新しい出会いってドキドキするよね!
四話目です。やっと話し相手ができます。よかったね!アキちゃん!
弱々しいその手のひら大の大きさの光は私の目の前で止まった。警戒して剣を構えていた私は少し緊張を解く。
ふと、頭に何かよくわからない声が聞こえてきた。いわゆる念話というものだろうか。音の響きがどんどん変わっていき、様々な発音が聞こえる。きっといろんな言語で私に話しかけているのだろう。だけどね、光の玉さん、私はおそらく異世界から来たからあなたの知らない言葉を使ってるはずなのよ。
と、思ったが何やら聞き覚えのある言語が頭の中に聞こえてくる。どうして異世界のそれも日本語がわかるのだろう?もしかしてこの世界にも日本語が存在するのかな…いやそれはないよね。
(……たは…だれ…で…か…?)
おそらく私について聞いているのだろう。私も念じてみる。
(私は天瀬秋。あなたは?)
(あっ、言葉が通じてよかった…)
疲れたような調子の声が頭に響く。余計だけど声の高さからは男か女かイマイチわからない。
(私はリル、今は力を失ってるけど…一応精霊です…久しぶりにここに人が現れたから来たのです…)
(大丈夫?ずいぶん弱ってるみたいだけど…?)
(ええ…このダンジョンが閉ざされた影響で…外からの自然エネルギーが入ってこなくなって…ここはもう何年もしたら魔物さえも住むのが難しい枯れた空間になります…)
口調からしてこの精霊は女だろうということがわかる。あまりにもどうでもいい。
(そうなんだ。それで私には何の用があるの?ここに来て初めて話せる相手ができたから私も色々聞きたいのだけれど…)
(まず外の世界について教えてくれませんか…?なにせ300年近く外に出てないもので…)
私の話聞いてたのかなこの精霊さん…まあ急ぐ必要もないしいいんだけれど…。というか300年間ここで何してんだよ。
(実は私も異世界からこっちへ来た途端に、ここに閉じ込められちゃったから、外のことはよくわかんないんだよね…言えることといえば、大地震が起きてこのダンジョンの入り口が塞がれちゃったことくらいかしら)
(そうだったのですか…それは大変でしたね…)
それからは私の質問攻めが始まった。弱ってるとはいえ、私に「容赦」の2文字はない。
リルに聞いて色々と知ることができた。まずこの世界のこと。これ聞かなきゃダメでしょ。
この世界には、私が疑った通り魔力があって魔法が存在する。そして、よく異世界モノの小説でありそうな魔王とか剣士とかもいる。300年前の時点では魔王は暴れておらず、世界は平和だったそうだ。
また、文明は遅れていて、その代わりに魔法が重宝されているとかなんとか。
私が入ったのはダンジョンの西の入り口で、街が近くにあったため昔は多くの冒険者が訪れていたという。この地震のせいか全く気配はなかったけどね。そういえば階段に松明の跡があったし昔は人の手が行き届いていたのかな。
次にスキルのこと。これ聞きたかったんだよね。
スキルは大体、色々と試行錯誤して手に入れるものらしい。また、身の危険を感じた時に偶然手に入れることもあるとか。まさに私だね。
スキルの与奪についてはほとんど例がないので知らないらしい。もしかして空間探知も偶然だったのかしら?
また、スキルにもランクがあって、梟眼や空間探知は冒険でも日常でも重宝するのでかなり上のランクらしい。旅人については全く知らないそうだ。
と、こんな感じで他にも色々な話を聞くことができた。さらに弱々しくなっちゃったけど。
(ひとつ頼みがあるんだけど聞いてもらえない?リルさん?)
(はい、なんでしょう…?)
(実は私、1人だととっても寂しいから、案内がてら一緒に来てほしいんだよね)
(そのくらいのことならお任せください。私もあなたには興味があるので…)
私ってそんな面白そうな人に見えるのかな?
