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異世界の吸血鬼殺し  作者: 配線トルーパー
異世界の吸血鬼殺し
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第一章 日本国立対魔学園(8)

夜明と涼火は夕焼けの下、一年の教室棟に向かう学園生に混ざって歩いていた。あの短い式典の間にも空はだいぶ夜に近づいており、明るい星は既に見え始めている。後進世界でも夜は来ると聞いていたが、夜明はそれを初めて実感した。


夜明らは今朝から何も食べていない。それでもって今日はかなりの運動量をこなしている。故に、夜明はかなりの空腹感を感じていた。その時ふと、電池切れしたはずの涼火は何も食べてなくて大丈夫なのかと夜明は思った。ただそんな事を夜明が思ったところで、涼火の空腹が満たされることはない。そんな心配をして空腹に耐えかねた涼火から暴力を奮われるのも嫌だったので、夜明はあえて口にすることはしなかった。


景色を眺め特に何も考えないで歩いていると、夜明はいつの間にか一年生の教室棟に到着していた。これもまた無機質なコンクリート造りである。


棟に入り、自分の向かうクラスは二階だと聞いた夜明らは階段を上がった。そして、階段のすぐ横にあった教室に入る。夜明はその教室の扉に1-Cの貼り紙を見つけたのだ。教室棟は三階建てで、一つの階に二つずつ教室があった。クラスは一階にAとB、二階にCとD、三階にEとFが設置されている。


廊下から教室に入った夜明と涼火は、教室前に設置されているホワイトボードを注意深く見つめた。そして、座席表の中から自分の名前を探す。ただ、夜明と涼火だけ名前が漢字で書かれていた為、名前を見つけ出すことに苦労することはなかった。他の名前は全てカタカナで表記されているのだ。


教室はいわゆる階段教室で、前後に五段ある。横には六列あり、全部で三十人が座れるようになっていた。このことから一クラスが三十人であると予想できる。


夜明の席は一番奥の段で、廊下から一番遠い窓側の列だった。そこに座った夜明は、先進世界で学生だった時によくこの席を争ってクラスメイトが揉めていたことを思い出した。そして、偶然なのかそれとも必然なのか、夜明の隣の席は涼火だった。夜明はそのことにやや恐怖を感じたが、何も恐れることはないと自分に言い聞かせ、頭の中からその恐怖を追いやった。


怖い笑みを浮かべる涼火に夜明は苦笑いをすると、急いで窓の外に目をやる。空は赤がだんだんと黒へと変わっており、それは再び夜明を恐怖させた。


夜明と涼火の席の前には、それぞれ男が座っていた。その二人は仲がいいのか、ずっと喋りっぱなしで微笑ましく感じる。だが、たまに後進王政言語が混じるので、正直なところ耳障りだった。


そうやって新しい環境にやや緊張しながら夜明が席に座っていると、一人の女性が教室に入ってきた。学園生ではない。すでに座席は全て埋まっているのだ。その人は夜明にとって見覚えのある人だった。


「みんな揃ってる?揃ってるね、じゃあホームルーム始めるよ。私は担任のシャヘト•アリス少佐。アリスって呼んでね」


担任としてクラスに入ってきたのは、外見は可愛いが少し何かが抜けているアリスだった。


アリスはあの時の思い出したくもない事件。夜明と涼火にヴァンパイアへの復讐を誓わせた、あの事件を一緒に解決してくれた人である。あの時のアリスは、夜明ほどではないが少なからず怪我を負っていた。ただ、今の様子を見る限りそれは完治したようだ。


「同じ班のメンバーを見てどうかな?気に入ったかな?」


「………班?」


夜明はそう呟く。自分の班のメンバーが誰なのか分からなかったのだ。


ただ、班というのは先進世界の学校にもあるような給食を一緒に食べるようなグループのことだと勝手に想像し、夜明はたいして重要ではないと結論づけた。ただ、そんな夜明を見たアリスは班の説明を始めた。夜明が班とは一体どういうものなのか全く分かっていないと、アリスは気がついたのだ。


