9月27日
彼、海道俊也はスマホの着信音で目を覚ました。
机で突っ伏して寝てしまったせいだろうか。体のあちこちがこわばっていた。
誰だよこんな時間に。
寝ぼけ眼を擦りながら、スマホの電源をつける。
通知欄には、「二件のメールを受信」と表示されていた。
ついに来たか。
俊也はすぐさまロックを解除すると、受信箱を開けた。
1件目。
主人がオオアリクイに殺されて一年が過ぎました──。
速攻で閉じ、ゴミ箱へ送り込む。
スパムじゃねーか。しかも何年前のだよ。
俊也はがっくりと肩を落とした。
彼は趣味で「スクラップスキャナーズ」というサイトを運営していた。
内容は全てオカルトに関係するもの。自らの足で各地に取材に行ったりもして人気を集めていたが、ここ最近はアクセス数が伸び悩んでいた。
所詮趣味程度、なんて思ったりもしたが、このまま人がへっていくのを放っておく気にはなれなかった。
そうして思いついたのがメアドを公開して、情報を集めることだった。
しかし、ことはそう簡単にいかなかった。送られてくるメールは大抵がスパムや誹謗中傷の類い。ひどい時はウイルス付きだ。
そして今日、俊也はサイトを閉じようとしていた。連日送られてくるメールに、もう付き合う余力はなかった。
今日送られてきたメールを見たらもうやめよう。
そう思って机の上でパソコンをいじりながら待っていた訳だったのだが、いつのまにか寝落ちしていた。
はぁ、最後までろくなメールがないな。などと思いながら2件目のメールを開く。
内容は、何かの小説だろうか。そこにはある女性のことが書かれていた。
意味わかんねえ。
そう思ってゴミ箱へ捨てようとした時のことだった。
ある一文が目に留まった。
──彼女はカイドウという名前に心当たりがなかった。
偶然の一致だろうか。気になって最初から文を読み返す。
──海道と名乗った電話の相手は何か悩んでいるようだった。
いったいどこで名前を知ったのだろうか。俊也は少し気味が悪いと思いながらもさらに読み進めていった。
結局、彼の名前が出てきた以外におかしなところは無かった。強いていえば主人公の女性の終わりが酷かったというところか。
ネタとしては微妙だった。こんなものを記事にしたところで到底人が集まりそうにもない。再びメールを閉じようとする。
「あれっ?」
思わず声に出すほど、俊也は驚いた。
件名の欄、先程までは「無題」とあったところに何処かの座標が書かれていたのだ。
バグかな。などと思いつつ、マップアプリを開いて検索する。
アイコンは俊也の住む都心から離れた、郊外へと伸びる路線の脇の土地を指していた。周囲には住宅街と緑が広がっている。
俊也はあることに気づいた。
再びメールを開き、確認する。
──駅前のスーパーで食材を買った彼女は家へと向かう。
間違いない。この文章はここを舞台にしている。確信するとまでは言わないが、俊也には断言できる自信があった。
明日は金曜日、会社が早く終わる日だ。うまくいけば明日の夜までに記事を仕上げられる。
彼の頭の中ではすでに、明日の午後の計画が練られていた。