最後の戦い②・ジーノウ編
ネットで漢字の読みを聞く人、なんでコピってグーグル検索しないんですかね。
というわけで戦いの続きです。
「オルハーン、お前どうしてパルティスを裏切った?」
ジーノウが問う。少し離れたところではアキとミノタウロスが激戦を繰り広げていた。剣と剣のぶつかり合う音が聞こえてくる。
「じゃあさ、ジーノウ。仲間が次々殺されてさ、自分の四肢も切られてさ、精神おかしくなった時に言う通りにするなら命は助けるって言われて従わない選択ができるのかい?」
筆頭騎士として華々しい活躍をしたオルハーン。彼のプライドと国への忠義心はそう簡単に折れるものでは無いだろう。
自分より強い者はこの世界にそう多くはいないことを彼も自覚していた。そして何よりオルハーンはエルネストに剣を教え共に高めあった仲なのだ。負けることなどないと思うのも無理はない。だが結果は自分と大差ない力量の騎士たちを瞬殺され、自らも死にかけては回復させられという地獄を繰り返され…。
「自らの手で自ら自らに終わりを下すことは出来なかったのか……?」
「したとしてもすぐに回復されちゃうからね。何度も試したよ」
「そうか…お前にそんな過去があったとはな…」
「ジーノウ、こんなことを言うのはくだらないとわかってはいるんだ」
「何だ?」
「僕をその剣で倒してほしい。そうすれば僕の呪縛は解けて自由になれる」
オルハーンにミノタウロスへの信頼や忠義はない。ただ殺されそうになり従うなら助けると言われ、助けてもらった、それだけの関係だった。
だからこそアキやジーノウが自分たちを倒せるのかを試したのだ。
彼は何度も切られては回復させられといった工程を繰り返されるうち身体は作り替えられ、不死人間へと変異していた。
だから長い年月の間人間そっくりの体を維持できたのだ。
「その任務、受けよう」
オルハーンは姿勢を低くしお得意の抜刀術の構えをする。一撃必殺の最強剣だ。
対してジーノウはいつも通りの中段の構えだ。最初に動いたのはジーノウ、
「炎術・幻炎!!」
ジーノウの周りにゆらゆらと炎が立ち上がり熱で空気が歪む。そしてジーノウは炎を纏い突進していく。
対するオルハーンは動かない。ジーノウの攻撃を引き付けている。剣先が届くまであと一歩半と言った時、オルハーンの剣が半月を描く。
「うおっ!?」
経験したことの無い剣の速度に慌てるジーノウ。だがそこでやられるほどやわでは無い。咄嗟に右に避けそのまま飛び退く。
と思うのも束の間、
「ニノ閃!!!」
オルハーンは体勢を立て直しながら突っ込んでいく。彼の抜刀術は二撃で一撃。相手に防御の隙を与えない技なのだ。ジーノウの炎は撹乱のためにあったのだがそれも意味をなさない。
(まずい…!)
さすがのジーノウも避けきれない。剣を真正面から受け止める。
甲高い金属音が響き火花が飛び散る。炎がゆらゆらと消えていき、体制を崩したジーノウへオルハーンがさらに攻撃を加えていく。
「はっはっはっ、そんなんじゃ僕には勝てないよ?アキと2人で外に出るんでしょ?早く僕を倒してみなよ!」
「くそっ!」
オルハーンは更々倒される気は無いようだ。防戦一方になるジーノウ。
上、下、右、左。目にも止まらぬ攻撃を紙一重で受け、躱し続ける。元パルティス筆頭騎士の名は伊達では無いのだ。
「どうした?得意の炎術を出す暇もなく死ぬのか?」
「…」
ジーノウは応えない。
「動揺したな、そこだ!」
オルハーンが隙を見て叩き込んだ一撃を叩き落とすと数歩下がる。オルハーンはそれに釣られるように前へ詰めていく。
「炎術・爆華!!!」
ジーノウが手をかざし、青と赤の混ざった極大の火球が顕現しオルハーンへ向け発射される。
火球はオルハーンの元へ猛スピードで飛んでいき火の粉を散らして爆発した。
「おっと、そんな術も使えるのか」
「何!?」
気づくとオルハーンはジーノウの背後に回り込んでいた。炎の陰に隠れ移動していたのだ。
(出し惜しんでる暇はない!!)
