339話 日本(ニッポン) 4
台風10号が接近中ということで皆さん、お気を付け下さい。
ヤマト公国軍地球派遣艦隊 旗艦 戦艦《黄泉》艦外
マコトが黒い軍服の親衛隊に囲まれて戦艦下部の格納庫から魔法装置により生じた足場を歩いて出て行く。こういう場合は通常ならば主賓級は乗り物なり何なりに乗って出てくるのが慣例のようなものだが敢えてマコトは徒歩で行く。
マコトの姿はこの日の為に新調した漆黒の全身金属鎧だ。兜を下ろして顔も見えないようにしている。この日は些か日差しが強かったがその日光を反射することも無く、タダそこに人型の影が有るようだった。
艦載の魔法装置による行進曲が響く中、ヤマト公国の一団は陸地へと向かい行進する。
ヤマト公国軍地球派遣艦隊 旗艦 戦艦《黄泉》艦橋
「魔導動甲冑部隊、発艦します」
一部の大型艦から哨戒にあたっていた機体とは別の魔導動甲冑部隊が発艦していく。彼らは徒歩の部隊とは少し距離をあけて足場に着地して脚部を使い行進する。見映えの良いライフル砲タイプの武器を肩に担って兵士のように二列縦体で進んで行く。
今回の行進部隊は以上だ。車両群は今回は島ということもあり、面積、必要性の観点から上陸させない事が決まっていたし、いきなり全ての装備を御披露目する必要もなかった。
日本国 外交交渉議員団
「おい、アレどうすんだ?」
「明らかに、事前交渉とか打ち合わせのレベルじゃあないぞ?」
「くそ!異世界の国から来た未開の国かと思っていたらかなり高度な文明じゃあないか。交渉を有利に進めて実績にする計画が・・・・」
甘い見通しで議員団に参加していた議員達が狼狽え始める。各省庁から派遣された職員達も慌てて報告の電話をしている。その様子を川上議員と元陸上自衛隊陸将の寺門は冷めた視線で見ていた。
「川上さんよ~、あんたもあっちで頭を抱えている立場じゃあねえのか?」
「人間、自分よりも取り乱している人が居れば逆に落ち着く事もあるんですよ。それよりも寺門さんは何処から情報を?」
「まあ、ちょっとした伝でな。政府にも警告はしたんだが、軽視したのか、何かの考えがあるのか余り活用されて無いみたいだな。それよりもマスコミが動きだしてんぞ」
「現場には既に会談を邪魔する存在は多少手荒でも排除するように指示が出ているから現場が何とかするでしょう。あ!寺門さん、連絡先いただいても良いですか?」
「構わんが、良いのか?こんな胡散臭いのと関係して。自称良識派議員達から叩かれるぞ」
「構いませんよ。警備にあたっていた警察官も群衆で立ち入り禁止区域に入ろうとする自称平和団体の対応に行ってしまいましたし、議員や各省庁はそれどころじゃあ無いので気付いていませんから」
「若いのに肝が座っているな。あんたの連絡先もくれよ」
2人は互いの連絡先を交換した。
「じゃあ取り敢えず俺は一旦姿を消すわ。またすぐにでも会うかも知れんが。嗚呼、そうだ、見所のあるあんたには言っておいてやろう『彼は日本を知っている』そう覚えておけよ」
「『彼』?」
聞き返す間も無く、寺門の乗ってきた4WDが寺門の前に来て、寺門は素早く乗り込むと姿を消した。
日本国 某テレビ局スタッフ
「すげえ!政府からの公式発表はなかったが、H県警やら周辺県警、各省庁やらH県庁やH市で変な動きが有るって情報でホンキョクからの命令で来てみれば大スクープじゃねえか!」
「はい、はい、そうです。地方の系列局のレポーターでも良いので現場に来させて下さい。本局のが来るまでの繋ぎでも良いので!生放送で流す価値がありますよ!」
「しっかし、これだけの軍艦が日本の領海に入って来ているのに何で誰も騒いで無かったんだ?今見たら政府のホームページには確かに情報が有ったけど誰もそれに言及していなかった。マスコミも政府叩きが趣味のおかしな連中も。誰も彼もフェイクニュースと思ったとしても不自然だ」
「おい!ぶつぶつ言ってないでお前も予備のカメラ回せ!後々使える資料映像を少しでも他局に先じて撮影しておくんだよ!今、『呟き』でも徐々にこの場所の情報が公開され始めた。今は家の独占だ!」
日本国 H県H市宮島 岸壁
そこには既にヤマト公国軍の主要な部隊が集まっていた。場所の問題で歩兵部隊は魔法装置で発生した足場に留まっているが、マコトと親衛隊は島の陸地へと上陸していた。公式にはヤマト公国の人間の初上陸だった。
マコトは甲冑姿で片膝を着くと地面の土を片手で掬ってそれを地面に落としながら黙って見つめていた。周囲の親衛隊も黙ってそれを見ていた。
「本当の意味で自分は日本へ帰って来た!」
そのマコトの呟きは本当に傍に居た隊員にしか聞こえることはなかった。
マコトが立ち上がると、様子を伺っていた議員団が近付く。
「はじめましてヤマト公国の皆さん、私は今回の会談の為に派遣された議員団の団長の平田といいます。どうか宜しくお願いします」
そう言って、右手を出して握手の姿勢を見せる。慌てたのは外務省から派遣された職員達だ。動きの無いヤマト公国を見ていた平田団長の耳元に職員が耳打ちする。
「議員、握手というのはあくまでも地球の代表的な挨拶というだけで絶対ではありません。地球上でも下手をすると文化の違いで握手を侮辱と受け止められて関係が拗れた過去があります」
職員の説明に平田団長は再度ヤマト公国側に視線を戻す。
それを見て、親衛隊から1人のダークエルフの女性将校が進み出る。
「はじめまして、ヤマト公国・武装親衛隊のカーチャ・D大佐です。握手は私どもにもある習慣なので大丈夫です。公王陛下は現在とある理由で直接会話が出来ませんので私が間に入らせていただきます」
「これはどうも、改めまして議員団団長の平田です。我が国はヤマト公国を歓迎します。この会談が良いものになることを願っています」
平田団長は美人の女性の存在にデレデレしていた。実はこの議員、過去に女性問題で追及されて弁解に追われた過去があった。
D大佐(カーチャが名でDがファミリーネームだがD大佐はファミリーネームをここで明かす気は無かった)はその下心ありありの視線を無視してた。
「日本国側の代表の方々はここにいらしゃる人で全員なのでしょうか?」
「はい、そうなります」
「では、平田団長殿、貴方は与党ではどのような役職に就かれているのでしょうか?総理では無い方が政策等に口を出せるだけの役職なのでしょうか?」
丁寧なようで、実はそのまま非難の質問をするD大佐。ヤマト公国側は事前の調査で現在の衆・参両議院の政治家の把握していた。ちなみに平田団長は与党の在籍年数が長いだけの無役だ。議員団には副大臣になった経験者も居たが平田団長が年功序列で黙らせた。
「あの、その・・・・」
「どうしましたか?国家元首の来訪を任されるだけの立場の方がいらっしゃっているのではないのですか?」
いきなり、追及されたくない点を突かれて平田団長は言葉にならなかった。
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