家庭教師、読書する
家に帰って、ホッとした。
初日はたいてい緊張する。
今日は、居並ぶ女房方に説教たれたりして、わざとエラソーな演技入ってたので、疲れた。
湯船たっぷりのお風呂にローズのバスソルト入れて、ゆるゆるのスウェットを着て、コンビニのおでんにビール!
現代人、サイコー。
ひと息ついて、気になっていた本を引っ張り出した。
『堤中納言物語』
古典である。
成立は不明。一三世紀半ばごろに成立か、と言われているが、詳しいことは分かっていない。
編者も不明。何年かけて作られたのかも不明。下手したら二百年ほどかかった、可能性もあるらしい。
10編ほどの短編集なのだけれど、微妙な話が多い。あらすじも説明できないほど支離滅裂な話、オチがない話、結末がなく未完の話など、どうしてこれらが集められたのか、謎なのだ。
ちなみに、「堤中納言」という人物は、この物語には登場しない。しかも、現実にも、存在したことはない。
「言いにくいことを包んで伝えます」という意味の題名だ、というのが現代の説だけれど、なんで中納言なのか。これまた謎である。
それでもこの本が有名なのは、ただ一つ、とても人気のある短編のせいだ。
『虫愛ずる姫君』
とある貴族のお姫様が、ものすごくかわいいのに、容姿に構わずオシャレもせず、虫を集めて観察している、という話である。
そして、姫の子分の男の子達の名前が、けらお・ひきまろ・いなごまろ・あめひこ!
けら男って名前に、聞き覚えがあったんだよな~。
これって、そのまま、ずばり、大姫だよね。
『堤中納言物語』は、公開しても問題がないくらい時間が経ってから、実際にあったことを、多少フィクションにして物語形式にした、と考えられている。
もしも大姫が、この話のモデルなら、この先の大姫をカンニングできちゃうじゃないか。すごい楽ちん。
ズボラなことを考えつつ、わたしはビール片手に、読み始めた。
……おお、なんの参考にもならなかったわ。
短いので、すぐに読み終わった。
基本的に、大姫は裳着を終えても、まったく変わっていない。親や女房に諭されると、理路整然と反論する。
そして、そんな変人姫をからかうために、恋愛ゲームを仕掛ける不届きな男が出てくる。それでも、姫君のほうが一枚上手で、やり込めて、追い返す……。
それで、未完。
まさかの、結論ナシ。
その後大姫はどうなったのか、その男はあきらめたのか、一切説明もなく、ものすごい中途半端なぶった切れかたである。
まあ、エピソードの紹介だから、オチはいらないかもしれないけれど……。
いやでも、これ、物語としても、破綻してるよね?!
この姫君が、大姫とは言い切れないけれど、お説教してくる女房に言い返す姿とか、目に浮かぶようだ。この女房なんて、絶対、大輔の君だよな~。
「女とはかくあるべき」という姿に、敢然と反し、自分の望む道をいく女の子。
そういう話が、物語集に選ばれ、現代でも人気だということは、嬉しい気がする。
でも、この話のとおりだとすると、わたしが指導しても、大姫はまったく変わらない、ってことに、ならないか。
これでもプロ家庭教師。今まで依頼を失敗したことがないのが、セールスポイントなんだけどなあ……。
「大姫ヤマトナデシコ化花嫁修業」の指導方針は、なかなか難しそうだ。
明日から、本気出そうっと……。