「皆も知ってると思うけど、班っていうのはこれから学園生活を送るときに一つの部隊として機能するものです。卒業したあとに両界編制軍に入っても、その班は崩れることはないよ。いわゆる生涯のパートナーだね」


「…………!」


夜明はアリスの話を聞いて、少し考えた後に声が出てしまいそうになるほど驚いた。まさか班というものが、それほど大切なものだとは思っていなかったのだ。


「要するにそのメンバーでヴァンパイアと戦っていくんだから、早く仲良くなろうね」


アリスは軽々しくそう言う。だが、状況は深刻だった。夜明は取り敢えず周囲を見渡し、自分と同じ班になるであろう人を探した。そして、涼火がメンバーの一人なのかもしれないと思い、夜明は一人戦慄した。夜明はそれを考えるなり、一人で首を横に振る。それは絶対にあってはならないことであるのだ。


涼火にグループへの所属は向いていない。涼火の集団への所属は、結成直後の内部崩壊を意味しているのだ。これまでの涼火を見てきている者であれば、夜明に限らず誰でもそのことを危惧するだろう。だが、涼火だけが班に加わらないということはあり得ない。席の位置からして涼火が夜明と一緒の班である可能性は高かった。恐らく、夜明と涼火の前にいるひょうきんな男二人もである。


夜明がそんなことを考えていると、涼火の右前に座っていた男が手を挙げた。右側のひょうきん男の隣である。夜明はその男の顔を見て、何処かで見たことがあるような気がした。


「おっ、何かな君?」


男が挙手している姿を見つけるなり、アリスはそう尋ねる。すると男は席を立って喋り出した。


「班の変更というものはないのですか?」


「それはないよ。学園の教員が最も良い組み合わせだと納得できるまで話し合った結果だから、変更はありません」


アリスは胸の前で腕をバッテンに組みそう言う。それを見て苛立ったのは、夜明だけではないだろう。


「だがしかし!これは納得がいきません!」


アリスの態度に腹が立ったのか、それとも別の理由があるのかは分からないが、男は声を荒げてそう叫んだ。クラスの全員がそれを見つめて唖然とする。勿論その中には、夜明と涼火も含まれていた。突然過ぎて状況が理解できないのだ。


「でもでも、ダメなものはダメなのです。私の言うことが聞けませんか?」


「あなたが両界編制軍精鋭団の少佐であり、優秀であることは存じています。ですが、これですよ!これ!」


男はそう言って後ろに振り向き、夜明や涼火、ひょうきん二人と涼火の隣の女の子を指差した。夜明はこれを見て、自分の班がこのメンバーであると理解した。


「何が問題なのかな?」


アリスは押され気味にそう聞く。すると男は、何かのスイッチが入ったかのように喋り出した。


「では言わせていただきます。まず、奥の二人!」


そう言って男は夜明と涼火を指差した。涼火が人に指を差されて臨戦態勢に入った気がするが、夜明にとって今はそれどころではない。


「あの二人は先進世界の人間だ。それから分かることはただ一つ。コネだ!こいつらは学園に、先進世界出身であるというコネを使って入ってきたに違いない!そんな実力のないやつは俺には合わん!」


男の突然の言葉に、夜明は失礼極まりないと感じる。しかし、その可能性が全くないとも言い切れず黙るしかなかった。涼火はというと、何を考えているのか首を傾げている。夜明はそれを見て一抹の不安を感じた。


「コネって悪いの?」


予想通りの質問を涼火は真剣に尋ねる。夜明は心の中でため息をつきながら一つ頷いた。


「次にこの二人!」


次のターゲットは例のひょうきんな二人だった。二人はヘラヘラ笑いながら男を見ている。何が面白いのか分からないが、こういうことを面白がる奴は何処にでもいると夜明は思った。


「こいつらはそもそもなんで学園にいるんだ?学力的に入学自体があり得ない。それに戦闘の実力があるとも思えない。不正をしたに違いない。万が一正式に入学していたとしても、俺に合わん!」


