あまりにも理不尽な転生
100年間閉じ込められる必要あるんでしょうか?と言う疑問を自分でも抱きますね。
「ああもう、遅刻するっ!」
その日は親が仕事で早出で、私を起こす人が家にいなく寝坊したのだった。スマホのアラームなど起こすには静かすぎるのだ。
学校までは約3km。普段ならバスで行こうとのんびり考える私だが、今日はバスを待つ時間も惜しい。
紹介しよう。私は天瀬秋。都会生まれ都会育ち。通っている高校の偏差値は県で上から5つ数えるくらいで、成績は中の上。つまり結構頭がいいのだ。友達も多いとはいえないが割といる。他に特筆して言えることといえば、運動と料理ができることくらいだろうか。
「仕方ない、☆自転車☆で行くとしようか!」
そう、口調からもわかるように、私は中二病をこじらせたただのイタイ人なのだ。私としてはちょっとかっこつけているつもりであるのだがなかなか通じない。そして自分がイタイ人だと言うことに気づいたのが去年。確かに友達がこんなこと言ってたらちょっと引くよね。笑ってくれる友達に盛大な感謝をしなきゃ。
さあそんなことを考えているうちに時間は過ぎていく。私は自慢の赤い☆自転車☆をガンガン飛ばして国道を走行中だ。
通り過ぎていく男子中学生が私の足の方に目を向けているようだが私の目には景色程度にしか映らない。見られると言うことは私の魅力に気づいたと言うことで、誇るべきことのはずなのだ。それが友人たちはやれ羞恥心だのモラルだのと小言ばかり。もっと自分をアピールしたまえ君たち!そんなつまらないこと抜かしていると輝ける青春は過ぎ去っていってしまうぞ!と、どこかで聞いたことのあるセリフが思い浮かぶ。
このまま飛ばしていけば余裕で間に合うぞ。そう思って信号を渡っていた時だった。横から車が来る。青信号なのに車が来ると言う意味のわからない状況に私の頭は正常に働くことをやめていた。
とにかくよければなんとかなる。そう思って自転車の速度を更に上げる。だがその車に隠れていたようにもう一台が隣の車線にいる。あっ、これ詰んだね☆
こんなに運の悪いことがあっていいんですかね神様。もう少しは生きさせてくださいよ。と、もう死んだ気になる私。だが状況はそこまで切羽詰まっていた。
普通小さな女の子を守るためにトラックが突っ込んでくるとこに助けに入って死ぬでしょうが!なんで私は二台何処の馬の骨かもわからないような車に逃げ道塞がれて死ななきゃいけないんですか…?
ああ、彼氏とか欲しかったな。こんな私でも受け止めてくれる彼氏が。もっと友達とも話したかったな。
車は容赦無く私の体を跳ね飛ばし蹂躙していく。当然のように私の意識も消える。
◇◇◇
何かの振動による不快感を覚え私が目を開ける。何やら私の下の地面が動いている。意識がはっきりしてきた。
私は二台の車にチェックメイトされて死んだはずじゃ…?などと思い出し体を起こす。遠くにオレンジ色の光と煙が見える。なんだろうか。そして地面が揺れている。
私の思考回路がようやく繋がる。死んだのか死んでないのかはわからないが、ここでは地震が起きている。そして、それによる火事で向こうにある何かが燃えているのだ。叫び声などから、その何かは街と見ていいだろう。そしてここは街から少し離れた丘といったところだろうか。
「$%LJ(%&!!」
聞き取れない言葉の声がした方を見ると、がっしりした男が手を差し出していた。一緒に逃げようと言うことらしく、後ろに家族らしき女と子供がいた。言葉がわからないと言う感覚をしばらく忘れていたね。小学校の卒業旅行で行ったナントカ寺で話しかけてきた外国人以来だと思う。
「ありがとう」
小さな声でお礼を言うとその男の手を取り立ち上がる。
改めて自分を見てわかったが、自分は死んだ時と同じくらいの体型をして、服は制服のシャツにスカートだった。
4人で走って街の反対方向に逃げる。父親らしきさっきの男が何やら指差している。指差す先にはちょうど人が2人並んで入れそうな何かの入口のようなものがあった。シェルターだろうか。
シェルターの中に父親男が先に入っていった。安全確認を怠らないあなたの精神素晴らしい!私はその精神がなくて死にました!てへぺろ!
地震はひとまず落ち着いたようで、周りには倒れた木などがある。おそらくここは美しい景色が広がっていたのだろう。今は見る影もないが。
そして私はようやく気づいた。ネット小説とかでよくある異世界転生をしたのだと。服装などからこの世界は、歴史の教科書で見た中世ヨーロッパの様子と似ていることに気づく。なんで苦手科目の歴史がこういうところで役に立つのか。子供と見える男の子が母親にしがみつきながらこちらを興味津々に見てくる。4歳くらいだろうか。この災害でも騒がず喚かず本当にいい子だなと感心してしまう。私が微笑むと、少し笑ってくれた気がした。
母親はと言うと、混乱しているようで何が起こっているのか全く理解していないような様子である。突然同行することになった私に何か言ってくるかと思ったが、何も言わずそわそわしているだけだった。
そうしているうち、父親男が偵察を終えて帰ってきた。父親男の名前なんだろう、気になる。シェルターのような建物の中はどうやら安全らしい。入ってこいとでも言いたげな仕草をしている。
まずよそ者の私から入る。入口が狭いだけで中は広そうだ。暗くて何も見えないけど。後から女と子供も入ってくる。父親男は火を起こしているようだ。
一息ついて私はやっと普通の精神状態に戻ってきた。何もかもが突然すぎて落ち着く暇さえなかった。寂しいし未だに生きていると言う実感が持てない。これから私はどうすればいいんだろう。
一緒に逃げて来たとはいえ、言葉も通じないあの家族や他の人々とこの世界でこれから生きていかないといけないのかと思うと辛い。いっそ死んだままで良かったのに……。
「こんなの私らしくないじゃないか。元気出せよ!」
1人で立ち上がり言ってみると、少し元気が出た。
暗いこの空間はやっぱり寒く、思わず身震いしてしまう。母親女が手招きをしている。私が寒がっているのに気づいたようだった。私はおずおずと火を囲む家族の元へ向かうと子供が笑いかけてくれた。父親男も母親女も私への警戒は少し解いてくれたようだ。この家族が私を拒絶しなくて良かった。こんな私でも生きていけそうな気がする。
そんなことを考える転生初日。だが、さらなる悲劇が私を襲うのだった……。
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