302話 富国強兵 2
内政系が続きます。
ヤマト公国 某平野
ゴゴゴゴッ!!
軍用トラックよりも大きな耕運機が何台も列なって平原を掘り起こして行く。
上空から見たら、地球の某中東の国の砂漠で超大国がした戦争中に砂漠を戦車部隊が進んでいる映画のような光景が見られたことだろう。まさに『無人の荒野を往くがごとし』だ。
その光景をまさに上空の双発のレシプロ機が視察していた。
「凄いな、陛下のスキルとは。軍事機密として詳細は公表されていないがあんな乗り物をこんな短期間で用意することが出来るとは」
「それを言ったらこの乗り物もだな。我々の過去の常識からは考えも付かない。それよりも、この掘り起こしが終わったら次は空から肥料と薬草の種子を散布するのだろう?」
「ああ。本来ならば何年も土作りから始めねばならないが、事前に調査が行われて薬草栽培は可能だという結果が出て開始された」
「そんな良好な土地なのに何故今まで開拓されて来なかったのだ?」
「・・・御二人とも見て下さい。9時の方向、その原因が来たようですよ」
視察をする2人の会話にパイロットが口を挟む。2人は双眼鏡をそちらに向けた。すると平野の地平線に黒いモヤが見える。
「アレは何だ。事前の情報には無いが?」
「この平原には複数の生き物が生息していましてね。その頂点には二種類の生き物が居ます。アレはそのうちの・・・・草原狼ですね。普通の狼種は10頭程の群れを作るのが主ですが、アレは普通に100頭程の群れを作ります。それ以上もちらほらとあります」
「良く識別が出来るな。しかし、そんな大きな群れだと餌を確保するのも難しいのではないか?」
「ええ、ですので奴らは常に広範囲に斥候を出して獲物を探して群れで襲い確実に仕留めます。また常に飢えているので凶暴性も高く知能も高いのでこの平原の開拓の障害となっていました」
「詳しいな君は」
「自分はもともとこの辺りの出身なので。陛下達に解放してもらいました」
そう言うと、パイロットは被っていた帽子を少しずらして見せる。そこには獣の耳が見えた。
「そうか、ここは元アマゾニア王国だったな」
「はい、それと平原の頂点に立つもう一種類は草原牛という草食の動物ですが、警戒心が強く草原狼と同じく大きな群れを作り餌となる草を求めて移動を繰り返します。頭はそれほど良くはありませんが興奮しやすく敵の肉食獣など居ますと群れで突っ込んで来ます」
「それも視察したいな」
「草原牛でしたら、飼育の可能性を探るということで街に飼育実験施設が有った筈です」
「それは良いな!」
「君達、大変為になる話だったが、その草原狼が開拓団と接触しそうだ」
視察員とパイロットの会話にもう1人の視察員が割り込む。
「でしたら、大丈夫です。そろそろ到着する筈です」
と言うパイロットの言葉とほぼ同時に、何処からか車両群が現れて耕運機を守るような形で群れを包囲していくと同時に何かを射出する。
「護衛部隊か。対応が早いな」
「まあ、見ていて下さい」
車両群が射出した物体は爆発せずに拡散して草原狼を絡めとる。
「ワイヤーネットか。しかし、何故捕獲するのだ?」
視察員の1人が疑問を口にする。
「討伐は容易ですが、畑にする予定地なので死骸の回収や土壌の浄化が手間なので捕獲しているそうです。捕獲後は新兵達の実戦訓練に使用しているそうです」
「なるほどな。此処と同様の取り組みを公国内の数十ヶ所で行っているらしいな。森で人力で採取するしかなかった薬草、麦等の穀物、植物性の油を採る為の植物も大規模に栽培している。冒険者ギルドや農民とのトラブルも予想されていたが今のところは順調のようだな」
「しかし、何故ここまで急速に農業改革を陛下は進められるのだ?まるで我が国の国民が倍増したか、栽培した物を販売することの出来る隣国が突如現れてそのために準備しているかのような規模だ。この視察の前に幹部に聞いてみたがはぐらかされたしな」
「しかし、食糧等の安定供給は国情を安定化させる。やって損は・・・・そんなに無いさ」
「そうだな。此処の視察が終わったら今度は大規模果樹園の開園予定地の視察だな。もう樹木の植え替えなどは済んでいるそうだが」
「樹木も植え替えをすると暫くは収量が落ちるというが、その対策について視察しろということだったな」
そう言うと視察員、ヤマト公国の商業省(286話参照)の農業担当部門に所属する2人は視察を続けるのだった。
応援宜しくお願いします。今年最後には2話投稿とかしたいですね。




