敵か味方か。
地下鉄階段を降り、改札ゲートを越え、地下ホームにたどり着いた。ゴミや塵が辺り一面に広がっている。人はいない。
正確には生きている人がいないのだ。
慣れない殺し合いであっけなく、多くの日ノ本兵が亡くなっている。
自分が生き残っているのは奇跡的だ。
リバニアの兵士の死体は、ひとつもなかった。
地下であっても凄惨な景色は変わらない。
むしろ、死体やゴミからの匂いがまざり、
陰惨な匂いが漂っている。
「咲森、 大丈夫か?」
酷い空間を前に勇平は彼女に聞いた。
「大丈夫。あなたこそ、平気なの?」
咲森は、平然と答えて続けた。
「戦争が始まるまで、一度も経験したことがない世界に来てしまって」
勇平は言葉の意味が、彼女の言葉の意味が拾いきれなかった。
「経験したことのない世界って?」
勇平は彼女に言った。
「殺し合いの世界」
彼女の瞳が地下柱の電灯光を受けて、鈍く光る。
奥の見えない瞳に勇平は戸惑った。
「一度も経験したことがないのは、咲森も
一緒だろう。だ、よな?」
勇平は彼女の悠然な雰囲気に、断定から疑問形に
切り替えた。
「私は4回目かな」
勇平は、彼女の瞳から目を反らせなかった。