とまあこんな感じでリルという精霊が私と一緒に行動することになった。この精霊、300年以上生きてるらしいし多分めっちゃ頼りになる。信じてるよ。
(あとね、念話するより口で喋りたいなって…)
(そうでした…ここでは人の姿になる必要がないのですっかり忘れていましたね…)
そうして弱々しい光の玉は人の姿へと姿を変えていく。光の中から私と同じくらいの大きさの、淡い光に包まれた人が現れた。いやまあ精霊なんだけど。
やっぱり異世界補正なのか精霊補正なのか顔立ちは美形だ。羨ましい。まじまじと見つめていたら微笑まれた。なぜ微笑まれるだけでこんなにも私の心を掻き回すのか。全く理解できませんね。
いつまでも入り口で立ち話をするのも退屈なので声を掛ける。
「じゃあ行こうか、リルさん」
「ええ、そうしましょう…」
歩きながら2人で色々なことを話した。やっぱり1人より2人だよね。全然気持ちが安心する。
なんで私の言葉がわかったのかという疑問にも答えてくれた。どうやらリルさんは固有スキルを持っていて、そのスキルを使うと言語などに関係なく知能を持つ全ての生物とコミュニケーションが取れるらしい。すごい便利そう。ていうかなんでこんな弱そうな精霊がそんなすごいスキル持ってるのかしら。
また、飲まなくても生きていけるけど衛生を保つために必要である水についても聞いてみたが…。
「この世界で水が、それもきれいな水が…簡単に手に入ると思ったら…大間違いですよ…?」
と一蹴されてしまった。嗚呼、風呂なんていい、せめて蛇口だけでも……。
そんな他愛もない話を続けながら石畳の廊下を歩いていく。
その時だった。私の空間探知に良からぬ影が一瞬写る。魔力もアリに比べれば全然大きい。
「リルさん、今のは何かわかる?」
「恐らく獣系の魔物です…注意してれば襲われることはないでしょう」
「わかった、ありがとう」
しかし私の頭ではどうやって倒すかしか考えていない。だってまた面白いスキル手に入りそうじゃん。しかも相手は一匹のようだ。勝てるぞ!
「絶対倒してスキルを手に入れるんだ!」
あっ、心の声がつい口に……。ねえ、リルさんそんな目で私をみないで。ずっと1人だったから独り言を言う癖がついちゃったんだってば。ていうか元々私イタイ人だったの忘れてた。
「ふふっ、面白いですね…けれど奴には頑丈な毛皮があるので…その程度の剣では倒せませんよ?」
あっ、なんか知らないけど乗ってくれた。意外とノリがいいのかなこの人。
「じゃあどうすればいいかな?」
「普通に先制攻撃すればいいんじゃないでしょうか…?」
「は?」
「何か問題でも」
いやいや問題大アリだよ。私魔法使えないし他に剣持ってないし。というかなんなのその謎理論。答えになってないでしょうが。
「1匹でも狩れれば奴等は…逃げていくでしょうから…」
「あ、複数なのね」
「ええ…」
この人ほんとに頼っていいのかな…。私のことバカにしてるのかそれとも本当にこんな感じで今まで生きてきたのか…。だが先制攻撃を仕掛けるというのは悪くなさそうだった。
そんなことを言ってるうちに気配はどんどん増えていく。これほんとにやばそう。空間探知を使うと、3匹ほどに増えていた。いやもう先制攻撃どころじゃないじゃん。視認できる一匹と、もう二匹は隠れているのかな。
リルが小声で告げる。
「いいですかアキさん…急所をねらうことを意識することです…とりあえず目を潰せば動きが鈍くなるでしょう…」
私は無言で頷く。もはや余裕などとうに消え去っている。梟眼の二つ目の能力を発動させてみるが相手の動きがよく見えるようになっただけで動きを止めることはできないようだ。
周りを取り囲んだ狼のような大柄な獣がゆっくりと間合いを縮めて近づいてくる。5匹くらいに増えているみたいだ。かなりまずい状況になったね。
ダンジョンにいる限り戦いは避けられない。時間をかけるだけ消耗するし、こっちからかかっていって数的有利を取りに行くかな。
というか大して刺激してないのになんで囲まれてんだろう。リルさんさっきのは嘘だったんですか。
「リルさん、背中は預けたよ!」
「それはお互い様です」
やる気を出したのか、リルの声に少し生気が戻ったようだ。そしてリルがやる気を出したのと同時に私の背後に異様な気配を放つ者が現れたことには触れないでおこう。リルさん一体あなたはなんなんですか…。
そして私、天瀬秋とリルのコンビvsよくわかんない狼みたいな魔物との戦いが始まった。
さてさて、魔物との対決やいかにですね〜
そして謎に包まれた精霊のリルさんの今後にも注目です。
気軽にコメントなどしていってくださいね〜