彼女と俺。
「ネコミミー?」
一太郎が手を頭に持っていき、猫のような仕草をした。
「そう!」
「烏野さー。」
「なんだよ。」
「にゃんこに呪いでもかけられたのか。」
「なんで?!」
今からさかのぼること、十数時間前。
優嘉はカゲという黒猫と、ネコミミを付けた小柄な少女と出会った。
そのことを一太郎に説明するものの――
「呪いをかけられて、どの生物も構わずネコミミ付きに見えちゃうようになっちゃったー
ってことしか考えられないってー。」
もちろん、難航していた。
「いや、ほんとにありえないから。てか、仮にもお前の頭にネコミミがついているように見えるとしよう!
なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだ!?」
「そりゃー、ネコミミの女の子が言った通り『でりかしー』ってのがないからだろー?」
「あぁーーー!もう!意味わかんね!」
頭を抱えて、机に突っ伏す。
『デリカシーのない人ね。』
『猫っていうのは、貴方みたいなデリカシーのない人を嫌うから。』
馬鹿にされているのは、デリカシーという言葉の意味が分からない優嘉にもなんとなく伝わった。
ただ――。
「かわい・・・かった、なんて・・・。」
ネコミミは彼にとって嫌いではない。むしろ、好きとか好きじゃないとか・・・。
「へー、気に入ったの?」
「へぁっ?!」
優嘉に目線を合わす一太郎はニコニコしている。
「頭抱えて、真っ赤になって、かわいいーかわいいーって、」
「べち、べつに?!ネコミミの女子がかわいいとかとか!」
突然の図星に慌てて弁解をし始めた優嘉に一太郎は、
「あれ?猫じゃなくて、女の子の方?」
と頭上に疑問符を浮かべた。
「え?」
「いやーにゃんたのことかと思ったけどさ、やっぱり人間の女の子の方がいいんだなー。」
一太郎はにやにやと細い眼を優嘉に向けた。
恥ずかしさがみるみるうちにあふれ出す。
「いっっちゃん!!!!!」
そういうと、彼は再び頭を抱え机に突っ伏した。
「あー今日もいないかな、猫。」
いつものように道沿いを猫を探しつつ歩いていく。
「いないかなーって、流石に昨日のネコミミ女子はいないよね?」
いないよねー、いないよねー。
「カゲた・・・じゃなくて、カゲーどこー?」
いないよねー、いない・・・って。
「んん!?」
あれ、いる。いた!え、何してんの。ちょ、と。
通り過ぎようとしたものの、優嘉には無理だった。
彼女はどうやら昨日の黒猫、カゲを探しているようだ。
もちろん、ネコミミもついている。
優嘉は昨日のことやらカゲが気になるので声をかけることに・・・
「げっ!!」
彼女の声。
なぜか、顔は真っ赤。
「な、なに?昨日の人じゃない?私になんか用?」
「え?まぁ、そんな感じなんだけれど。」
・・・・・・・・・・・・・・
なんか話しかけられたーーー!
なんか絡まれてるっぽい?!
「そう、ご苦労様。でも、私忙しいから。」
「カゲ・・・ちゃん?」
「・・・・!どうしてそれを!」
「いやいや、あからさまに探してたじゃん。」
「~~~~~~!!!」
・・・?
なんだかみるみる顔が赤くなっている。
「なによ、私の顔、じろじろみないで。」
赤い顔で頭を押さえつつ優嘉を睨む彼女。
「え、うん、ごめん?」
その手はネコミミ押さえてるのか。
「というか、貴方、私に用なんかあるの?貴方が言った通り私はカゲた・・・カゲを探してるの。」
「あぁ、えっと俺も手伝ってあげようかと。」
「え・・・・。」
「いや、だからカゲちゃん探し、手伝うよ。
・・・・ それに、君について興味あるし。」
ってあれ?
文法おかしく・・・。
・・・・しまっ・・・!
「わ、わ、私につつ、ついてし、知りたいっていう、言うのはどういうい、意味で・・・。」
彼女は言葉を勘違いしているのかすっかり頭から湯気をだし、うつむいてしまった。
「ちょ、ちょいまって!そ、そ、そんな意味で言ってないよ!!」
「~~~~!下品な人!私に下心をもって接するなんて!」
そういうと、カゲを探すのも忘れたのか彼女はこの場をすぐ去ってしまった。
「あぁ・・・」
せめて名前くらい聞きたかったな。
彼女が去ったあとをただ眺めていた。
優嘉に生まれた新しい感情は、ネコミミの少女に対するもの。
それは確かなものとなる。