現実逃避もそこまでだよ!
11話目ですぅ〜
その日、私は2人から離れてひたすら森を歩き続けた。追ってくる気配はないみたいだしもしかしたら本当に愛想尽かされたのかも。
歩き続けているうちに無心になってくる。考えることさえどうでもよくなる。今はただ何もかも忘れたかった。
途中、魔猿に似たような猿の魔物が近づいてきたようだったが剣を振って脅したら逃げていった。もともとこの森で地位の低い魔物なのだろう。
歩いて歩いて歩いて………。気づくとスカートの先には泥が付き、靴は当然汚れてすり減っていて、ワイシャツの腕や腹の辺りが何度も擦れる木の枝や葉で擦り切れかけていた。みっともない格好をしているなと我ながら呆れる。こんな格好みんなが見たらなんて言っただろう。ちなみにネクタイと上着は邪魔だからと言う理由で結構前に捨てている。
どれだけ歩いただろう。気づくと暗くなっていた。このダンジョン、下れば下るほど外の環境が精密に再現されてる気がするんだよね。そもそも誰が何のために造ったんだろう。
流石に暗い中を1人で歩き続けるのは精神的に疲れる。体力は無限にあるけれど。私は近くに生えていた大木に開いていたうろのような場所で休息をとることにした。恐らくこの階で一番強い魔物はあの大猿だろう、だからそれ以外に私の寝てる隙を襲える魔物はいないと信じることにした。かなりの謎理論だけど、どれだけ探知してもあの大猿より強い魔物は見つからなかったのだ。
うろの中でしゃがみこみ、これからどうすればいいのだろうと思いに耽る。リルさんに謝って一緒に行動するのが一番安全なのはわかってる。でもその時点で奴と戦う運命が決まってしまう。
戦いたくない。こんな世界は嫌いだけどもう一度死にたくもない。
私は臆病者。いつも嫌われるのが怖かった。中二病キャラを無意識に演じていたのも単にアニメを見過ぎていたからではないと今ならわかる。みんなに嫌われたくなくて強がっていた。自分を偽って生きていた。
でも結局戦わなきゃいけないことはわかってる。だからこそ自分が変わらなければいけない。どこかしらで切り替えなければいけない。でも今更何の面下げて2人に会えばいいと言うのだろう。
そんなくだらない事を延々と考え続けていたらいつの間にか眠くなっていた。体力がスキルのおかげで無限とは言え、精神的な疲れは癒せない。私の意識が深い闇に落ちていく。夢も何もない闇に。
◇◇◇
どれほど経っただろうか、物音がして私は目を覚ます。うろの外を見ると火が焚かれていたことから誰かがここに来たのだろうと言うことがわかる。
私がうろの外に出てみると予想通りジーノウとリルさんがいた。2人とも気まずそうな顔をしている。悪いのは私なのに。
「アキさん…まず私に謝らせてください…」
リルさんが静かに言う。
「私はあなたの意思など関係なしにただあなたにすがり、頼むことしかしなかった…本当にごめんなさい…」
「…」
私は何も言わず黙って聞く。ジーノウも話し始めた。
「俺もその…すまなかったな…あんたのことなんて何も考えない物言いをしちまって…」
「…」
「てっきり異世界人はみんな戦いが好きなのかと思っててな…前転生してきた勇者がそうだっただけで、みんなそうとは限らないことがよくわかったぜ…」
まじかこの人…。本当に悪意のかけらもなくあんなこと言ってたんだね。こっちはまだバリバリのJKなのに戦いが好きなわけないでしょ…。と、つい心の中で突っ込んでしまう。
黙り続ける私を2人が見つめてくる。だからさ子犬が見捨てないでって言ってるような悲しい顔をするのやめてよリルさん。
私が話し始める。
「私はね、どうやったらミノタウロスとか言う化け物を倒せるかが知りたいんだ……私だってわかってる。どうせ戦う運命だって…だからさリルさん、私を勝たせてよ。ただ私に頼むだけじゃなくてさ…」
「も、もちろんですよ…ちょうどジーノウもいることですし、2人で剣術と魔法を教えようと話していたのです…」
「あとね、私もごめん。どこまでもわがままで、ジーノウはともかくリルさんは私にしか頼ることができないって言うのに」
「気にしないでください…」
「少しは気分を切り替えられたか?」
「でも私がそのパルティスって国の勇者だか英雄だかになる保証はないよ?」
「それは外に出てからの問題だろ?今はどうやって奴を倒して外に出るかが一番大事なことだ」
「そうですよ…さっさと倒してここから出るんじゃなかったんですか?」
リルさんが微笑みながら言う。あれはもちろん冗談のつもりだったんだけど。
やっぱりいじけてたら何も変わらないよね。仲直りできて本当に良かった。それに1人は心細い。もう1人にはなりたくないよ。
「ジーノウ、早速教えてよ剣術」
私が気を取り直して言う。我ながら切り替えが早いものだ。
「師匠に対してそんな口調でいいのか?」
ジーノウがしかめっ面で聞き返してくる。リルさんがやはり笑っている。
私はムッとしながらも言い直す。
「せ、先生、私に剣術を、教えてください」
「いいだろう。みっちりしごいてやる!」
「よ、よろしくお願いします」
いつか絶対この自慢の剣で必殺技使ってぶっ倒してやる。て言うかこの人、強さは申し分ないけどなんか人格に少し問題があるんじゃないかな。年頃の女子に対してしごくって…なんかキモいよ…。
「あ、リルさん、じゃなくてリル先生。ご指導よろしくお願いします」
「勿論ですよ…どうせ長くはないのです、私の持てる技の全てを授けるつもりですよ…」
あ、それはやばそう。
そうして私は強大な敵を倒すために、剣と魔法の修行を始めたのだった。
今回も即行で立ち直りましたね。さすが我らが主人公!
と言っても少しどうやったらこんなコロッと変わるんだ?と言う気がしなくもありませんが…
次回からの成長ぶりにご期待ください!




