いの?しっかりして!」
辛そうにリルさんは答える。その言葉は衝撃的だった。
「私はもう長くはありません…」
突然の死が訪れそうですね
また話し相手がいなくなっちゃうよ…寂しいなぁ(他人事)