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324話 地球(テラ)へ 5

今日は前回とガラリと変わって現場のお話しにしてみました。

 地球 日本国 排他的経済水域(EEZ)内 海上自衛隊某イージス艦


 「通報があったというのはこの海域近辺だな」


 「艦長、民間の漁船からの国籍マーク、国旗、信号旗の一切無い戦闘艦がEEZ付近を航行しているという情報が通報されたという話ですが(いささ)かおかしくありませんか?」


 「どうしてそう思うんだ副長」


 某イージス艦の艦橋で艦長と副長が会話している。


 「戦闘艦と言いますがその情報が確かならば何故派遣されたのが本艦だけなのでしょうか。一応海保の大型巡視船が数隻派遣されているようですが他国の軍艦であれば戦力に不安があります」


 「では、副長は目標は戦闘艦では無い、と考えるのか?」


 「そこまでは言いませんが、空自、海自を問わずに航空機が1機も捜索に加わらないというのは不自然です」


 「ふむ」


 艦長は考える素振りを見せる。


 『副長にも知らされてはいないが護衛艦隊司令部からはこの海域で《何か》が起こる、という情報がまことしやかに(ささ)かれている。しかし情報源(ソース)が不確からしい。だからこそ司令部も本格的な捜索隊を出すのを渋っているという話しだが副長に話して良いものか?』


 艦長はこの出動の裏事情を副長にも説明するかを悩んでいた。


 「海保はヘリコプターを出して捜索している模様です。航空機は出していませんが。通報は海保に直接通報があったという話ですが、平成に起こった某国の不審船からの銃撃事件ではないのです。自動小銃やロケットランチャーどころか機関砲や対艦ミサイルでの攻撃もあり得るのですからこの対応は不自然です」


 「副長、実はな・・・・」


 「海保のヘリコプターが何かを発見した模様です!」


 周辺海域の無線を調査していた通信手が海保の無線を傍受する。


 「何と言っている?場所は?」


 「待ってください。正規の手段では無いので具合が・・・。場所は当艦の索敵範囲外です。移動が必要ですが、はあ?」


 「何だ、どうした」


 「そ、それが目標は確かに軍艦の外見をしているようです。しかし・・・」


 通信手は言い淀む。


 「目標の軍艦は()()に突然出現したと言っています」


 「うん?艦が空中に突然?」


 「はい」


 「副長、どういうことだと思う?」


 「軍艦かどうかの判断はともかく、艦という巨大な構造物が突然、しかも空中に現れた、というのは報告した海保のパイロットが錯乱でもしていなければ事実だとは思いますが・・・・。一応、護衛艦隊司令部に一報を入れて本艦も当該海域に向かいましょう」


 「そうだな。海保の巡視船に本艦が向かう旨を連絡してくれ」


 「あちらさんに海保さん同士の無線を傍受していたことを指摘されませんか?」


 「ある程度は折り込み済みだろう。あれやこれを言ってくるようなら、此方のレーダーで目標を捉えたからだと言えば良い。あちらさんもイージス艦の正確な性能は知らないはずだしな」


 「了解しました」


 「艦内の警戒レベルも上げるとしよう」


 


 追跡開始から5分後


 「艦長、無線が入っておりますが・・・」


 「どうした、報告は迅速に行え」


 副長が通信手を注意する。


 「それが、所属を明らかにせずに白鳥艦長を出せ、と」


 「海自(ウチ)の通信無線に介入出来るものが居るとは思えんが。スピーカーに出せ」


 「了解。繋ぎました」


 「此方はイージス艦艦長白鳥です。そちらは?」


 『私は田中だ。白鳥艦長、出現したという所属不明艦の情報を最大漏らさずに収集してくれ。必要ならば武力の行使もやむを得ない』


 「申し訳ありませんが、どちらの田中さんでしょう」


 『それは知る必要は無い。これには国益が大きく関わってくる。迅速に行動したまえ』


 「警戒、情報収集は事前からの命令なので勿論行いますが、貴方の命令に従う義務は?正式な命令ならば護衛隊群司令部を通してもらいたい」


 「・・・・・」


 田中と名乗った人物は何も言わずに通信を切った。


 「艦長、何者でしょう?」


 「今ここで考えても始まらない。目標の不明艦に急ぐぞ」


  


