340話 日本(ニッポン) 5
台風10号は雨足が強くて自分の地域は道が封鎖されて通勤経路の変更を余儀なくされました。皆さんはどうでしたか?
「もしや、今回の日本国側の代表には役職持ちの方がいらっしゃって居ないのですか?」
カーチャ・D大佐の表情が険しくなる。周囲の歩兵、親衛隊の雰囲気も緊張する。
外交交渉議員団や各省庁の職員も顔色が青ざめる。
「こちらの世界の外交方法は知りませんが、我が国は国家元首が出向いているのに日本国側はどうしたことでしょう?」
D大佐の薄いコーヒ豆色のような褐色の肌に金髪ロングをポニーテールにしたスタイルを漆黒の軍服に包んだ姿で首を傾げて議員団団長の平田議員の顔を覗き込む。
その眼からはハイライトが消え、焦点が定まらない表情で平田議員の前に立ちふさがる。
「え~、それに関しましては、鋭意調整中と申しますか・・・・」
「仮にも、国家元首が来ているんですよ?確かに通知は遅かったかもしれませんが、それなりの立場の者を寄越すべきでは無いですか?それなのに無役職の有象無象を寄越すとは陛下を馬鹿にしているのか、貴様ら?」
「カ、カーチャさん?」
D大佐の変化に平田議員が戸惑う。
「我らの陛下がわざわざ出向いたのに、最低限の対応も出来んのか、日本国というのは?本当に我らの陛下の出身地なのか?それとも、こちらを試しているのか?ああ?」
「ヤバい、大佐が切れすぎてる。それに今は言っちゃ不味いこと口走ってる」
「大佐~!ステイ、ステイ!落ち着いてください!」
D大佐の周囲の親衛隊隊員たちが制止しようとするが・・・・・。
「ああああん?」
D大佐の一睨みで隊員たちは二の足を踏む。ヤマト公国軍の兵士達も一触即発の雰囲気だったが、ぶちギレていたD大佐の様子を見て流石に止めに入ろうとしたが殺気しか感じない視線で怯む。
「邪魔をするな。今、この平和ボケした馬鹿どもに・・・・」
D大佐の肩に手を置く者が居た。
『よい』
鎧甲冑姿でくぐもった声を発したのはマコトだった。
『自分のために、きみがそこまで哀しむことはない』
日本側も直接の発言はしない、と聞いていた人物が突然声を発したことに驚いていた。
『わざわざ、お出迎えいただき恐縮だが。今の我々はその手を取り握手することはできないようだ。会談はまた別の機会としよう。失礼する』
マコトは日本側の人員にキッパリと拒絶の意思を示す。
「・・・・!!陛下、所属不明のヘリコプターが警戒空域に出現しました!間も無く視界に入ります!」
マコトの傍に控えて居た通信兵が緊急通信を報告する。
「何だと?何故そんなにも接近を許した!」
「宮島の直近のヘリコプター発着場から飛び立った機体のようです。何故か日本側の警備の反応が遅いです」
「陛下、こちらへ!兵らで肉の壁を築きます。御身には近付けさせません」
再始動したD大佐がマコトを守ろうとする。
『無用だ。どうやら降りるようだ』
日本国側にも動きがあった。どうやらなにやら連絡が入ったようだ。民間のヘリコプターが岸壁の外れに広がる空き地に着陸する。
「お待たせして申し訳ありません!公王陛下!」
ヘリコプターからは数人のスーツ姿の人物が降り立つ。日本国側の人員がヘリコプターに近付く。ヤマト公国軍側は警戒度を上げる。スーツ姿の人物達は外交交渉団の議員達やマコト達の所へ一直線でやって来た。
「日本国外務副大臣の川下です。今回の会談の代表はこれより私が務めさせてもらいます」
日本国 外交交渉団 関係者スペース
「おい!あの民間ヘリから降りてきたの川下外務副大臣じゃないのか?それに何で今になって、しかも民間ヘリで?」
「知るかよ!それよりもこれで何とか体裁が保てそうだ」
「いや~、何とか間に合いましたか」
各省庁の職員達がひそひそ話をしていると安心したような声が聞こえた。
「川上議員、間に合ったとは?」
「川下副大臣は私の母方の叔父でして。今回も会談の問題を大急ぎで連絡したんですよ。まさか民間ヘリをチャーターして直接来るとまでは思いませんでしたが。勿論、皆さんがそれぞれの職場に報告してくれた事も大きかったと思います」
スーツ姿の人物の1人が川上議員の所へ来た。
「川上議員ですね?今の状況はどうでしょう?」
「何とか間に合ったところです。公国側は交渉を打ち切ろうとしていました」
「!!それは何とも。本来は大臣に来てもらうところですが、生憎と現在外遊中で国内に不在ですので副大臣の出番となりましたが、結果的には良かったようですね」
「電話でお伝えしたように、公国は公王を君主とする王制国家です。彼らは出迎えに無役の議員しか来ていなかったことで主君を軽く見られた、と怒っています。慎重な対応が必要です」
「分かりました。首相からは出来る限りの交渉に関する権限をもぎ取って来ましたので何とか会談を形にしましょう」
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