170話 開戦 9
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マコトは、飛行戦艦比叡に搭乗したままゲシュタルト王国の首都ゲイボルグを目指した。
途中から、飛行駆逐艦島風は別行動だったが何をしていたかは、追々判明することとなる。
マコトは約定を守り、行動を起こしたゲシュタルト王国軍2万を無事に王都へと送り届けた。
残念ながら重傷であった兵が数名、長旅に耐えきれず亡くなったのが、唯一の汚点であるが。
マコト達は、アマゾニア王国侵攻の際に陣地を築いた王都近郊の平地に飛行戦艦比叡を着陸させた。
2つの戦車大隊を着陸した比叡の警備に残すと、マコト自身は偵察小隊の車両を使い、ゲシュタルト王国軍と共に王都へと入った。
帰還した兵士達を見て、王都の市民達が出迎えの準備を始めた。
大通りには、市民達が押し寄せ、兵士の家族達が身内の姿を求めて通りを埋め尽くした。
市民達はゲシュタルトの国名を繰り返し唱えながら、帰還した兵士達に花吹雪を浴びせる。
一応、出兵した兵士達の半分以上は帰還しているし、マコト達がイスマル皇国の港街を複数占領していることから、勝ち戦であったことは間違いないが、陸軍の兵士達にとっては何とも言えない感情が胸中を占めていたことから帰還の行進はいまいち精彩を欠いた。
王城へとたどり着くと兵士は兵舎へと向かい、マコトや、一部の将校や貴族達が王城へと足を踏み入れた。
謁見の間では、ヘイマン・ゲシュタルト国王と多数の貴族達が急な帰還にもかかわらず待ち構えていた。
「ヒイラギ辺境伯よ。よくぞ無事に帰還した、多くの兵を救ってくれたようだな?」
ヘイマン国王は、既にある程度の情報を得ているようだ。
「4つの港街と1つの軍港を占領したらしいな。イスマル皇国から講和の要請が来ている。それと影からの報告だが、イスマル皇国の爆裂筒の生産拠点と配備施設が焼け落ちたらしいな?それも、貴公の仕業なのだろう?イスマル皇国国内では火事として処理されているようだがな」
ヘイマン国王は、マコトのみに聞こえるように話す。
ゲシュタルト王国の影は思ったよりも優秀なようだな。
そうだ、イスマル皇国の新兵器とも言える爆裂筒の生産拠点と配備施設を破壊したのは、飛行駆逐艦島風だ。
軍団の情報活動を一手に担うダークエルフの部隊が密かにイスマル皇国内に浸透して、万が一に備えて爆裂筒に関する情報収集活動を行っていたのだ。
そして、帰還時に行き掛けの駄賃とばかりに深夜を狙って軍事施設を空爆して回り、イスマル皇国の保有する爆裂筒を破壊したのだ。
この時代、龍母艦という空軍という考えは出来つつあったが、深夜にピンポイントで、目標のみを破壊して姿を晒さずに離脱するという高度な戦術を考えることも、実行に移すことも無理であった。
軍団、葬送曲を除いては。
「イスマル皇国は戦々恐々としておることだろう。8万の兵を失い、艦隊を失い、頼みの綱の爆裂筒さえも失ったのだ。
次の我が国の侵攻を跳ね返す力は残ってはいまいて」
ヘイマン国王陛下は、嬉しそうに笑いながら言う。講和の使者の怯えた様子でも思い出しているのだろうか?
「して、今回の戦の立役者たるヒイラギ辺境伯よ。褒美に何を望む?」
マコトは、かしこまって言う。
「2つの港街と軍港が戴ければ幸いです。後の街は賠償金と交換に返還すれば宜しいでしょう」
ヘイマン国王が言う。
「何とも欲の無いことよ。一番の立役者がこうなのだ。まさか、それ以上を望む者は居るまい?」
数名のマコトと共に帰還した将校や貴族が何かを言いたげだったが、国王陛下の言葉ということで、押し黙る。
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