「炎術・炎柱!」
ジーノウが炎を纏う。これこそが最強の矛であり盾となる術。自らを契約した炎の精霊と一体化させることで戦闘能力を大幅に引き上げるのだ。精霊を身にまとわせるのにはかなりの体力を要する。つまり捨て身の技なのだ。
「熱っ!!」
攻撃の勢いを止めきれなかったオルハーンが炎に触れて叫ぶ。感覚はちゃんとある。
そんなことも御構い無しに鬼のような形相でオルハーンを睨めつけたジーノウが攻勢に移る。
「うおあああ!!!」
雄叫びと共にジーノウの猛攻が始まる。
「炎術・炎弾!!!!」
一旦退くオルハーンにジーノウが火炎弾を発射する。爆華と違い威力は低く爆発もしないが足止めや陽動には最適の術だ。
オルハーンが疾走しながら華麗に避ける。ジーノウは追い討ちをかけるように火炎弾を連射する。イタチごっこだ。
と、一瞬ジーノウの視界からオルハーンが消える。これだけ戦闘能力が上がっていてもジーノウにオルハーンを完全に捉えることは不可能だった。
「はあっ!」
ジーノウ目掛けて高速で剣を振り切るオルハーン。炎をくぐり抜け上に跳んでいたのだ。
だがジーノウは炎柱の効果により体力、攻撃力、反射神経などの能力が強化されている。
鮮やかに炎が弧を描きオルハーンの剣は弾かれる。
激しい打ち合いが続き、両者とも1歩も引かず熾烈な攻防を繰り返す。
「うおおっ!」
一瞬の隙をつきジーノウの剣が炎の半月を描きオルハーンの右腕が宙を舞う。
「くそっ…!」
オルハーンが呟く。だが…
「腕が…再生している…?」
オルハーンの右腕はゆっくりと再生して元に戻り剣を両手で握っている。オルハーンは不死人間。これしきのことは無傷同様なのだ。
「そろそろ僕も本気出そっかな」
「それでもまだ本気じゃないってのか」
オルハーンが構え直す。
「僕は賢いから…ねっ!!!」
ものすごい踏み込みとともに飛び出すオルハーン。
「久々に暴れられて楽しいよジーノウ!本当にありがとう!」
薄い刃が閃き、炎を断ち切っていく。
「…っ!」
金属と金属のぶつかり合う音が響き渡る。オルハーンは低い姿勢のまま飛び回りながら高速で剣を振るう。さっきまでとは比べ物にならない。
「僕も魔法使ってみようかな」
(やはり使えたか…厄介この上ない…)
心の中でつぶやくジーノウ。彼にそんな余裕はもちろんない。
「風術・旋風刃!」
一瞬でオルハーンの周りに強い風が発生しジーノウめがけて襲いかかる。
高速で迫る風の刃、防ぐのは難しい。身体中に切り傷を負いながら防御に徹するジーノウにオルハーンの猛攻が襲いかかる。
(これが目にも留まらぬ速さってやつか…)
事実、なぜジーノウがここまで持ちこたえられているのか彼自身も不思議に思っている。彼の生存本能と勘が必死に生にしがみつこうと剣を回避させている。そしてそれほどまでに実力差は開いているのだった。
オルハーンの積み上げてきた経験と技を前にジーノウになすすべはない。
最初こそは懸命にさばいていたが…
「もらった!」
高速で振り下ろされた剣に防御が間に合わず肩に一撃を食らう。ほどなくして足にも二撃負いまともに戦えなくなる。
一瞬にして追い詰められたジーノウ。
そして彼に凶刃が迫る時、
「きゃあああっ!!!」
アキのものすごい叫びが聞こえ、一瞬気を取られるオルハーン。ジーノウにとってアキの叫びはひとときの救いであるとともに新たな絶望でもあった。
オルハーンはオスマンの皇帝の名前から取りました。いやそんなの知ってるって?ごめん。




