321話 地球(テラ)へ 2
いよいよ本質に迫ります。
ヤマト公国 公都ノースガルドから数十Km 門回天守備基地
「現在の門は常時開放状態となっておりますが本日の実験により通過出来る物体が軍艦サイズまで拡大する事が可能となります」
守備基地に勤務する軍属の技術者がマコトにそう報告する。門の基礎こそマコトのスキル『兵器創造』を使用したが改良にはこの世界の知識や技術も使用していた。
『そういえば、最後にまともにスキルを使用したのは何時だろうか?この世界を生き残る為に死に神から授かったスキルだが最近は頭に浮かぶことすら稀だ。死に神達は自分の今の行動を把握しているのだろうか?』
マコトは自分がこの異世界に転移してきた時のことを考えながら歩いて壇上へと立つ。そこには門の開発に携わった者、初期から極秘の守備任務に従事してきた将兵、公国の要人達が数百人、マコトの事を待っていた。
『それでは、これより門の拡張実験の最終行程を実施する!』
マコトの声がマイクで拡大されて響く。それにより1隻の空中駆逐艦が門の装置に近付く。門自体は不可視だが位置を示す為に目印が設置してある。
『事前に機密書類にて通知してあるが、あの艦は『地球』の『太平洋』と呼ばれる大海に出現し30分間の航行試験を行ってこちらに帰還する。それと同時に門のサイズは通常に戻す為にあちらで感知されても安全な設定となっている』
マコトは場に居る者達に再度の認知を促す。
『万が一、あちらの戦闘機等がこちらに進入しても当基地の守備隊が待機している。では勇気ある彼等を送り出そう!』
その言葉に合わせて空中駆逐艦は前進を開始し、段々とその艦体を薄れさせて行きそして完全に姿を消す。
そして30分後・・・・。基地に設置された大きな時計が予定よりも数分が過ぎたことを示していると、艦が姿を消した位置から再び空中駆逐艦が姿を現し空砲を3発発射する。事前に取り決められた『我レ異常ナシ』の符丁だ。
「「「「「オオオオオオオオ!!!!!」」」」」
基地全体が震えるような歓声が響く。
『諸君、この成果により当基地は名の無い基地から『地球道』の基地名を冠する正式な基地となる。今までの陰の任務を心より感謝する!』
このマコトの宣言により機密保持のために「あの」とか「あれ」と呼ばれていた基地に名称がついた。
興奮冷めやらぬ中でマコトと側近達は壇上を降りて輸送ヘリ群が待機するスペースへと向かう。
「さあ、これからは完全な未知なる領域だ。上手く踊らなければ。あちらの反応も楽しみだ」
そうマコトは独り独白する。
門拡張実験視察の二週間前
日本国 某県 某市 某家庭
ピンポーン
来客を告げるチャイムが平和に鳴る。
「あら、配達かしら?見てきますね」
午後の昼下がり、初老の夫婦が仲良くリビングで家庭菜園のやり方を実演する番組を見ていたところだった。チャイムを聞き婦人がソファーから立ち上がり玄関へと向かう。しかし、少しして困惑した様子でリビングへと戻ってくる。
「あなたにお客様よ?」
「客?誰だろうな」
「私には言えないっておっしゃるの。変わった女性よ?」
初老の夫もソファーから立ち上がり玄関へと向かう。そこには黒い作業着のような服装で帽子で顔を見えずらくした女性が立って居た。
「斎藤学元一等陸佐、ご本人でいらっしゃいますね」
「確かに私は斎藤学で過去にはそのような役職に有ったこともあるが君は誰だね?失礼だが日本の方では無いようだが日本では用件があるならば自分から名乗るのが礼儀だよ」
そう言いながら斎藤元一等陸佐は疑念を感じて、いつでも下がれるように身体の重心をずらす。
「失礼は承知の上です。名乗ることは許されておりません。不躾ながら続けてお伺いします。柊真という名に聞き覚えはございませんか?」
思いもかけない問いに斎藤元一等陸佐は身体を強張らす。奥で様子を伺っていた婦人も「まあ!」と声を洩らす。
「・・・・数年前に突然死して葬儀の準備中に遺体の消えた甥の名だ。何故そのような名がここで出てくる。君は誰なんだ!!」
不信感を募らせ、思わず最後には怒鳴ってしまっていた。
「あなたにお会いして頂きたい御方が居ます」
そう言いながら作業着の女性が身体を横にずらすと、そこにはいつの間にか同じような目だ立たない作業着の男性が立っていた。
その男の顔を見て斎藤元一等陸佐は息を飲む。記憶よりも若くなっており、服の隙間から覗く肌や顔には消せない火傷や裂傷が目立つがどこか見覚えのある顔立ちであった。
「まー君なのかね?」
思わず可愛がっていた幼少期の頃からの呼び名で読んでしまう。
「はい。曹候補士に合格した際に忙しい勤務にも関わらず会いに来てくださって以来となります」(第1話参照)
「と、取り敢えず玄関では何だ。中に入りなさい。お連れの方も」
「失礼します」
「失礼致します」
リビングで斎藤元一等佐はテレビを消し、来客2人にテーブルの椅子を勧める。奥さんもいつの間にか隣に立っていた。来客2人も椅子に座る。
斎藤元一佐自身も2人が座った事を確認して椅子に座る。
「本当に真君なんだね。死んだと聞いていたがどういう訳だね?今一信用しかねるが」
「・・・・お正月の親族の集まりを覚えていらっしゃいますか?お年玉をもらったばかりだというのに親戚の子供達は学叔父さんの肩を叩けばお小遣いが貰える、と列を作り叔父さんは優しく子供達全員の相手をしていました。他の叔父さん達はもう大体酔っぱらって横になっていましたけど」
「そういうこともあったな。あの子達も大人になり家庭ができてあのように親戚が集まることはもう無いだろう。懐かしいな。・・・・・やはり真君なのか」
「色々とこれからご説明しますが、叔父さんにお願いがあって死んだ身でありながら本日は参りました」
今回は派手な描写は有りませんでした。多分もう少し同じ流れとなります。




