351話 氾濫鎮圧 2
今週は不定期ですが投稿できました。お眼鏡に叶うと幸いです。
マコトとは色々な因縁の有る世界樹の存在する古き森には十数万にも及ぶ公国に所属する武装勢力が集結していた。
「陛下、公国正規軍、武装親衛隊、武装侍女隊の展開がほぼ完了しました。冒険者、森林警備の部隊は後方警戒にあたり討ち漏らしや後方浸透に警戒します」
「思えば、我が国も大所帯になった。自分とアリシア、そして数人のエルフの奴隷で始めた活動が一国となり、一軍となったのだからな」
マコトは森の一角に設けられた臨時野戦司令部の大天幕の中で居並ぶ将官を前にして思わず、といった風に口にする。
「陛下が冒険者として活動を開始されて10年と経たずして今のこの国が有るのですから。諸兄諸氏から昔話を聞くたびに何処の英雄譚かと思わされます」
「昔話か・・・・、余計に歳をとった気がするな。それで、作戦は?」
「はい」
1人の参謀肩章を付けた大佐が大天幕の床に設置された液晶ディスプレイを指揮杖のような物で指すと画面が切り替わる。
「作戦は主力を正規軍部隊とします。各種車輌は投入しますが深い森林地帯ということで戦車は行動が制限されますので各要所の防衛、いざというときの切り札という扱いになり大規模には投入はしません。
歩兵部隊により包囲網を形成しつつ、古き森各所を切り開いた場所に配備した長距離砲部隊と上空に待機した空中艦隊による砲撃で昆虫型魔物の密集地帯を焼き払います」
ここで、参謀大佐は将官の列の一角に軽く目線をやる。
「先に投入された魔石兵器の残留地域には兵器への影響が不明の為に砲撃は行わずに魔物の掃討段階に移行した際に部隊を派遣して魔石兵器の回収作業を行うものとしております」
何処からか「ギリッ」という歯軋りの音がする。魔石兵器を開発した開発局の関係者だろう。
そこで、将官の列から手が上がる。
「どうぞ」
参謀大佐が発言を許可する。
「森を焼き払うと言うが、延焼した際は如何するのだ?木の幹だけでなく長年に堆積した葉の層などに着火すると容易には鎮火出来ん。まさか、また陛下のお力を借りるつもりか?」(239話参照)
「諸将官の心配もごもっともです。今回は前回の反省を生かし、より強力に改造したMOAB(mother of all bome 全ての爆弾の母)を多数実戦投入しております。勿論、火災の鎮火だけではなく魔物への攻撃にも使用しますが」
他に質問はないようだった。このような大規模作戦時は作戦会議前にはある程度の根回しがされているものだ。得に今回は敵が魔物であり、公王の臨席する作戦会議であったことからスムーズに司会運行する為に念入りに根回しが行われたことだろう。
「では、作戦の詳細に移らせていただきます」
そう参謀大佐が再度指揮杖を動かすと画面が切り替わる。こうした機材が多く必要な為に本来、中規模な作戦などに使用される移動作戦指揮車輌は今回は使用されず、マコトの希望もあり大型空中艦の会議室も使用されなかった。
「まず、作戦の第一段階は・・・・」
参謀大佐が説明を始めようとした時だった。
ドンドンドン!ドンドンドン!
ボコン! ボコン! ボコン!
大天幕の外で中型、大型の砲が一斉に砲撃を開始した。
「何だ、何事かぁ!!」
邪魔された形になった参謀大佐が怒鳴る。
「火急の用件にて失礼します!」
大天幕の警備兵の誰何を遮り、別の天幕に居た情報将校が入室する。
「蟻型の魔物が当司令部8Km地点に突如として出現。恐らく此方の警戒深度を超えた深さの巣穴を掘り、一気に地上までの穴を掘り抜いたものと思われます。現在、司令部直下の砲撃部隊が応戦中ですが間も無く歩兵部隊も戦闘を開始します!」
臨時野戦司令部が一瞬静まり返る。情報が入り皆がそれを吟味しているのだろう。
「空中艦隊に迎えを寄越させるんだ。輸送ヘリコプター『アナコンダ』を、いや空中巡洋艦を直接ここに降ろさせろ。司令部要員を全て乗せて一時離脱する」
マコトが一部とはいえ公国軍の撤退を指示する。ここまでほぼ戦場での勝利を積み重ねてきた将官はその事実にマコトにその判断をさせた己を恥じた。参謀大佐などは、
「は、離せ。指揮をとりに行くだけだ」
拳銃を片手に大天幕の外に独りで出ようとしていたが、他の将官に羽交い締めされる。
冷静に考えれば参謀大佐1人の責任では無いし、作戦の全容を知っている参謀大佐が自決などすれば混乱は酷くなるのは目に見えていたがそれも考えれなくなるほどショックを受けた参謀大佐の心境を察した者らが逸早く動いたのだった。
「この魔物の動きが偶然なのか、意図有る行動なのか現時点では判別がつかない。この軍の頭脳として我々は今は脱出せねばならない。地上部隊の統制は一時的に空中戦艦内に設置した第二司令部に任せる。部隊が孤立しないよう柔軟に指揮させよ」
「「「「「ハッ」」」」」
将官が一斉に敬礼し、各々の出来る事を始める。
「しかし、久しぶりの鉄火場だな」
そう言うマコトの顔には笑みが。
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