今は亡き騎士たちの思い
すこし遅れましたが16話目です。
私に背後から近づいてきたこの骸骨がおそらく死霊だろう。
私はまだ名前をつけてない剣を抜いて構える。雨の中で薄紅の刀身が怪しく光る。
もとより相手もそのつもりらしく、剣を振りかざし飛びかかってくる。今まで戦った魔物と比べたら段違いの速さだ。骸骨ってこんな速く動けるんだ…。
感心する暇はない。剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。私は相手の剣の力強さに一瞬怯みそうになる。しっかりしろ私、こんなところで負けるわけにはいかないんだ。
剣の実力は相手の方が数段上だけど私にはスキルと魔法がある。
リルさんが言う。
(相手は死霊とはいえ元は騎士、どこか型に囚われた戦いをするはずです。その型を見切って不意打ちの魔法で蹴散らしましょう)
(なるほど…わかった、何かあったらすぐに教えてね)
そういえば梟眼って相手の剣筋見切れる効果があったよね。ジーノウが反則だって言うから使ってなかったけどこう言う時は仕方がない。
久々に梟眼を起動してみると、確かに相手の動きの全てが見えるようになった。いつぞやのピンチの時しか使えなかった相手の剣筋が見える効果も復活したみたいで、ザックリとだが相手の攻撃パターンも読めてきた。
いつの間にか私はその死霊との打ち合いが楽っ感じるようになってきた。ジーノウとはまた違った単調だが鋭い攻撃の数々をどうやって攻略するかがゲームのように思えてきたのだ。
何度か隙をついて攻撃に出るが鉄壁の防御に阻まれてしまう。よくみると相手の使う剣も刃こぼれとかしてないし魔法石を取り入れた剣なのかな。
(アキさん、そろそろ他の死霊もやって来ますよ。ここらで決着をつけましょう)
(あ、うん、そういえばそうだったね…)
楽しくて忘れてたなんて言えないよ…。まあでもいい勉強になったよね。なんだかんだで剣速も追いついてきて五分で戦えるようになってきたし。
リルさんと話しながらも私は慎重に隙を伺って相手の攻撃を受け流していく。そしてついに私のカウンターに骸骨がひるんだ。
それじゃここらで私の新必殺魔法お見舞いしますか!これを食らっておめおめと現世にとどまれると思うなよ…?
手に魔力を集中させ、頭に強く轟く雷を思い浮かべる。
「雷術……爆雷ッ!!!」
私の手から青白い閃光が轟音と共に飛び出し、目と鼻の先の黒服骸骨に直撃し吹っ飛ばす。しばらく痺れたようにしていたが、やがて動くのをやめた。
私は確認のために近づいてみる。すると、中から初めて会った時のリルさんに似た光がふわふわと出てきた。
そしてその光は私に念話を試みてきた。
(まずは礼を言おう。私をあの忌まわしい呪縛の呪いから解いてくれて本当にありがとう)
(えっ、縛られてたの?)
(ああ、他の奴らもいるんだが皆魂を縛られて冥界に行けないようにされてる。だが奴の力が完全じゃないおかげで、君の魔法によるショックで呪いが解けたのだ)
(そうだったんですか…)
(ああ、そして忠告もしておく。今の、奴、ミノタウロスはかつての力を取り戻しつつある)
さっきから黙っているリルさんがビクッと反応したような気がした。
(つまり正面突破は難しいってこと?)
(ああ、生半可な斬撃とあの程度の雷術じゃ歯が立たないだろう)
(それじゃどうすればいいの?)