 更に10分後


 「艦長、海保のヘリコプターが目標の画像を本船に送ろうとしている模様です」


 「こちらでもその映像を傍受することは可能か?」


 「(こころ)みます」


 イージス艦の電子戦の専門家達がチームで取り組む。


 「艦長、正面2番モニターに出ます」


 艦橋に居る乗組員の殆どがそのモニターに目を向ける。レーダー監視員等は任務を続行していた。


 「これは、また」


 「ううむ」


 副長の呟きに、艦長も呻くそこには異形の(フネ)が映し出されていた。


 「2連装の砲搭が2いや3か」


 「いえ艦長、艦の上部だけではありません。通常の艦で言うところの艦底にも同様の武装があります」


 「近接防衛用のCIWSの様な武装やミサイルハッチの様な物もそこかしこに見えるな」


 「艦の上下に主兵装と思われる砲搭があるということは、やはりあの(フネ)は空中での運用思想に基づいて設計されているようです」


 「そんな(フネ)があり得るのか。そもそも何故あれは浮いている?」


 「艦長、考察も無駄ではありませんが間も無く当該艦が本艦の索敵、攻撃可能範囲に入ります」


 「そうだな。しかし、確かに異形の(フネ)ではあるがあの場所は公海だ。公海だよな?」


 艦のレーダーを常に監視している乗組員が頷いて肯定する。


 「で、あれば当該艦は明確な国際法違反をしたわけでもなく、自由な航海の保証された公海上に居るのだ。我々としてはただ情報を集めるしかない。通信を試してみるぐらいは許されるかもしれんが」


 「艦長、当該艦の後方2kmに巡視船1隻、更に1km後方にもう1隻の巡視船が追尾しています」


 「明らかな追跡行為は当該艦の不審を招くのでは無いのか?場所も公海上だぞ」


 「海保への通報位置がEEZ内だった、という情報もあります。その事を根拠に臨検を(こころ)みるのでは?」

 

 「あまり波風は立てないで欲しいが・・・・。巡視船が攻撃されれば当該艦の武装が確認出来るかもしれんな」


 「艦長、あまり過激な発言は困ります。当該艦の進路によっては海上警備行動が発動されてこの会話がお偉いさん達の耳に入るようになるかもしれんのです」


 「まだ命令は出ていないだろう。大丈夫だ。それよりも記録はしっかり行えているか」


 「手動のフィルムカメラによる撮影は距離的にまだまだ無理ですが、望遠カメラによる撮影、レーダー波への反応の記録等取り得る手は全て行っています」


 「そうか」


 「「「か、艦長。目標をLOST、見失いました!」」」


 当該艦の観測を行っていた全ての乗組員が同時に報告する。


 「(フネ)1隻がそう簡単に消えるものか!」


 「し、しかし海保の方も見失ったようです。海保が発見してちょうど30分です」


 「まさか我々は幽霊船を追っていたのか?」


 誰かが呟く。


 「3隻もの艦船の乗組員全員が集団幻覚など見るはずが無い!副長、収集出来た記録を全てまとめてくれ。報告書を作成しなければならん」


 「了解しました。そういえば艦長、当該艦が出現する直前に何か言いかけていませんでしたか」


 「・・・・・。いや大したことではない」


 「そうでしたか」


 (言える筈がない。この事を予知していた人間が上層部に居た等と!)


 艦長の苦悩を他所に、姿を消した不審艦の捜索は1時間行われ海自、海保の艦船は引き上げた。


 日本国 東京都内 某所


 「・・・・・田中あらため寺門だ。斎藤、お前の言っていた通りの海域に異形の所属不明艦が現れたそうだ。今は上も下も蜂の巣を突いたような大騒ぎだ。米国も嗅ぎ付けた。お前もそのうちに呼び出しを喰うぞ。今ならお前の妄想の様な話を疑う人間は少ないだろう。落ち着いたら酒でも飲みに行こう、切るぞ」


 そう言い、田中と名乗った寺門海将は秘匿回線処置をされた受話器を置き深く息を吐いた。







自分、空自、海自、海保は殆ど分からないのでネットで資料を調べて書きましたので、明らかに違う点などありましたら、感想の欄などで指摘してもらうと助かります。読んでもらいありがとうございました。

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