リルさん頼りにしてますよ!
何話目でしたっけ?
「ふんっ!」
狼のような獣が一匹前から飛びかかってきたところに合わせ、目を思いっきり突く。でも外れた。手応えはあったんだけどね。
どうやら目ではなく鼻のあたりを切り裂いたようで、獣は痛みに悶えながら後退していく。
その隙に後ろからもう一匹来たようだ。リルさん頑張って!
リルさんが叫ぶ。
「紫炎!」
紫の炎が沸き立ち、飛びかかる狼のような獣を焼き尽くす。私の周りにも魔法の力を帯びた熱気が漂ってきた。これってきっと結構すごい類の魔法だよね。やっぱりあんた弱く見せてたでしょ。
リルさんのことはもう放っておこう。そういうことで前から来たもう一匹に私は意識を集中する。
困ったらリルさんが助けてくれる。これは訓練よ。そう訓練。何も恐れることはないの!
その時、獣の足から白い筋のような光が浮かんで消えたように見えた。その筋は私に向かって来る獣の爪の軌道とほとんど同じ場所を通って描かれているように思えた。
もしかしたら梟眼には敵の攻撃の予測能力があるのかもしれない。でもリルさんはそんなこと一言も言ってなかったような…?
一か八かその光の筋を弾くように剣を振るう。すると、見事に獣の爪の攻撃を流すことができたのだ。このスキル強すぎるんじゃないですかね?
力を込めた攻撃を意図せぬ方向から弾かれた獣はバランスを崩している。今がチャンス!ぶった切るぞ!
「えいやっ!」
獣の胴体に剣を振り下ろす。だがゴツンという固い感触があっただけで切れた感じはしない。
あっ、そういや切れないんだっけ。すっかり忘れてました。だがここで攻撃の手を緩めたらこっちがやられちゃうよね。
「ふふっ」
あっ、笑ったなコノヤロ!あなたやっぱり私のことバカにしてるんでしょ。
だが私にはこの予測眼がある。あんたのワンパターンな攻撃など私の眼には意味を成さないのよ!
激しい獣の連続攻撃を躱しては捌き、躱しては捌く。途中から背後にいたリルさんが遠くになり、代わりにもう一匹の獣が加勢してきた。これはまずい。二匹だと連携によって攻撃の仕方が変わるようで私の前にはたくさんの光が現れるようになり、どれを防げばいいのかわからなくなる。
だが相手のうち一匹は確実に疲れてきているはず。多少の怪我は覚悟で斬りかかった方が良さそうだ。
その時だった。
「っつ!」
激痛が肩に走る。完全に読みきれなかった攻撃が肩に当たったのだ。いや待って痛すぎるんですけど。助けを求めようとリルさんを見たが魔力が切れぎみのようで苦戦していた。
そうしてる間にも攻撃は続く。一つ、また一つと傷が増えていき、動きの鈍る私。このままだとほんとのほんとにやばいって。
思考しろ、私。一か八か旅人のスキルを使ってみるか?いや、リスクが高すぎる。名前からして役に立たなそうじゃないか。いつもの自信は何処へやら考えがまとまらずさらに焦る。隙をついて逃げ出すには怪我しすぎた。
獣が飛びかかってくるのが見える。見えてはいるが疲労から手が動かない。
「いたっ…!」
攻撃を流そうと振った剣ごと地面に倒される。強靭な足に踏みつけられ身動きが取れない。助けてよリルさん。私にかも死ぬのはごめんだよ。私のピンチに気づいたリルさんがこっちに来ようとしているが二匹の獣に邪魔をされて身動きが取れなくなっている。
獣の牙が光る。見えるだけでも3匹集まってきている。勝ち目はなさそうだ。せめて最後の抵抗と思い狼のような獣を睨みつける。そんなこと御構い無しに獣の牙が私に迫る。
そこで私の意識は途切れたのだった。
◇◇◇
何だろう。声が聞こえる。意識がぼんやりとしていて何が何だかわからない。
私は…?ここは…?今は何時?
そうだ、学校に行かなきゃ。何か悪い夢を見ていた気がする。私が車にはねられて死ぬ夢。ぼーっとしながら目を開けてみる。ここは家じゃない、どこか暗いところだった。目の前に光の玉が見える。ふわふわ漂っている。
(アキさん…アキさん…)
この声は…?
その瞬間私の脳は全てを思い出した。
(リルさん?私は何で…?)
(良かった、意識が戻ったようで…)
そうだよ、私死んだんだよ。そうして体を動かそうとすると、肩と腹のあたりに激痛が走る。
ってことは私まだ生きてるのか……でもどうやって…?
(全て説明しましょう。あなたの意識が途切れた後のことを)
うん、すっごい気になる…。
リルさんはそうして話し始めた。その話の内容とは驚くべきものだった。
簡単にまとめると、私が気を失った後、リルさんが私に憑依して獣と戦ってくれた。私の体この精霊に操られてたのか…。なんか変なことされてないといいけど。
そして、私はどうやら新たなスキル、「身体強化」を身につけていたようなのだった。もしかしてあの獣から奪ったのかな。まあそのおかげで傷ついた体でも戦うことができたらしいし神様に感謝だね。
一緒に教えてもらったが、奴らは黒狼という魔物で、群れで行動し、一端の冒険者なら歯が立たないと言われる強い種族だったんだとか。リルさんは転生者としての私の実力を見るために戦わせたんだろうなと勝手に納得する私。
リルさんはスキル、「旅人」については何も触れなかった。おそらく何かしらは知っていて隠しているのだろう。別に教える気がないなら私が自分で暴くだけだし?
なんか色々考えてたら少し元気が戻ってきたかも。いつの間にかリルさんも人の姿に戻っている。
「そういえばこの先に宝箱があったはずですよ?開けにいきませんか?」
「そうなの?中から何が出てくるかな?」
「そうですね、ここではまだ回復薬や魔鉱石などしか出てこないでしょうね」
紹介しよう。魔鉱石とは魔力が詰まった石で、宝石のように輝いている。これを加工すれば魔法の力を与えた道具を作ることができるぞ!また貨幣と交換して使うこともできる、そんな便利アイテムなのだ。
まあこの情報全部リルさんの受け売りなんだけどね……。
周りを見ると、戦いをした階から移動したようだった。地面はガサガサした乾いた土でできていて、空気そのものが乾燥している。
やっぱりダンジョンだからいろんな要素のある階がなきゃ面白くないよね。その中には私たちを完全に×しにきてるものもありそうだけど……。
そうして私天瀬秋は黒狼相手に死にかけながらも、リルさんの力を使いなんとか生き延びたのだった。さあ宝箱を開けるのがが楽しみだ。
ええ、秋が気を失ってる間色々あったようですが盛大にカットしましたね〜
さて、作者の権限で宝箱の中身を確率操作していいアイテム出させようかな…