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街は美味しい匂いで溢れている

街に新しいスーツや靴を身につけた男性が増える季節になりました。お仕事頑張ってください。

 装備屋を後にした私たち2人(正確には3人分の意識はあるけど)の次の目的はそう、食事だ!

 クリム曰く、


「この辺は平野が広がってるから野菜とか動物とかは比較的採れるよ。おすすめのパルティス料理があるから着いてきて」


 だそうだ。まるでデートのような気もするけど私たちは出会って数時間、まだそんな関係じゃないのだ。

 装備屋のあった場所から門の近くまで一旦戻りさらに通りを逆方向へと歩く。


「アキは何を着ても似合うね」


 唐突に言われて戸惑う。ファッションとかそんなに気にしたこと無かったけどな。


「そ、そうかな?」


「うん、それに黒髪ってこの辺りにはあんまりいないからなんか映えてるように見えるね」


「ほんとに?ありがとう」


 こいつは意識してこういうことを言ってるのか、それとも無意識で言ってるのか…。まあ悪い男ではないけど弱いし少し抜けてるところありそうだしなあ。


 そんな他愛のない会話をしていると石畳の道の先からいい匂いがしてきた。


「ほら、ここだよ」


 クリムの指さす先には大きな建物があり、何やら食べ物らしき絵と店の名前が書いてある看板がかかっていた。

 店に入るとさっきの美味しそうな匂いが5割増でプンプン漂っていた。かなり人気もあるようで多くの人が、ある人はスプーンのようなものを、ある人はジョッキを持って各々の腹を満たしていた。

 私たちはカウンターの隅に空いてる席を2つ見つけ陣取る。中年の女性の店員さんも忙しそうにカウンターの中で動き回っていた。


「さっきからするこの匂いはなに?」


「あーこれはこの辺で採れるイオニグサっていう薬草の匂いさ。これを肉にまぶして焼くと臭みが取れていい感じに仕上がるからね」


 なるほど、ハーブみたいなものなのかな。よし決めた、その薬草焼きのお肉を食べよう!私はカウンターに置いてあった木の板の一番上に描いてあった肉っぽい絵を見て決める。


「もう頼むものは決めた?」


「うんさっき教えてもらったそのお肉が食べてみたいな」


「よしわかった、おーい店員さんこれ2つね!」


 しばらくするとその肉が運ばれてきた。よだれが今にも口から溢れそうだけど私は女だからそんなことはしない。


「いただきまーす!」


 しばらく2人で肉を貪る。食感は豚肉のような感じで少し筋が多い。ここらでとれる動物だろう。


「ねえ、このお肉なんて言う動物のもの?」


「あーこれはナイトラクーンの肉だよ」


 ほお~まるでタヌキみたいな名前なんだな。どんな動物か今度見てみたいものだ。まあリルさんに聞けばすぐわかるだろうけど。

 野菜の汁物と薄緑の米みたいな穀物もセットで出てきたんだけどこれもまた美味でしたね。この世界は意外と食文化は発達してるのかもしれない。


 そんなわけで私たち2人はたらふく昼食を摂り店を後にしたのだった。あまりイケメンのコックさんや店員さんはいなかった。



 ◇◇◇



「それでアキは次はどうするの?」


「うーん他にも色々見て回って今日はこの街に泊まっていこうかな」


 私たちは再び大通りに戻りぶらぶらと散策していた。この街は巨大な城壁に囲まれていてその広さは東京ドーム何個分だろう。とにかく私たちはまだ街の3分の1の広さほどしか回り終えていないのだった。


「街の反対側に面白いものがあるから行ってみないかい?」


 クリムが唐突に切り出す。少し得意げな笑みを浮かべながら。


「うん、いいけど」


 けど私はそれが何か知っている。だって街の反対側の方向には大きく聳え立つ塔のようなものがここからでもはっきりと見えているのだから。


 途中お菓子なども買いながら(もちろんクリムの金で)私たちはぶらぶらと歩いた。

 街並みはどれも石造りに木の扉といった様子であまり変化はない。彼らからしたら見慣れた風景なのかもしれないが私にとっては別だ。つい見入ってしまう。まあ石畳の道は迷宮で散々見飽きたけど…。


 大通りにいくつか立ててあった地図によると、街は例の塔を起点に放射状に道が広がり、中央の大通りの先端に私が入ってきた城門があった。かなり計画的な街づくりが行われたのが窺える。私たちが入った門側は市場などがあり商業が盛んで、中央部は住宅が多く、塔の周辺には塔の周りに重要な施設などが立ち並んでいるらしい。


 かなり回り道をしてだんだん日が傾きかけた頃、大通りの先に広場が見え、その先に銀に輝くロケットのような紡錘形をした塔が姿を現した。


「さっきから見えてたけど近くで見ると違うね…!」


 私は広場に走り出てクリムに言う。


「そうだろ?」


 私はかねてからの疑問を口にする。


「この塔なんのために建てられたの?」


「伝承によると初代パルティス王がこのあたり一帯を征服する時強い抵抗運動に遭ったんだ」


 へえ、そんな昔に建てられたんだ。それにしてもすごい輝いてるな。魔法でもかけられているのかな。


「それで長い戦いでたくさんの血が流れることを嫌った彼はこのあたりを治めていた領主と不可侵条約を結んだのさ。それでその記念のために建てられたんだって」


「すごい歴史がある塔なんだね」


「そうさ、それからこの塔は街の自由を象徴するものになったんだ」


 私はいちばん疑問だったことを聞く。


「今は何に使われているの?」


 だってただ記念に建てられたってだけじゃ街のいちばん重要なところに無くてもいいじゃない?


「今は冒険者組合(ギルド)の本部が中にあったり、この街にかけられてる結界魔法の発信源になってたりするよ。行ってみる?」


「うん!」


 やっぱギルドとかあるんだね、ワクワクするなあ。旅をするのには色々証明書とかも必要だろうし何か登録していこうかな。


 イプシロンロケット(私が勝手に脳内でつけた塔のあだ名だけど)、の中はやはり銀ピカで少し時代錯誤があるように感じる。中には受付らしきカウンターと私が想像していた冒険者組合ってもっと汚くて荒くれ者が集まるところなんだけど。


「あの、冒険者になるにはどうすればいいですか?」


 私は受付の小柄な女性に声をかける。身につけている服は……流石に銀ピカではなく普通の服だった。


「こちらに手をかざしてください、登録は数秒で完了いたします」


 私は恐る恐るお姉さんの指す銀版に手をかざす。すると銀版の上に魔法に使われる古代文字が光りながら浮かび始め、数秒すると光が消えた。


「裏返してみてください、登録完了ですよ。良い旅を!」


 なるほど裏返してみるとパルティ文字で私の簡単な情報と冒険者の番号が記されていた。

 ほう、時代錯誤とは思ったがそれは間違いだったのかな。ただ建物が古めかしいだけで魔法による技術やシステムはかなり整っているみたいだ。


 そんな感じに気持ち新たに冒険者となった私は、その日は近くの宿に泊まり1日を終えたのだった。ずっと戦ってばかりだったせいか今はすごい気持ちが楽だ。この世界、結構楽しいかも。




・パルティ語=パルティス内での標準語

・スキル=先天性、後天性、祝福の3つに分類される潜在的な特殊能力のこと

・通貨に関しては今後しっかり書いていきます


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