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4. 警察署で何か知ったんだな

 歩きながら話しているうちに、教えてもらった事故現場に到着した。

 けっこう交通量の多い道で片側二車線をびゅんびゅんと車が行きかっている。

 

 押しボタン式の信号が青になったところで横断歩道を渡り始める。

 隣に浮いている中条に思い出したかときいてみたが、のどに何かがつっかえたような顔で考え込んでいた。

 どうせ飛び込み自殺なのに何を悩むというんだ。その方法は運転手にとって不運でしかなかっただろう。思案げな顔をするこいつがひどく無責任に思えた。

 

「たしか、あの後、家に帰ろうとして横断歩道を渡ろうとしたのは思い出してきた……けど……、うーん、そこからが全然ダメ」

 

「横断歩道を、渡ろうとした? 飛び込み自殺じゃなくて?」

 

「ちがうよ! そんなことしたら運転手のひとに迷惑になるじゃんよ」

 

 自殺じゃなくて、本当に事故だったのか。

 向こう岸に渡ったところで、ガードレール脇に花や菓子の箱が供えられているのを見つけた。

 

 変な気分だった。

 見慣れた街の中で人が死んだということが実感できない。

 幽霊らしからぬおしゃべりで陽気な中条の姿を見ているせいなのかもしれない。

 

「一つ思いついたんだけど、幽霊のおまえにしかできないことがあった」

 

「なになに? 話してみてよ」

 

「警察署にいけば、事故のことをまとめた調書が見れるんじゃないのか? おまえなら見放題だろ」

 

「なるほど、じゃあいってくるね。ついでに留置所とかも見学してくる~」

 

 これ以上ここにいてもしょうがないと、ボクもこの場を後にしようとしたところで人の視線を感じた。

 振り返ると、そこにはスポーツバッグを肩にかけた男子高校生がジッと立っていた。

 運動部にでも所属しているのかガタイのいい体つきに気後れを感じた。しかし、彼が見ていたのは供えられた花のようで、ボクと視線が合うとぺこりと会釈をして去っていった。


 

 事故現場からバイトに向かい家に帰ったのが夕方ごろ、しかし夜半を過ぎてもあいつは戻ってこなかった。

 あの騒がしい声が聞こえない部屋は寂しく、夜の闇が心を暗くさせる。

 

 

 次の日、帰ってこないあいつをさがし事故現場に行ってみたがその姿はなく、しおれ始めた花が風に揺られているだけだった。


 中条の家でもあるアイツの家に向かうと、庭先から小さな女の子のはしゃぐ声が聞こえた。

 アイツが放ったゴムボールがゆるい放物線を描いて、女の子の手に収まる。うまくキャッチできたことをアイツが大仰にほめてやると、女の子はうれしそうに笑っていた。


「ねえ、おとーさん、おねーちゃんはどこ? いっしょにあそぼーよ。よんでくるね」


 きっと、中条は小さな妹の相手をよくしていたのだろう。優しい姉を求めて未成熟な手足で走り出そうとした女の子を、アイツが抱きとめた。


「こらこら、急に走り出したら危ないだろ。それにおねえちゃんは、もう、いないんだ……」


「どこにー? がっこうにいったの?」


 女の子の問いにアイツは言葉を詰まらせたあと、もっと遠いところだよと語尾は震わせながら答えていた。こんなところ見たくなかった。感情がうずまきドロリとした黒いものが腹のそこにたまっていくのを感じ、苦しさにあえぎならこの場を後にした。



 他に思い当たる場所といえば、最初に出会ったあの廃ビルの屋上ぐらいだった。

 屋上への階段をのぼっていくにつれて、叫び声が耳に入ってきた。その声は中条のもので、それは悲しみと怒りに満ちている。


 聞いてはいけないものだとわかりながらも、体を低くしながら顔だけをだすとはっきりと聞こえてきた。

 

「ふざっけんな! ふざけんなっ!! ふざけんなぁっ!!!」

 

 物に当り散らそうとするが、その手は虚空をかくようにすり抜けるだけだった。

 それでも中条はやめない、内側から湧き出る激情で体がパンクしないように吐き出し続けているのかもしれない。

 

「わたしは、なんでこんなことのために……、もっと生きていたかった。したいこともあったのに……」

 

 はぁはぁと息をきらせ、大きく深呼吸をするが吐き出すことはなかった。まるで、怒りを胸の内に飲みこむように。

 

 いつもおどけた表情ばかりの中条の一面をのぞいてしまったようで、気まずくなり見なかったふりをしてその場を後にしようとした。

 しかし、時は遅く、振り向いた中条と目が合ったしまった。

 

「……あははっ、ごめんね~騒がしくして。生きている人間に聞かれることないから思いっきり叫んじゃったよ」

 

 中条も気まずそうに目をそらしばればれの演技を続ける。なにかあったのかと聞いても、ただのストレス発散だと答えるだけだった。

 目を泳がせながら答える中条。本当に分かりやすいやつだった。それなのに、平気なふりをつづけていようとする姿が痛ましかった。

 

「そうだ! そろそろ、キミが死ぬ算段をつけないとね。なにがいい? 首をつって縊死、あとは電気でしびれて感電死、はたまた働きすぎて過労死とか~」

 

 中条は指を折りながら列挙していく。そして、病死という言葉を聞いた瞬間、そういえば、自分はもうすぐ死ぬという現実を思い出す。

 ボクには時間がない。以前までの自分だったら逃げ出していたけれど、中条の心に踏み込むことにした。


「もう一度聞くぞ。警察署で何か知ったんだな」

 

「……つまんない事故だったよ。ただそれだけ」

 

 隠し事をされているとわかるとなぜだかイライラしてきた。秘密を共有して、この奇妙な少女に友情を感じていた。

 再度教えてくれといってみても中条は話そうとせず、ちょっと用事があるといって屋上から身を投げ出した。

 しかし、地面には血の染みができることはなく彼女は宙に浮いていずこかへと漂っていった。

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