(封印だ。今の奴を倒すにはそれしか手はないと思え)
(わかった、教えてくれてありがとう)
(ああ、幸運を祈る)
そう言い残し光の玉は消えていった。骨も魔法が解けたことによりボロボロと崩れていった。おそらく本人の骨をそのまま使っていたのだろう。私はその場でかるく手を合わせジーノウの方へと向かった。
◇◇◇
ジーノウは苦戦していた。なにせ相手は王家騎士団の10本の剣の初代である。今の、付け焼き刃を10本集めたような10本の剣とは比べても比べきれないほどの強さを誇ったと伝えられている。かく言うジーノウも付け焼き刃の一振りだが。
アキがぶつけた魔法で怯んだ隙に決着をつけようとしたが、体が思うように動かないのである。つまりこの疲労を呼ぶ雨の対策をまず練らねばならないと言うことだ。
ここでジーノウは考えに考え抜いた末、ある一抹の望みを見つけだす。相手が自由に動けているのは、その骨の身に纏う黒い服のおかげなのではないのかと。
あまりにも馬鹿げた話だが今のジーノウにはそれくらいしか縋るものがなかったのである。
「申し訳ないがその服いただかせてもらうぜ…」
ジーノウは型に囚われず、魔法なども用いた戦いをすることから同僚の騎士たちに蔑んだ目で見られていた。なぜ騎士たる者がプライドを捨ててまで邪道である魔法を使わなければならないのかと。
しかし実戦であれば話は別である。特に一対一の場合においては、どれだけ相手の知らない武器を隠し持っているかと、積んできた経験が全てを決める。
相手は騎士である。つまり型に囚われた戦いをするだろうとジーノウは踏んだのだ。アキが魔法で不意打ちをしようと考えている頃、ジーノウもまた同じ結論に至っていたのである。
「炎術・幻炎!」
ジーノウの剣から炎が吹き出し、揺らめく怪しい動きで相手を錯乱させる。
「ふんっ!」
隙をついて相手の剣を弾き飛ばすジーノウ。圧倒的なハンデを背負っているにも関わらず、死を覚悟したその思いが身体を必死に動かしているのだ。そして間髪入れずに相手にのしかかり、服を剥ぎ取り始める。
このように、いざとなれば羞恥心のかけらもない行動に出る豪胆さもジーノウの強みなのである。
抵抗する骸骨を押さえつけ、無事に服を奪い取ることに成功したジーノウ。骸骨は完全に骨格標本のような体を成している。そしてその胸には、淡く光る光球が閉じ込められていた。
(ふう…完全にバテちまうところだったぜ)
だるい身体を渾身の力で動かし、まず第一の目標を達成したジーノウ。急いで黒衣を着てみると、狙い通り雨による倦怠感を感じなくなり、体が動くようになった。藁にもすがる思いで決行した作戦が功を奏したのだ。
そうしている間にも骸骨は立ち上がって剣を拾っている。
「さて、これであんたとは互角同然だぜ。早くその魂、解放してやるよ!」
魔法石を含んだ頑健で美しい剣同士がぶつかり合う。雨が降っているにも関わらず火花が散る。
(負けるわけにはいかないんだよっ!)
何度も剣を交えていくうち、次第にジーノウが押し始める。ジーノウの強い思いが剣技の実力差を逆転させているのだ。
同じ国の騎士だけあって、世代は違っても基礎となっている剣術は同じだ。お互いの手の内はほぼほぼ読めていて、わずかにジーノウが押している状態が続く。
しかし、アキが放った雷術の音で状況は一変する。もともと雷が苦手なジーノウが一瞬攻撃の手を緩めてしまったのだ。
そこにつけ込んだ死霊騎士が反撃を始める。集中の切れたジーノウはなすすべも無く防戦一方に追いやられる。
死霊騎士が骨を軋ませながら猛攻を続ける。そしてついに…。
「ぐはあっ…!」
剣筋を読み違えたジーノウの肩に剣が深々と入る。痛みに悶えるジーノウにとどめを刺そうとする死霊騎士。その時だった。
「雷術・爆雷!!!」
叫び声とともに青白い閃光が走り、死霊騎士が崩れ落ちた。
10人のうち完全に倒せたのは1人、という結果になりました。この後どうなるんでしょうかね〜




