どうやら幼馴染は内心悶えているようです
最後にちょこっと京也視点です。
これで性転換一日目は終了です。
なんだか京也の様子が変だったが、特に気にしないで家に戻り、俺は夕食を作ることにした。
京也に言った通り今日は肉じゃがである。
肉じゃが美味しいよね、俺はじゃがいもがほろほろになるまでしっかり煮込む方だ。
無地のエプロンをつけて、邪魔な長い髪を纏めるが、不格好になってしまった。今まで自分の髪を結ったことが無いのだから当然かもしれないが、何となく落ち着かないので気が済むまで綺麗にする。
あっ、髪纏めるのって難しいな。世の女子は大変だな………どうすればできるか検索っと。……………へぇ、こんな髪型があるんだ、挑戦してみよ、ここを、こうして?なんだよ美容師さん手先器用すぎるだろ素人に出来るわけが、いやでもここで諦めるのは負けた気が……………
なんてやってたらいつの間にか、サイドを垂らして編み込みなどを入れた凝った髪型になっていた。
ネットで『簡単 編み込み』なんて調べている自分が怖い。
ていうか大分時間が経ってるし。どんだけ熱中していたんだよ。
まぁ、体が変わって、手のひらとか小さくなったし、若干動かすのに違和感があったから、それを把握する時間だったことにしよう。そうしよう。
俺はやけに主張する髪型を気にしないで、京也の何やってんだこいつという視線は黙殺して料理をする。
我が家は昔から母親とか父親がふらふらしている家だったので、俺は人並みに家事ができる。炊事洗濯掃除ができる男なのだよ!なんていうんだっけこういうの、主夫?
時々親がいないって寂しくない?とか言われるけどこれが俺にとっては普通だし、帰ってきた時とかはめっちゃ構われる。いなかった時の反動らしいがそれが尋常ではなく、お土産とかも部屋ひとつ埋まるくらい多いので寂しいと思ったことはほぼ無いな。
それに親がいない時は京也の家に入り浸っているからなー、第二の家というか第一の家と言っても過言ではないくらい京也の家で過ごしている。幸子さんとか優しいし、京介さんにもお世話になっている、ありがたやー。
「京也ー、出来たからお皿とか出してくれ」
「ん、いい匂いすんなー。瞬って意外と料理上手だよね」
「意外とってなんだよ。あ、つまりこれはあれだ、ギャップってやつ?女子にモテちゃう的な?」
「あっはっは、それはないな」
「なんだよ家事ができない男の僻みかよ、俺の料理食べておいて、ひどいわ!所詮あなたにとって私はその程度の存在だったのね!」
「唐突の昼ドラ。そうだよ、君なんてただの浮気相手さ。俺は元々離婚する気なんてさらさらなかったんだよ」
「相手の男がクズだな。離婚するって言ったじゃない!だから私は、って京也その皿は洗うのめんどくさいからこっちにして」
「あ、ごめん」
準備する間にちょっとしたコントを挟んでしまうのは長年の幼馴染で染み付いた性である。これを直すことは誰にも出来ないのだ……………
白米とお味噌汁と肉じゃがとあとちょっとしたおかずを並べて椅子に座る。
「いただきまーす」
「はいどーぞ。いただきます」
ん、味がちゃんと染み込んでるな。これはいい出来。
あ、けどいつもより味が濃い?これは女体化の影響かな。前テレビかなんかでやってたけど女性の方が男性よりも味覚が鋭敏なんだそうだ。
ていうかもう受け入れたけど女子になっても案外生活は変わんないものなんだな。京也との関係性も変わってしまうかと思って、少し不安だったが、杞憂だったっぽい。
そんなことを考えてたらじっ、と京也を見ていたらしく、京也が不思議そうに首を傾げた。
「どした?」
「ん?いや、ちょっとさ、ほら、女になったら京也との関係も、変わっちゃうのかなって思ってたから、変わんなくて安心した、って話!」
改めて言うのはちょっと恥ずかしくて、へへっと笑いながら語尾を強めた。
あぁもう恥ずかしいな。と誤魔化すようにご飯を掻き込む。
ごん、と京也の顔がテーブルに打ちつけられた。
あれ、自分から打ちにいってるな。
「へっ?どうした大丈夫か?」
「うん、なんでもない、ちょっと破壊力が強かっただけだから」
俯いたまま大丈夫と言ってくる京也にとうとう頭がおかしくなったのか、とおろおろするが、大丈夫大丈夫と俺を抑えるので席に座り直す。
そのまま京也はうぁーとか照れながらはヤバいって……とかもごもご言っていた。よくわからん。
本当に大丈夫だろうか。
「もしかしたらキットの影響かもしれないじゃん、本当に大丈夫なのか?」
「いや、そうだけど、うん、そういうんじゃないから」
と、やっと京也が起き上がる。
