346話 回帰 4
先週は投稿せずに申し訳ありませんでした。体調がすぐれず、今後も有るかもしれませんが継続するつもりはあります。
日本国 某県○○市内 深夜の郊外
夕闇が訪れ帰宅時間帯をだいぶ過ぎた頃、1人の女性が足早に歩いていた。周辺は過疎化が進み民家も点在しているが互いの距離は離れており、街灯も老朽化からかまばらにしか点灯していない。
そんな都会よりも闇が多く存在する歩道と道路の区別の無い田舎道に女性の足音と虫や種類の分からない生き物の鳴き声がしていた。
「香代子の家で久し振りだからってお喋りしすぎたわね。少し不用心だったかしら」
女性は県内の他の市で仕事をしていたが、最近ストーカーの影を感じてストレスで体調を崩していた。警察にも相談してパトカーの巡回も増えていたが知り合いの勧めで一時的に自宅を離れて実家に帰省していた。
ストーカーも知らない筈の地元で気分転換に散歩をしていると地元に残っていた中学時代の同級生と数年振りに再会し、彼女の家で想い出話に華を咲かせているとこんな時間になってしまったのだ。
「歩いて帰れる距離だからって車で送ってもらうのを断ったけどやっぱり頼めば良かった」
ウオーキングのために所持品は携帯とタオル、家の鍵ぐらいしか入っていない。携帯のライト機能で道を照らしながら何とか帰宅しようとしていた。
「暗いから少し不気味だけど・・・・、あ!この場所にあった家が無くなってる。学生の頃にお婆ちゃんが独り暮ししていて通った時に挨拶してくれていたけど家が無くなってるってことは亡くなったのかな?」
不安を独り言で誤魔化しつつも歩いていると、彼女は唐突に気が付いた。周囲の動物や虫の鳴き声がしなくなり、足音がもうひとつしていることに。
「・・・・・・」
彼女は独り言を止めて歩調を速める。遠目に民家の光が見えるが何と心細い明かりか。
『もしかしたら、近所の人が健康法で仕事終わりに私と同じようにウオーキングをしているだけかもしれない。きっとそうよ。ストーカーなんかが数十kmも離れた私の実家を知ってる筈無いもの!』
心の中で自分を励ましつつ、早く実家に帰ろうと焦る彼女の目に手元の携帯が赤く点滅しているのが見えた。
「あ、充電してなかった」
焦っていたからか、バッテリー残量を示す表示に暫く気付いていなかったようだ。画面を見るとあと『1%』の表示。
「嘘、嘘。こんなところで明かりが無くなるなんて!」
いよいよ走るようにして歩くが、無情にも民家の明かりのかなり手前でバッテリーが切れ、明かりが無くなる。
「大丈夫よ。星明かりも有るし、あの光は大谷さんの家だもの。道はしっかりと分かa・・・・!」
自分を落ち着かせようと独り言を言っているといきなり背後から抱き付かれて布で口をふさがれてしまった。
「ん~!んんん~!!!」
必死に足をバタつかせて身体を揺らすが相手はかなりの大柄な体格のようで彼女の抵抗を難なく押さえ付ける。
《誰か助けて、お父さん、お母さん、まこちゃん!》
心の中で助けを家族、そして疎遠になってしまった1歳年上の幼馴染みの名前を咄嗟に祈る。
「ゴげらッッ!!」
急に身体を押さえ付けていた男(汚い悲鳴で男と分かった)が、悲鳴をあげて女性の身体から手を離した。
「コ、ゴホン!ゴホン!うぇぇぇ!」
いきなり解放されて正常に呼吸出来るようになり、彼女は咳き込んでえずいてしまう。
「お前、優香に何してんだ」
呼吸が整い、彼女、出雲優香が顔を上げると暗闇にうっすらと男が2人路上に居るのが見えた。尻餅をついているのが彼女を襲った男だろう。もう1人の男は・・・・・。
「え・・・、まこちゃん?」
光源が星明かりのみで後ろ姿なのもあり顔ははっきりと見えないが、声、その雰囲気はだいぶ大人びているが幼馴染みの面影を感じさせるものだった。
「・・・・・」
尻餅をついていた男がいきなり立ち上がるとポケットから何かを取り出す。僅かな星明かりに照らされる物は
「ナイフ!?」
男は無言で、立っていた男に突進していく。
「外道が」
立っていた男の声と同時に周囲が強力な明かりで照らし出される。
パシュ!パシュ!
映画やドラマで聞いたような音がした。
「がああああ!糞が!銃だと!警察かよ!」
襲って来た男、もう犯罪者でよいだろう。犯罪者が初めて言葉を発して汚く罵る。
「自分は彼らほど優しく無い」
彼女を助けた男は消音器付きの拳銃を犯罪者に向けたまま言う。
「拘束しろ」
男の言葉で照らされる犯罪者の回りに数人の黒い作業服の男女が向かう。ここには自分と犯罪者だけでは無かったんだ、彼女はそう思った。それよりも彼女にはしないといけないことがあった。
「まこちゃん、何で今まで連絡くれなかったのよ!」
連行される犯罪者を見ていた男に彼女は詰め寄る。男が振り返る。ライトの光でその顔が照らされる。
「あ・・・・」
そこにあったのは確かに幼馴染みの少年の面影を感じさせるがしかし、別人の、火傷や裂傷の跡の残る男の顔だった。
「あ、す、すみません。知人と勘違いしてしまいました。助けてもらってありがとうございます」
「名前を呼んだのは失敗だったな」
2人はほぼ同時に声を発していた。しかし、そこには食い違いがあった。彼女は男を幼馴染みと勘違いした、と謝罪していた。男、真は彼女の名前を呼んだことで正体がバレたと思っていた。
「「・・・・・」」
無言
「それでは、あの男は警察署前に放り出してくる。叩けば余罪がゴロゴロ出てくるだろう。失礼する」
そう言って立ち去ろうとした真に対して、
「ちょっと待たんかい!」
彼女は作業服の襟首を掴んで捕まえた。
「ぐっ」
「何をしれっとまた居なくなろうとしてんのよ、まこちゃん!高校卒業して居なくなってもう何年も経つんだよ!!」
「・・・・スマン」
「グスン、正座!」
「・・・・はい」
そんな男女のやり取りを、ヤマト公国情報部の面々は生温かく見守っていた。
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