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01 いきなり世界滅亡

 今まさに世界を滅ぼさんとしているものが、そこにはあった。


 風を受け、光とともに波打つ緑草。

 大海原に浮かぶ小舟のような納屋。


 その中に、鎮座していたのだ。

 巨人の内臓を剥き出しにしたような、魔導装置が……!


 魔導装置というのは、機械工学と魔法理論を組み合わせた、この世界における最新技術のひとつである。


 その装置には血管じみた鉄パイプが走り、血液が流れているような震音を絶え間なく放つ。

 時折呼吸しているかのように、プシュープシューと蒸気が噴出している。


 頂きには大きな水晶玉があり、中には歪な人型のシルエットが浮かび上がっていた。

 ふと、影は語りかけてくる。



『……我が名は森羅万象を支配する、絶対魔王。


 またの名を、「ゲーム好き(ライク・ア・ゲーム)」……!


 我にとっては、現世などちっぽけなゲームに過ぎん。


 我の気分ひとつで、この惑星(ほし)は盤面となり、すべての有生無生うじょうむじょうは駒となる。

 天理すらも、賽の目となるのだ。


 さぁ、ゲームを始めようではないか……!』



 影は自らを魔王と名乗り、一方的なゲーム開催を宣言する。



『……そこにある魔導装置は、あと10分で爆発する。

 装置の中に設えられた砂時計が、落ちきるまでだ』



 そして、さっそくルール説明を開始したのだが、



「砂時計なんてないぞ?」「たしかにございませんね」



 納屋にいた、たったふたりの参加者に遮られてしまった。


 ひとりは高校生くらいの少年。

 顔も身体もこれといった特徴はなく、『村人A』といった風情。


 服装もまさに村人っぽい、ワイシャツにズボンといったいでたち。


 もうひとりは、少年より少し歳上っぽい女性。

 こちらは、誰からも見向きもされなそうな少年とは違い、誰もが振り返るほどの容姿である。


 少女のような、あどけない清らかさと、大人の女の、匂い立つような色香を併せ持つ美貌。

 それだけでは飽き足らず、貴人のような『選ばれし者』のオーラまであった。


 服装は、この世界において『聖女』のみが着ることを許される、純白のローブ。

 本来は身体の線を隠すタイプの衣類なのだが、彼女は豊満すぎるあまり、胸部ははしたないほどに盛り上がっていた。



「砂時計さんって、もしかして裏のほうにあるのではありませんか?」「いや、ないな」



 わざわざ魔導装置の裏まで覗き込んで、確かめてくれている彼らに向かって、魔王は言った。



『……どうやら、付けるのを忘れてしまったようだな』



「忘れんなよっ!?」「まぁ、うっかりさんですね」



『……10分は、お前たちのほうでカウントするのだ。


 ルールの説明を続けよう。

 その魔導装置は時間切れで爆発すると、「終焉魔法」が発動する仕組みになっている。


 「終焉魔法」は、この世界を地獄の業火で包み、生きとし生けるものすべてに、1,000ダメージを与える』



 いきなり具体的な数値を提示してくる魔王。

 しかしこれは、この世界ではごく当たり前のことであった。


 なぜならばこの世界では、生物のありとあらゆる能力は、魔法の力によって『数値』という形で知ることができるからだ。


 といっても可視化は容易ではなく、特殊な術式と大規模な魔法設備を用いてのみ、可能とされている。



「せ……1,000っ!? 人類がみんな死滅するダメージじゃないか!?」



『……その通り。

 この世界の人類の生命力(ヒットポイント)は、最大でも256と言われている。


 となると「終焉魔法」が発動して生き残るのは、高い生命力を誇る、神獣や魔獣だけになる。

 まさにこの惑星(ほし)から、人類という名のゴミが一掃されてしまうというわけだ。


 しかしお前たちに、生き残りのチャンスをやろう。

 装置に付いている、ふたつのボタンを見るのだ』



 少年と聖女は、水晶から視線を落として魔導装置を見る。

 たしかに真ん中あたりに、似たような色のふたつのボタンがあった。



『その、スイートベージュかヌーディベージュのボタンのうち、どちらかを押せば、装置は止まる』



「スイート……? なんだって?」



『スイートベージュかヌーディベージュ。ボタンの色だ』



「色の名前かよっ!? ずいぶんオシャレな名前だな! っていうかこういうボタンって普通、もっとわかりやすい色にしねぇか!? 普通、赤と青だろ!? なんでどっちも同じ色なんだよ!?」



 少年が声を荒げたように、ふたつのボタンはどちらも肌色であった。

 呼び名は違うようだが、どう見ても同じ肌色にしか見えない。



『……同じではない、よく見れば違う。


 説明を続けるぞ。

 正解のボタンを押せば、装置は止まる。


 しかし間違ったボタンを押せば、装置は爆発し、この納屋は爆炎に包まれる。

 周囲100メートルに100,000ダメージを与える、最大級の「爆炎魔法」によってだ』



『それって時間切れの時のダメージの、100倍じゃないか!?』



『その通り。これを受けてしまったら、どれほどの聖獣や魔獣であっても、跡形もなく消し飛ぶであろうな』



「わかったぞ……! 時間切れなら人類全体が死滅、間違ったボタンを押したら、押した者のみがオーバーキル級の苦しみとともに死ぬ……! そう言いたいんだな!?」



『……その通りだ。


 正しい選択をすれば、世界を救えるが……。

 誤った選択をすれば、自分だけが苦しんで死ぬ……。


 しかし選択を放棄すれば、みなが死ぬ……!


