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0.少女の不穏


寒々しい冬の最中、しんしんと降り積もるのは真白い綿雪。

貧乏人の片寄会うボロアパートの集合地帯とはいえ、この真冬の夜には、家々の灯りがそっと灯り、申し訳程度の火が、暖炉にも灯る。この寒空の下、火の一つも無ければ、生きてはいけない。

しかし、そんな最低限の灯りさえ手の届かない残りの者は、そんな家々の傍にひっそりと見つからないように身を寄せる他ない。家の者に見つかれば二度と戻ってこれないかもしれないが、生きるためにはそんなことを気にしていられない。ハイリスクローリターンだが、それでも死ぬよりかはずっとマシだ。


そういうところだ。ここは。


それは誰よりも私がわかっている。


生きるためならなんだって、


でも、その中でも最善を、


それはこの街の誰もが知ってる合言葉。


そして誰もがきれいごとだと分かっている合言葉。


それでも、

誰もが胸の奥底で一度は願う合言葉。


国最貧層が、この国で随一の誇り高い花を胸に飾っている。

この国で一番貧しい人間が、この国一番の豊かな心を持っている。

最も持たざる者が、最も何にも勝る美しさを持っている。


結構なことじゃないか。


彼等は、私たちは、富裕層の腐れ豚野郎数百匹が逆立ちしたって手に入れられない、この世で勝るものなど何一つない至高の宝を自らの内に持っている。


これだからこの街を離れられない。


これだから、この街を捨てたもんじゃないなんて思ってしまう。




ざわり、と一面青色に染まる台地が風にさらわれ、大きく揺れる。

一緒にスカートも持ち上げられ、ずっしり無駄に重くやっぼたい生地が膨らんではしぼみを繰り返す。

朝日が、眩しい今日の幕開けが、少女の桃色の頬を赤く染め上げていく。

その温かさにか、少女は頬が勝手に持ち上がり、気分が高揚していくのを止められない。

とうとう少女のその瞳さえ太陽は赤く照らし出し、水を垂らしたようにいつまでもあっちこっちに輝く赤茶色の宝石は、少女の感受性をそのままに映し出し、赤へ、橙へ、黄色へ、茶色へとキラキラと色を映していく。

興奮冷めやらぬといった様子で、少女は朝日をその細い体いっぱいに受けながら、その儚げと言って差し支えない姿に違和感しか覚えない獰猛な笑みが浮かべる。

にやぁっ、と引き上げられた口元と同時に、それと比べて遜色のない猛獣のようなギラギラとした瞳が大きく開かれ、まるで広い荒野の中から獲物を探し出すようにそわそわと落ち着きなく光を反射していく。


「待っていろ、富裕層の豚共。今にお前ら全て掻っ捌いて私の礎にしてくれる!」


少女の恐ろしい程に愉悦を含み、かつ吐き捨てるような低い咆哮は果てしなく続く太陽までの道のりにまで届くような気すらさせる。風もそれに倣っているのか、少女の方向の先まで添っていくように少女の後ろから勢いよく吹き抜け、その先、その更に先へと朝の冷えた空気を押し流していく。

風は少女の叫びを周囲の森にも運んだのか、木々がざわざわとその身を留まることなく揺らせ続けている。

その場の大気は先の少女の咆哮に追従するように少女の周りで荒れ狂い、音を攫い、荒れ狂う静寂を少女に贈る。


その中央で一人静かに野望に燃える少女の瞳は、もはや日を湛える太陽の宝石ではなかった。

闇を交じらせ、太陽を飲み干さんとギラつく吸い寄せられるほどの怖ろしい美しさを宿す、美しい魔物の瞳。


この場を言葉で表すならば、これ以外にはないだろう。

いや、それ以外ではならない。

何故なら、ふさわしくないから。

そう。

彼女を、彼女のもたらした景色を表せるのは、この一言だけ。




不穏



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