第九話
「先生、先生は先生なのに馬鹿なんですね」
「なにおぅ、馬鹿っていった方が馬鹿なんだよ」
もう、馬鹿まっしぐらな少女勇者ではあるが、決して悪い人間ではない…そこにリゼルが絡んでいなければの話だが…
「この子は今まで、この容姿で…この耳で苦しんで来たんです、それを先生はまるでアクセサリーかなにかみたいにいって…」
「えっ!?ごめん……ごめんなさい、そんなっもりでは…」
「…ふむ…」
素直に謝る馬鹿勇者に、リゼルは内心感心した。
自分が悪いと知っても謝らない人間の大人は多い、それが子供に対してだと尚更顕著に現れる…だが、馬鹿勇者は自分たち子供相手にもきちんと謝罪をしたのだ。
ちょっと…ほんのちょっとだけ、馬鹿勇者を見直すリゼルだが、やっぱり馬鹿は馬鹿なので、せっかく上がった株を自ら下げる事がこの先何度もあるのだが、それはまだお互いに知らないことである。
「…で、リーくん。わたしはネコ耳の人間なんて見たことなかったんだけど、この子は?」
「…トリヤ」
ネコ耳少女は、憮然とした態度でそう告げる、彼女の名前…であろう。
「トリヤちゃんね、で?今はまだ、リーくん以外は教室にいるはずなんだけど?」
「…………。」
一応、講師である馬鹿勇者にやっぱり憮然とした態度で無言を貫くネコ耳少女トリヤ、この時既にリゼルはだいたいの理由はわかっていた為、トリヤへと余計なことは聞かないことにしていたのだが、そんな事情もこの世界でのネコ耳(魔族)に対する差別も知らない馬鹿勇者は聞いてしまう。
まぁ、講師という立場上、生徒がこの時間に居てはいけない場所に居るのだから、その理由を問いただすのは当然なのかもしれないが…馬鹿だから空気は読めない勇者なのである。
「黙ってちゃわからないでしょ?トリヤちゃんはどこのクラス?ちゃんと教室に戻らないとダメだぞ」
「五月蝿いばばぁ」
「なっ!?漢字でうるさいって言ったわね!!」
ばばぁは良いのか?そうリゼルは思ったが、ここは傍観することに決めた。
一応は講師で一応は勇者でもある一ノ瀬葵が、魔族の先祖帰りであるトリヤをどう扱うのか見たかったのだ。
確かに彼女は、魔王であった頃のリゼルに何度も挑み何度も退けられたのだが、他の人間たちとは違い、魔王以外には手出しはしなかったのだ…
勇者とは何を想いどう行動するのか、リゼルは見たかったのだがそこは馬鹿勇者であるため、リゼルの望むもの…納得出来るものであるとは限らない。