旅に出よう!
るろうに剣心the finalがめちゃめちゃ楽しみです。
ジーノウの最初の目的はアキの保護とパルティスへの連行だった。が、状況が変わったのだ。彼女はその強大な力を持ってして旅に出ると言った。それはつまりパルティス側に引き込むことが難しいということだ。パルティスには敵が多く、そしてエルネストの時の教訓もある。安易に覚醒した"祝福を受けた者"を野放しにはしないのである。
もちろんジーノウもあの程度の不意打ちでアキが死ぬとは思っていない。だから迷宮の入口を封印したのだ。
「剣の筋は良いし魔法は文句のつけ所が無かったが王の命令とあらば仕方ないのだろう…」
豪勢な金飾の扉の前でジーノウは呟く。彼は今パルティス王都の中枢部ラ・パルティスという場所の城の謁見の間の外で待たされている。これから王に今までの次第を報告するのだ。仕方なかったとはいえ戦力が増加したわけではないから王の機嫌を良くすることは出来ないだろう。
中から中年太りの文官が出てきて言う。
「お入りください」
ジーノウは一礼し謁見の間へ踏み入る。中には彼にはもう見慣れた、ガタイが良く精悍な顔に白髪混じりの頭のパルティス王がこれまた豪勢な玉座に座っている。しかし彼の纏うものは至って質素でありその空間の中では浮いているのだった。
「忠臣ジーノウ、ただいま帰還いたしました」
ジーノウが跪く。
「うむ、先程大まかな報告は受けている。私が知りたいのは2つ。アキという人物の能力とエルネストのその後だ」
威厳に満ちた声で王がジーノウに問う。
「はい陛下、アキという人物は迷宮最深部でエルネストとの戦闘中に覚醒した模様です。能力は周囲のエネルギーから魔力を生成したり身体の強化を行うようなものだと思われます」
ジーノウの見立ては間違ってはいない。ただ魔力を体内の魔力炉から無尽蔵に作り出すという現象があまりにも理解の及ばない現象でありそこにおいてのみ少し間違えたのである。
「なるほど、それだけ聞くと大したことが無いように聞こえるがお前が始末せざるを得なかった理由とは?」
「まず生成する魔力量です。鳴神という高等魔法をなんの溜めも必要とせず高威力で発射しました」
「ほう、それは面白いな。なら尚のこと味方に引入れるべきではなかったのか?」
と言いつつも王はあまり機嫌の悪そうな顔ではない。むしろジーノウの判断に納得したかのようなすました顔である。
「いえ、彼女の能力は旅をすることをトリガーとして引き出されるもので、あまり野放しにすると陛下の仰ったようにエルネストの二の舞を引き起こすのではないかと判断しました」
「ふむ、事情はわかった。してエルネストの方はどうなったのだ?」
「彼はアキ…いえ道中で出会ったリルという精霊の力を借りたアキにより封印されました。封印の強度から察するに数百年はまともに身動きできないでしょう」
「そうか。その点に関してはあまり気にかける必要はないな。成果は乏しかったがなかなか興味深い情報だった。これからも頼むぞジーノウ」
「ありがたきお言葉です、陛下」
そうして謁見を済ませたジーノウは仲間と再会を果たし元の日常に戻っていくのだった。アキの脱出方法はジーノウの封印術をすり抜けることなどつゆほども知らずに。
◇◇◇
ジーノウの有無を言わせない不意打ちに完全に屈した私だったけどどうにか再生を終わらせて今はエルネストがいたドーム状の部屋の奥の小部屋にいる。ジーノウに裏切られたことには驚いたけどリルさんに慰められてなんとか立ち直れた。ジーノウにも事情があったんだろう。
中には予想通り入り口へ帰るための赤く輝く円形の転移陣と、古い書物が何冊か部屋の端に積まれていた。埃っぽくてあまり居心地は良くないな。
一つ気になる点があるとすれば人がいた痕跡が全くない点だ。ジーノウはここを通らずに帰ったってことかな。盗聴される心配はないから声に出してリルさんに話しかける。念話は変な感覚で頭が痛いからこっちの方が楽なんだ。