 それが今回の、「ゲーム」だ……!』



「くっ……! なんて悪魔的なゲームなんだ……!」



『……我は悪魔などという下等な存在ではない。

 それを証拠に、正解のヒントを用意してある。


 ボタンの下に、入れ物があるだろう。

 そこに入っているカードを見るのだ』



「いや、入れ物みたいなのはあるが、カードは入ってないぞ?」



『……どうやら、入れ忘れたようだ……』



「何から何までグダグダだなぁ、オイッ!」



『……そう言っているうちに、爆発まであと30秒となった……!


 ゲームはいよいよ、クライマックスだ……!


 さぁ、人間どもよ……!

 生き残りをかけて、悩め、苦しめ……!


 我を、楽しませるのだ……!』



「って、もう!? 普通、説明の時間はカウントしねぇだろ!? クソッ! こんな杜撰(ずさん)なデスゲームで殺されるなんて、まっぴらごめんだっ! ……そうだ! いったいどっちのボタンを押せば助かるのか、神のおぼしめしを……!」



 村人のような少年は、人類滅亡の危機を前にして、聖女にすがった。


 しかし、そこにはもういない。


 納屋の出入り口のほうを見やると、開けっぱなしの戸口が、虚しく風で揺れており……。

 今まで見たこともないような全力疾走で、遠巻きの人だかりに向かって走り去っていく、聖女の後ろ姿が……!



「に……逃げたぁーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 少年は自分も逃げようとしたが、はたと気付く。



「に……逃げても、意味がねぇっ! だって時間切れになったら、全員死ぬ……!」



 彼は一瞬だけ逡巡したあと、装置のボタンに飛びかかった。



「ええいっ! ままよっ!!」



 その頃、逃げ出した聖女はというと、安全圏にいた民衆たちから質問攻めにあっていた。

 しかし、彼女は敬虔なる表情で、



「彼はわたくしを助けるために、わたくしを突き飛ばしたのです。死ぬのは、自分だけでよいと……!」



「突き飛ばしたって、この距離を……?」



「っていうか聖女様、思いっきり走ってませんでした……?」



「めっちゃオッパイ揺れてましたけど……」



「とにかく、彼なら大丈夫です。わたくしが祈りを施しておきましたので。ですので、きっと奇跡が舞い降りることでしょう」



 彼女の言葉が終わるやいなや、



 ……ズッ、ドォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!



 数百メートル離れた彼の地から、地を揺らすほどの爆音とともに、未曾有の憤炎が天を衝いた。

 熱風と爆風が押し寄せ、人々はドミノのようになぎ倒される。


 この世の終焉さながらに、天を紅蓮に染める炎の柱に、誰かが叫んだ。



「あ、あれは……!? 『爆炎魔法』っ!? しかも、とんでもなくデケェ!」



「ってことは、ハズレを引いちまったんだ!」



「あ、あの少年は、自らを犠牲にして、世界を……!」



 顔を焦がすような熱波の凄まじさは、少年が骨まで焼き尽くされたことを物語っていた。

 人々は瞳を潤ませながら、祈りを捧げる。



 そして、彼らは目の当たりにする。

 奇跡が舞い降りた、瞬間を。


 逆巻く炎の中に、なんと、人影を見たのだ……!



「えっ……!? えええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーっ!?!?」



 大草原のなかを、寄せては返す驚愕の中……。

 炎の中から、スポッと出てきたのは……。


 少年っ……!?


 チリチリパーマと、煤けた顔、服は焦げてボロボロになってはいるが……。


 まぎれもない、あの(●●)少年であった……!


 爆炎魔法の爆心地にいて生き残るなど、奇跡でも起こらない限りはありえない、異常事態なのだが……。


 しかし、この少年にとっては……。

 最大級の爆炎魔法ですら、爆発コントレベルにまでしてしまう、この少年にとっては……。


 普通(●●)の、出来事であった……!



「しっかし……さすがに効いたぜ、コレは……!」



 それでもさすがに、少年の足取りはふらついている。


 しかしそれすらも、嘘……!


 彼は職業柄、ちょっとのダメージでも、大げさに振る舞うのだ……!


 それを証拠に、彼の生命力(ヒットポイント)は……。



 少年 HP 4,599,900,000 / 4,600,000,000



 たったの0.002パーセントしか、減っていなかったのだから……!

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