325話 地球(テラ)へ 6
先週は申し訳ありませんでした。今週は土曜日、日曜日の連続投稿を予定しています。
地球 日本国 東京都 某所 不審艦出現の2日後
「先日、海自と海保が公海上で確認したという不審艦について続報は有るのか?」
「合衆国と情報交換ができました。かの国も自衛隊内で噂されていた当該海域の事を把握しており、保険で衛星によるリアルタイムでの監視していたようです」
「何と言っていた」
「海自と海保の報告書通りです『突然現れた』と。最初は広域をカバーするカメラで監視していたようですが突然出現した不審艦を発見してからはカメラの倍率を上げて追跡していたがちょうど30分で出現時と同様に忽然と消えた、ということです」
「国籍、所属、目的も何も分かっていないのだな。公海上に突如として現れてふらふらとふらついて消える。何かの冗談であれば良かったんだが。それで?発端となった自衛隊内での噂の出所については何か調べがついたのか?」
「それですが、今回の事件が発生する2週間程前から突如として隊員間の間で広まったようです。発生源と警務隊が特定しようとしましたが突然ある線でプツリと途絶えてしまうそうです」
「ある線だと?」
「はい。『寺門勉強会』です」
「あの狸爺まだくたばっていなかったのか!確か1ヶ月ほど前に交通事故で集中治療室に入ったきりだった筈だろうが」
「はい。勉強会の人間がどうにか出来ないかと国内外を問わず手を尽くしていたようなんですが・・・・・」
「どうした?ハッキリと言え」
「噂と同時期から未確認ですが本人が杖も車椅子も使わずに勉強会の人間と接触していた、という情報があります」
「はあっ!?1ヶ月前に死にかけていた人間が2週間前に歩いていたのか?実質2週間で退院ということか?全身を骨折して内臓も損傷した大事故で寺門を狙ったテロだという噂も有ったぐらいだぞ!」
「あくまでも未確認ですが」
「不審艦といい、寺門の謎の復活といい、怪しいことが続くな」
「それで何ですが・・・・」
「まだ有るのか?」
「寺門勉強会だけでなく、今回の事件に何処かしら関わりの有りそうな国防関係者に寺門と同じような変化が起こっています。それらの関係者に聞き取りはそれとなく行っていますが皆一様に口を閉ざしています」
「あのなあ、福岡。通常無い事が一度起きることはよくある。二度目も偶然だ。だがな、三度も四度も続くのは必然だ、偶然じゃあ無い。何かが起ころうとしているぞ、この日本で。お前は無理の無い程度で勉強会と変化が起こった奴らを調べろ、人も付けてやる。俺の方も調べてみる」
地球 日本国 首都圏内の某所
「お疲れ様です。寺門さん」
「さん付けなんぞ止してくれ斎藤。俺とお前さんの仲じゃあないか(苦笑)。現役時代は危険分子と見なされていた俺を避けていた優等生のお前さんが集中治療室で管に繋がれていた俺を不可思議な方法で助けてくれたと勉強会の者から聞いた時はまず疑問だったぞ」
「当時は私にも立場、というものがありましたから。『自衛隊は国を守るものだ、政治家の玩具じゃあ無い』と堂々とマスコミの前で宣言出来る現役の陸将は貴方ぐらいだったでしょう。貴方に賛同する人間も居たが危険視する人間も多かった。私には少数派にはなれなかった」
「まあ、人の人生は人それぞれだ。その事について俺がとやかく言うつもりは無い。だがな、何でまたそんなお前さんが俺を助けた?そしてその見返りのあの変な噂だ。お前さんは何を抱え込んでいる?」
寺門元陸将は70代を迎えた白髪にも関わらずピンと伸びた背筋で、60代の斎藤元一等陸佐を鋭い眼光で睨む。寺門の背後には左胸が妙に膨らんだスーツ姿の男が2人立って居た。
斎藤元陸佐は男達を見て、寺門を見て深く息を吐く。
「寺門さん、人払いをお願いできませんか」
「・・・・・お前ら、ちょっと出てけ」
「寺門先生!」
「先生!」
「良いから外に出てろ!!」
スーツの男達は寺門の剣幕に無言で部屋の外に出る。
「すまねえな、悪い奴らじゃねえんだ。それで?聞かせてくれんのか」
「これから話すことは勉強会の方々に話しても大丈夫です。しかし、まずは寺門さんだけに聞いてもらい判断してもらいたかった」
「・・・・・そうか」
「私には親類、家族が多く居ます。皆、贔屓目に見ても良い人間ばかりです。そんな中に妹の子、甥っ子が1人居ました」
「・・・・・・居ました、か」
「はい。その子は穏やかな親類の中で唯一、私と同じ自衛官になってくれました。『守りたい人がいる』そんな当時のキャッチコピーの通りに他人を守りたいんだ、と言っていました。しかし」
「・・・・・」
「任官間もない、その子が居た駐屯地の近辺で酷い火災が起こったそうです。彼は救急車や消防車が到着する前からその黒煙を見ていたそうです。そして火災が鎮火されて現場からは幼い双子の遺体が見つかったそうです」
「・・・・・」
「電話で彼に聞かれましたよ『自衛官は火災の専門家じゃあ無いのは分かっている。でも自分達の人数が居れば何かが出来たのでは無いのか?組織として動くことは出来なかったのか』そう言って身近な有事に動けなかった自分の立場に疑問を抱き隊を去りました」
「・・・・・」
「そうして彼は警察官になったそうです。しかし、数年後に彼は病み、退職して間も無く亡くなりました。彼は悪く言えば夢見がちで、良く言えば純粋だったのでしょう。そして、世間の真実を知って闇に堕ちた」
「しかし、斎藤。それが、」
「これからが本題です。彼の遺体は検視されて葬儀のために家に帰って来ました。しかし、家族が目を離した間に遺体が忽然と消えたのです。それで彼の葬儀はいまだに行われていませんでした。それが、」
斎藤元陸佐は膝の上の拳をぶるぶると震わせる。
「先日、彼が私の家に突如として現れたのです。あの未来を信じきって澄んでいた瞳を暗く濁らせて!」
だいぶどろどろした内容になり、「ファンタジーじゃあ無いな?」と少し反省しています。