「リルさん、この本は?」
私は適当に二冊取って聞いてみる。
(こちらの本は古い魔術書で…もう一方はこの世界の地理の本でしょうか)
「そういえば私この世界の文字まだ読めないんだけどお願いできる?」
(ええ、構いませんが私も上代のパルティス語はあまり読み慣れていないもので…)
へえ、そんな古い本なんだ。そういえばこの迷宮ってリルさんが生まれる前から存在してるんだっけ。てことは何か重要な情報が隠されてたりしないかな。
(アキ、本をパラパラでいいので全てのページめくってください。視覚情報として全て保存します)
「わかった。でもその能力ズルじゃない…?」
(…)
おい。あんたその能力使い道によっちゃあ現代じゃ色々法律に引っかかるんじゃないですかい?まあここは地球じゃないし別にいいけど。
私は言われた通りに全部の本をパラパラする。ところどころ如何わしい挿絵や輝きを発した魔法陣とかもあったけど気にしないことで対策としよう。全部で5冊あった。
「全部読み取れた?」
(ええ、バッチリですよ)
私はもう一度この部屋に隠しじかけや物が落ちてないか確認し、自分の服装と腰に下げた剣を確認し、旅人が消えていないことを確認し…
「よしっ、じゃあ外に出るか!」
(ついにこの瞬間が来ましたね!)
実に100年ぶり?の外出である。まあ私の体の感覚だと一年くらいなんだけど。これも歳をとらない弊害なのかな。ちなみに服装は転移した時と同じ高校の制服である。Yシャツにスカートというなんとも浮いた格好だけどこれしかないんだからしょうがない。途中破れたりしたけど私の体の再生とともに全部元どおり修復されるから驚きだ。
私は覚悟を決め転移魔法陣に乗る。周りの景色が歪んで暗転する。身体の感覚がおかしくなり無重力のような感覚が5秒ほど続き、足に地面の感覚が戻り周りの景色が視界に戻ってくる。
そこは私が初めてこの世界で目にした広い草原と遠くにある城壁の街の景色が変わらず存在していた。後ろには迷宮の入り口がある。なにやら紫の光を放つ魔法陣に入り口を塞がれているけど…。
「もしかしてジーノウがやったのかな…?」
(…その可能性が高いですね)
ジーノウのやつ、本気で私が入り口まで登って出ると思ったのだろうか。だいたいダンジョンとか迷宮って最後の転移陣があるものでしょ。
「まあ何はともあれ外に出られて本当に良かったよ」
(ええ、私など何百年ぶりでしょうか…)
「それだけ時間が経ってれば文明とかも結構発達してたりするの?」
私は気になっていた質問を投げかける。リルさんの時代を古代、私が来た時代を中世とすると今は中世の終わり、そろそろ機械とか人権とかそういう難しいものが現れ始めてもおかしくはないのだ。
(うーん…それはないでしょうね…)
「えっなんで?」
(理由の一つが魔術の存在です。この世界の6割の人間、全ての魔人が初等以上の魔術を操ることができます。そのためこの世界は魔術に大きく頼っていてそれが正しいとされているのです。人は魔術の発展に力は注げど技術面での発展は亀の歩みでしょう)
「なるほど…あんまり技術的なことばかり研究するのは偉い人とか宗教団体に嫌われるんだね」
(ええ、触れていませんでしたが魔人と魔物の排除と魔法の発展を信条とする神聖ヴェート教という宗教がもっとも勢力が強く民衆はみんなそこの言いなりなんですよ…)
なんかベートーヴェンみたいな名前だな。旧来のやり方に従った生き方を選ばせ他所者を排除する姿勢、地球にも似たような宗教の似たような宗派があったような気がする。どこの世界も行き着く先は同じなのかな。
そんなことを話しつつ歩みを進めること30分、この世界について一層詳しくなった私は街の城壁にたどり着いた。
最近嫌なことが続いてモチベーションが上がらなかったのですがようやく新章に入ることができました。明るい景色が広がっていて想像してるだけで楽しい気分になれます。




