第参話
勇者一ノ瀬葵、身長百六十三センチ、体重スリーサイズ秘密な十八歳、これは彼女がこの『世界』へと召喚された当時のデータであるが、彼女が召喚されて早十年…
外見に全くといって変化がない、のは召喚者が不老であろうことを表しているといって良いだろう。
不老ではあるが不死ではない、これは歴代勇者達が戦いの中で命を散らしていったことからも明らかだろう。
彼女、勇者一ノ瀬葵がこの『世界』へと召喚されたのは、この『世界』で最大の軍事力と領地を有した、今はないとある帝国であった…
彼女は若干オタク気質を帯びていたため、異世界召喚などは大歓迎であったのだが、その帝国は『間』が悪かった為に世界から消えることになった。
「……で?いったい、これはどういうことかしら?」
これは、彼女が召喚されて初めての発言である、因みに、彼女の額には怒りを表すバッテンマークが深々と刻まれている、彼女は……召喚時お風呂真っ最中であったのだ。
花も恥じらう乙女が、公衆の面前に裸体を晒してしまったどういう事実に、彼女は異世界召喚ヒャッホーというそんな気分よりも、もう帰れないのという不安よりも……彼女の感情を支配したのは激しい怒りであったのだ。
家族以外に見せる時は、ロマンチックに…
恥じらいつつも、大好きであろう誰かに一枚一枚奪われ「愛してるよ」「うん…わたしも…優しくしてねキャー」なんて事を妄想していた彼女一ノ瀬葵は、当時の状況は決して赦せるものではなかったのだ。
第6代皇帝は若く野心に溢れ、またその野心を実現出来るだけの才能も有していた…
ただ、『間』が悪かっただけなのだ。
その日、その場にいた男達すべてが男としての人生を強制的に終了させられ、女達はその光景の恐怖を植え付けられた。
召喚の儀で力を与えられた勇者一ノ瀬葵を、誰も止めることなど出来なかった…