彼女の戦記1
彼の手を…掴めなかった……
ふわりと地面に降りる感触を味わってから、希美は目を開いた。
何人もの人間が目の前で伏礼している。
しかし、希美の顔に驚きのような表情はいっこうに表れない。しばらくしてうかべたその表情は、運命に呆れるものか懐古の念か、希美自身にもわからなかったが、どちらにしろ、そこに一抹の淋しさが交じっていたことだけは、希美にもわかった。
「神祇召喚と、状況説明をさせていただきますので……?」
近づいてきた力士のような体格の男が喋るのを遮る。
「まずこの国の名前は?」
「……は、はあ、峩国ですが……」
「じゃあこの世界の地図を持ってきて」
「は……はい!」
男は驚きの目をこちらに向けながらも、近くにいた下男を呼んで地図を取りに行かせた。
伏礼していた者たちが驚きと困惑の目を向ける。それも当然、今までこんな事例は聞いたことがなかったし、実際に無かっただろう。
そんな視線をまるで無視してしばらく待っていると下男が地図を持ってきた。
地図にはほぼ正方形の大陸が描かれてあり、地名らしい漢字のようではあるが見たこともない文字が書かれている。しかし希美にはその文字を読むことができたし、それに対して疑問を持つようなこともない。
地図には五つの国が描かれていて、峩国はその大陸の左下……南西に位置していた。面積は大陸全体の4分の1……いや、5分の1といったところ。大陸の中心部分に峩国の3分の1くらいの国、崑崙があり、中心よりも左下によっているため、4分の1には達しないようだ。
大きさは大陸で二番目。一番大きいのは大陸の半分、東側全てを覆うアトラン帝国という国だ。東海岸全て、南海岸の半分、北海岸の3分の2を覆う圧倒的な大きさである。
そして峩国の北側には海岸を持たないベルキという国が、そして北海岸の3分の1と西海岸のほとんどを覆う、細長い……あの世界でいえば、南米のチリのような……ジュンガル国があった。
「他国との関係は?」
「はい、……」
最初に話しかけてきた力士のような男の話によると、大国アトラン帝国との関係は最悪だが、現在は停戦条約を結んでいるという。
中央付近にある崑崙とは、比較的仲が良いらしい。峩国の都である康煕と、崑崙の都である嵩山が近すぎて、戦うにはリスクがありすぎるからかもしれない。
そして北の二国、ベルキとジェンガルは軍事同盟を結んで峩国と敵対している。ベルキ一国相手なら峩国が優位だったが、海軍大国のジェンガルと手を結ばれたことによって、特に海岸部分で、最近はかなり圧されているという。そのためベルキ戦に戦力が集中できず、戦線を維持するに留まっている。
「あの、神祇は……」
地図から顔をあげると、力士男が不安そうな顔で尋ねてきた。
希美は右手で胸のあたりを撫で、
「……いってみようかしら」
おくれてごめんなさい!
春休みで実家に帰っていたので、執筆も投稿もできませんでした;
……まぁ読んでる人殆んどいないんですけどね;
今日からまた頑張っていくので、よろしくお願いします!