猫と俺。
みゃあん
目の前で猫が、小さく鳴いた。
日向で気持ちいいのか目を細めている。その茶色と白の斑模様をした猫は非常にかわいい。
彼は、その猫に・・・そうっと手を伸ばす。
「 ・・・・・・・・・ってぇ!!! 」
突然伸ばされた彼の手に、驚いた猫はひっかき傷を残し去ってしまった。
「はぁ・・・まったく俺も懲りないな・・・。」
またも猫にフラれてしまい、彼はしゃがんだまま深く落ち込む。
「猫と女は、わからん。」
小さくつぶやくと、手の甲にある出来立ての傷をまじまじと見つめた。
「烏野ー、おまえさ、またにゃんたにひっかかれたのか?」
「うるせー・・・、いっちゃんに俺の気持ちなんか分かってたまるか・・・。」
「だせーフラれてやんのっ。」
「・・・猫だけどな。」
ひっかき傷をいじられる彼、烏野 優嘉 (からすの ゆうが)は
友人のいっちゃんこと、一太郎 (かずたろう)と今朝の話をしていた。
「あの子、この前も見たんだ。茶色と白のきれいな毛並みのあの子を!」
優嘉は生粋の猫好きである。自称、猫の生まれ変わり。
「烏野さーホントに、にゃんこ好きなの?」
「もちろん!」
「じゃあその生傷の絶えない手やら腕やらは何を物語る?」
一太郎は今朝の傷を、ビシッと指し示す。
優嘉は自分の腕を見て何も言うことができなかった。
残念ながらこれが事実であり現実を物語っているのは本人が痛感していた。
「・・・んじゃー、いっちゃんバイバイ。」
「おー、帰りもフラれんなよ、烏野ー。」
「うるせーっ。」
校門前で一太郎と別れ、優嘉は帰路に着く。
日当りのいい玄関、塀、路地をきょろきょろ・・・。
今朝ひっかかれても優嘉は愛すべき猫がいないか、わくわくしていた。
「・・・あ。」
美しい黒髪のような毛並みの、吸い込まれそうな黒い眼の、気品あるその猫は
入ったことも人気もない暗い細い、民家と民家の隙間にいた。
優嘉はその猫にさっそく接触を試みようと・・・
「デリカシーのない人ね。」
「?!」
まるで鈴のような透き通った声が優嘉の動きを制止させた。
振り返る。
え、ちっさ。口から出そうになるくらい小柄な、女の子が見下すように、見上げていた。
って、あれ・・・。
「さ、さぁ、行くわよ。カゲ。」
出会ったばかりのカゲと呼ばれた黒猫は、首輪の鈴を鳴らしチテチテ歩いていくと、
彼女はひょいと抱き上げた。
「それでは。」
「はぁ・・・。」
呆然と彼女を見つめる。
踵を返しと歩き出すと、突然とまった。
「貴方。」
ん?
「俺?」
「猫っていうのは、貴方みたいなデリカシーのないのを嫌うから。」
「え?」
「それでは。」
「ちょっと・・・」
呼び止めたものの、彼女は振り返らず去ってしまった。
「あの子、
ネコミミ、付けてたよなぁ・・・・」
優嘉の頬に変な汗が伝った。