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酒と煙草にスパイスを。  作者: 中村悠介
プロローグ
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プロローグ



「……なんだよ、これ」


 道場から家に帰って玄関を開け、不自然に荒らされた自宅を目にした青年は呟いた。

 朝家を出た時は、こんなに散らかっていなかったはずだ。



「強盗、か……?」



 わからない。

 だが、とりあえず通報しなければ。


 しかし彼は現代っ子にはあまりにも珍しく、携帯を持っていなかった。

 電話は、リビングにある。

 

(通報、通報しよう)


 気が動転していた彼が、無防備にもリビングのドアを開けようとしたその時。



 ナイフを持った腕が青年に向かって突き出てきた。



 ――瞬間、彼の身体は反射的に動いた。


 ナイフを持っている手首を右手で掴み、その動きを止める。

 そして左手でその不審者の腕を肘を支点に捻りあげ、肘関節を破壊した。


「がぁぁぁ! 痛っ! くそったれ!」


 強盗犯は痛みに呻きながら悪態を吐いた。

 ナイフを取り落とした強盗犯は、右腕を抑えながら必死にナイフを拾おうとする。

 しかし青年はそのナイフを自分の後方に蹴り飛ばした。



(なんか今日の俺冴えてるな)



 命の危機に瀕している恐怖からか、他人を傷つけた興奮からか、彼は場違いなことを考えた。



 その時。


――ギリギリギリ。


 青年の脳裏に、肉が引き裂かれるような音が響く。

 身体に何かが侵入してくるような感覚が、痛みが、彼の身体を貫いた。


 彼のうなじには、先ほど蹴り飛ばされたはずのナイフが突き立っていた。


 強盗犯は、二人いたのだ。


 

 しかし彼の意識はその事実を認識することなく、途切れたのだった。



 そして―――





ーーーーー





 ――12年後



「ローグ様ぼくの帽子があそこに引っかかっちゃったんですけど、とっていただけますか?」


 まだ舌足らずな幼い男の子が指さす先には、風に吹き飛ばされたのか木に引っかかってしまった帽子があった。

 その木の表皮はつるつるしており、とっかかりも少ない。

 これに登るのは、たとえ木登りに慣れていたとしても難しそうだった。



 しかし、その男の子に頼まれた少年――ローガンは、にこりと微笑んで男の子の頭を撫でる。


「うん、いいよ」

 

 ローガン・プリーシア。

 魔法の大家として有名なプリーシア家に生まれながらも、魔法がほとんど使えず劣等生と噂される少年。

 その少年は実に心優しく、みなに愛される性格をしていた。


 深い茶色の髪と茶色の目。

 整った目鼻立ちに、笑うとできるえくぼ。

 12歳にしては背もとても高く、背の低い大人と言っても通じるくらいにはすらりとしている。


 しかし、何より特筆すべきはその筋肉。

 服の下から押し上げんばかりに膨れ上がった筋肉は、到底12歳の少年のものとは思えないほどに発達していた。



「じゃあ少し離れててね」



 ローガンは幼い男の子に声をかけた後、右手を腰だめに構えた。

 肩や腕の筋肉が隆起し、足腰にも力が加わる。


 そして――


「――ハァっ!」


 掛け声と共に打ち出された拳が木を打った。


 ドン、という鈍い音。


 木が大きく震え、多くの葉っぱが、そして男の子の帽子が落ちてくる。


 その帽子を拾い上げるローガンの手は、木を殴りつけた衝撃でひしゃげていた。

 指は変な方向に曲がり、皮膚も少し裂けている。



 しかし。



「はい、どうぞ」



 彼がそう言って帽子を差し出した時には、その怪我は跡形もなく治っていた。



「ありがとう、ローグ様!」

「じゃあ、気を付けるんだよ」

「うん! さようならローグ様! ありがとう!」



 礼を言い去っていく幼い男の子。

 その後ろ姿を眺めながらローガンは先ほど怪我した方の手を撫でながら言う。


「ああ……。気持ちよかった」




 

――――これは最強の回復スキルを持ったドМの少年の、愛と友情と筋肉に満ちた物語だ。





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