額は真っ赤になって痛そうだったが、大丈夫を連呼するので無理矢理納得することにした。
夕食を食べ終わって、暫くまったりする。
テレビでは最近流行りのお笑い芸人が出ていて、そこそこに面白い。
ソファで隣に座っている京也も笑っていて、さっきのは本当に大丈夫のようだ。
時計を見ると、8時半を少し過ぎている。色々あって今日は疲れたから、早めに寝るかなー。
ぺし、と京也の腕を叩いて気を引く。
座高のせいで少しばかり上を見るのは女体化する前からなのだが、身長欲しい。くそっ、すくすく伸びやがって。180後半とか羨ましい……………っ。
じとっとした目になるのはしょうがない。
「風呂入れるけど先に入る?」
「っ、あーうん、先入らせてもらおうかな」
「おっけ」
立ち上がって風呂場に向かった俺は、リビングで、京也が内心めちゃくちゃに悶えていたことなんて知らないのであった。
◇◇◇◇
「よし、と」
風呂を洗い終えて、お湯を張る。
タオルとかを一応用意するけど、この髪長いから大きい方がいいかな。つか下着どうしよ。トランクスでいっか!
けど上がなー、擦れて微妙に不快だし、揺れる。
母さんが送ってくれるらしいからそれを待つしかないか……一応女子になったことを受け入れはしたけど、流石にまだ女性下着売り場に特攻できるほど覚悟出来てないぞ。
リビングに入って、テレビの前のソファに座っている京也に声をかける。
「京也ー、風呂入れたから、入って」
「おー」
さて、俺は京也が風呂に入っている間に布団敷いたり、明日のご飯の支度でもするかな。
と予定を立てていたらリビングのドアが開いた。
「出たぞ」
首にタオルを掛け、我が家にいつの間にか常備されていた京也のTシャツとスラックスを身につけている。
髪は乾き始めているもののちゃんと濡れているし、肌の血色もいい。
いやそれにしても。
「お前早くね?そんなカラスの行水だったっけ」
「いや、瞬女子だし、慣れないだろうから長く入るかなって。つか瞬体洗えんの?」
「は?洗えるだろ。俺元々性欲薄いし、今の女の体俺自身だし。京也じゃないんですよ?」
「失礼な。けど割り切ってんなー」
感心したように言われてもなぁ。
「ま、出たなら俺次入るわ」
風呂場に向かおうとして、止まる。
くるっと振り返って、一応言っておいた。
「俺が女子だからって覗くなよ?」
「覗かねーよ」
「いや俺が女子になった動機が動機だから」
「いや、それは……………否定できないけども」
「ま、覗いてもいいけど」
「いいのかよ!?」
「京也だし、今更裸見られたくらいで特には何とも思わねーよ」
「いやけど覗かないって」
「あっはっは、じゃー風呂入ってくるわ」
少しだけ京也をからかった後、入浴。
体を洗うのは特に何ともなかった。男に比べて全体的に柔らかいので強く洗いすぎないようにしなくちゃだけど。俺は元々肌があんまり強くないので変わらないだろう。
難敵だったのが髪。よくわかんないので母さんのシャンプーとリンスを使わせてもらった。シャンプーに洗い方が書いてあって助かった。
それにしても、やっぱり男に比べて時間がかかる。京也が短い時間で助かったな。
そして最後に浴槽に入る。
浴槽の蓋を開けると白い湯気が立ち上った。俺はお湯の温度は高めが好きなのだ。
ゆっくりと足を入れると、静かに波紋が広がった。そのまま全身をお湯に浸からせる。
「ふわぁ……………」
やっぱり風呂は至福である。
あったかくて体が蕩けそう。
身体中の筋肉が弛緩していき、気持ちがリラックスしていく、この瞬間風呂に入ってよかったなーと思える。
だらぁ、とのんびり浸かった後、そろそろ逆上せそうなので上がることにした。
置いておいたタオルで体を拭いて、いつものパジャマを着る。
ズボンは若干腰周りが緩いくらいで大丈夫だが、胸元がきつい。俺は寝る時はゆるゆるが好きで、締め付けられるのは嫌いなのだ。
よし、京也のTシャツを借りるか。
「出たぞー」
「おー、長かったな……………!??」
こっちを見て驚愕の表情を浮かべる京也。
目は見開いてるし、口もあんぐりとしている。
「ん?」
「彼、シャツ、だと……………!?」
「何言ってんだよ、きしょいな。胸元がキツかったから借りたんだけど。あ、事後だけど借りた」
「借りるのは全然いいよ……………」
つか彼シャツて。
「彼シャツとか発言ウケるんだけど」
「ウケないでほしいな、ダメージ受けちゃうから。けど着るにしても俺のTシャツデカくないか?」
「いや?丁度いいけど」
ほら、と回転してみる。
あんまりズレないのでちょうどいい大きさなのでは?
