293話 進撃 9
久し振りの連日投稿です。
派遣軍第1軍、第2軍が合同で敗残兵の後処理を進める。捕虜は憲兵隊が主導して捌き、一部の捕虜に死体を埋める為の大穴を掘らせている。千を超える遺体を王都の近郊に埋葬するのはドンナー王国にとっても厄介事だろうから後に掘り返せるように公国からもって来たビニールシートのような物を大穴に敷き詰めて遺体を納めていく。
不死者対策に万能感のある世界樹の雫をまんべんなく撒き散らす。最近は世界樹教の教えが広まり、各地に小教会の建設ラッシュが起こっていた。教えはシンプル『自分がされて嫌なことは他人にするな』である。教会はこの教えを守る者は誰であろうと受け入れて手助けするとしている。
小教会は既にある建物を利用する。今のところ聖職者は居らずエルフ達が活動を行い人件費もそれほどかからない。格式張った儀式など無い。収入は寄付と公国からの予算で賄う。御布施など取らず、重傷・重症の患者には惜しみ無く世界樹の雫を使用する。
そんな質素倹約をモットーとする世界樹教だが聖人君主などでは無い。人種差別的な国、ヤマト公国の敵対国、自分達の都合良く利用しようとする領地などでは、そもそも小教会は作らないし、問題が起これば即座に撤収するのも辞さない。
そんな小教会の増加もあり、世界樹の雫もかなり希少価値が上がっていたが、世界樹の泉に清浄な水を継ぎ足せば一晩で復活するという身も蓋もないことが判明してからはかなり落ち着いていた。もちろん、これは公国の最上級機密であるし、泉を物理的に拡大するといった暴挙はさすがに行われなかった。
話しはドンナー王国へと戻る。捕虜の治療には侵略者ということもあり世界樹の雫はどんなに重症であっても使用は許されずに普通の医薬品のみで行われた。
戦後処理が行われる中、マコト達はドンナー王国軍の陣地へと向かった。300人ほどのドワーフ、一部人間の部隊が整列して出迎えた。中からは3人のドワーフが進み出てくる。夜のうちに陣地へと向かったデンとドンゴ、そして洞窟竜、掘削野郎の討伐の援軍要請にヤマト公国に来た文官のドワル氏だった。
『ヤマト公国、マコト・フォン・ヒイラギ・ドリンドル陛下に対し、敬礼!』
約300人が一斉に各々の武器を胸の前に翳した。マコトも挙手の敬礼で答礼した。本来であれば、平民や下級騎士などに対して王族が答礼することはないがマコトは気にしなかった。
先ほどの3人がマコト達の前に跪く。
「貴方は以前に我が国に来られたドワル殿でしたな?」
「陛下、この者は儂の従兄弟にあたりまして今回は手を貸してもらったんじゃ」
ドンゴが代わりに答えた。
「そうか。以前は良い返事をすることが出来ず申し訳なかった。しかし、今回も」
「陛下、その先はおっしゃらずとも理解しております。どうかこのドンナー王国の未来をお願い致します!」
「従兄弟殿!陛下の御言葉を遮るとは儂の仲介を無駄にするつもりか!」
マコトはドンゴをなだめた。
「それで?王都の大部分を占める大洞窟内は今は無人なのか?」
今まで無言だったデンが答えた。
「此処を守っていた兵士達によると、採掘場を食い荒らした採掘野郎は大洞窟内の鉱物製の建物や備蓄された金属類をさらに食い荒らしているようじゃ。このままでは洞窟内は更地にされてしまう。住人達も喰われるのを避けつつ避難した様子」
「では、これを流し込んでも大丈夫だな」
マコトは背後でタンクローリーなどで作業している工兵隊を振り向く。
「陛下、アレは一体?」
「アレは毒だ」
「???」
ドワル氏は意表をつかれた顔になった。
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