と俺は思うのだが京也は違うらしい。
「肩出そうだけど」
「あ、ほんとだ」
このくらい許容範囲じゃないかなぁ。
京也に直されつつ思う。寝ればズレるし、意味なくない?
「ていうか、瞬下着着てないよな?」
「そうだな、買ってないし」
「男の時に買ってたら変態だと思うけど。ということはこの胸は下着無しでこんなに綺麗な形なのか……………?」
見る。
確かに綺麗なお椀形である。重力にめちゃくちゃ逆らってるぞ、これ。
「そうなるな」
「ヤバいな」
「自分事だけどヤバいなー。こんなん二次元だけかと思ってた」
「それが目の前にあるという素晴らしさよ……………」
真剣な表情でそのまま胸の形談義に入りかける。
どうでもいいが、京也は胸に対して並々ならぬ思いがあるようだ。昔から知ってるのは京也はどんな大きさの胸でも等しく素晴らしいと思うらしいが、一番好きなのは美乳だということだ。本当にどうでもいいな。
「触る?」
「What?」
「そんな驚く?いや、そんなに好きなら触りたいかなって思ったんだけど」
「いやいやいや体の安売りはいかんよ瞬さん」
「いいならいいけど」
「ちょっと待ってください、体の安売りはよくないけど、ここには男の浪漫があるんだ……………!」
「どっちだよ」
非常に苦悩した様子でうんうん唸っているけど、そんな重要なものだろうか。元男の胸だぞ。
「(……………素晴らしい胸がここにある……………しかしこれは瞬の所有物という唯一にして最大の問題点が……………女の子扱い嫌がってたしなぁ、こういうことするのはアリなの?ナシなの?けど瞬のほうから言ってきたしなぁ……………)」
暫くずっと葛藤してたようだけど、結論が出たようだ。
「い、今はいいかな……………」
「そう?」
まだ未練はあるようだが、いいらしい。別に触りたいなら触ればいいと思うんだけどね、減るもんじゃないし。
まぁ京也には京也の考えがあるんだろう。
くぁ、と欠伸が出る。
眠い。
「俺はもう寝るけど、京也は?」
「んー、特にすることないからな、じゃあ俺も寝るわ」
京也が家に泊まる時用の布団を出して、俺の部屋に敷く。
何か言いたそうだったが、「いつものことだろ?」と言えば特には言ってこなかった。
ぱち、と電気を消して布団に入る。
ドタバタしていた今日もこれでようやくおしまいである。
疲れたなぁ。明日になったら何が起きるか不安だが、なんとかなるだろ、多分。
それでは、おやすみなさい。
瞼を閉じると、俺の意識はゆっくりと薄れていった。
◇◇◇◇
「(なんかいい匂いするし、今日寝れるだろうか…………俺一応男なんですけどね、危機感はないのか?無いんだろうな……………瞬は元男だけど!!!それでも気にして欲しいんですよ!……………いやなんでひとりツッコミしてんだろう)」
だから、京也が眠れない夜を過ごしたなんてことは全くもって知らなかったのだ。
読んでくださりありがとうございます。