すると、ひょうきんの内の一人がその言葉に食いついた。目つきが悪く、先進世界では不良と判断されそうな奴だ。しかし、今のは食いついていいと夜明は勝手に許可を出す。


「さっきからなんだ?俺たちが不正に入学したとでも言いたいのか?ハッ、なら学園長に聞いてみろよ。不正をしていた証拠があったら言ってみろ!そんときは学園を出てってやる!」


ひょうきんの一人はそう言うと、もう一人のひょうきんに宥められて席につく。もう一人のひょうきんは、見た目は一般的な青年。争いごとを好むような感じではない。しかし、そんな第一印象でもひょうきんなオーラを放っていた。


「フンッ……」


男は鼻で笑うと、言い返されたのを完全に無視した。そして最後の一人、涼火の隣の女の子を指差す。


このときに夜明はその女の子をはっきりと見たが、なかなかの美少女であった。そして、しっかりと確認すること数秒。その少女が涼火並の美少女であることに夜明は気がつく。


無口を通していた為、夜明は今までよくその少女を見ていなかった。それが悔やまれるくらい、その少女は可愛い。銀髪が儚い感じを醸し出していて、夜明の心臓は跳ね上がった。まるで人間ではないかのようなのだ。


「…………!!!」


夜明が脳内で美少女の実況していると、突然足に激痛が走り、現実に帰ってくることになった。


夜明が自らの右足を見てみると、右足は涼火の左足に踏みにじられている。さらに、夜明がゆっくり涼火の顔を覗くと、その瞳には殺意がこもっていた。夜明が銀髪の美少女を見る為に身を乗り出していたことが、涼火の気に触れたらしい。夜明は隣から発せられている殺意に恐怖し、ゆっくりと涼火から離れた。


そうして、夜明は渋々男の話に耳を戻す。涼火の怒りを買った夜明は、恐らく何かしらの罰を受けることになるだろう。ただ、釈明すれば余計に罰が酷くなりそうだった為に夜明はそれを諦めて、目の前で行われていることの成り行きを見守ることにした。


「こいつは………、こいつは無口であるために協調性が取れそうにない。だから合わん!」


最後の理由はもはや意味が分からなかった。否定することがなかった為、理由を強引にこじつけたようである。自分が無口であったことを棚に上げて批判している様子に夜明は呆れた。


「つまりです。今年度首席合格者であるこの俺が、何故こんな奴らと組まないといけないかが謎なんですよ!」


男は最後になって、自分の伝えたかったのであろう結論を言い放つ。それを聞いて夜明は思い出した。この男は式典の時、学園長の後に学年首席として少し喋っていた男だったのだ。それを思い出して、道理で見覚えがあったわけだと夜明は納得する。そしてそれと同時に、偏見で物を言う奴が首席なのかと思った。


「でもですねぇ、教員はあなたにはこのメンバーが最もふさわしいと判断したわけで………」


「では、その教員の目が節穴だったということになりますね。ヴァンパイアと戦う時にこいつらと一緒なんて………。俺はこいつらに命を預けたくありません!」


男がそう言うと、アリスはやれやれといった感じで口を開く。


「では、どうしたら認めてくれるのかな?」


すると、まるでその言葉を待っていたかのように、男はニヤリと笑って答えた。


「決闘をしましょう。俺とその他のメンバーで。五分後に五人の内一人でも立っていることができていたならば、俺の負けでいいでしょう。その代わり、俺が五分以内に全員を倒せたならば、班は再編成してもらいます。この班が俺に合う奴か見極めるテストです」


男は自信満々にそう言うと、周囲の様子を伺った。夜明は平静を保ちつつも、初日から面倒なことが起きてしまったものだとうんざりする。だが、決闘など認められるはずがない。例え、戦闘スキルを教える学園であるといってもまだ入学初日であるのだ。


「決闘なんてダメに決まっています!絶対に!」


案の定、アリスがダメだと言った。どの学校でも教員の言うことは絶対である。この決断が覆ることはまず無いものと思われた。


「いや、私が許可しよう」


だが、彗星の如く現れたそんな声が、この場の雰囲気を百八十度ひっくり返した。


「学園長、流石にそれは………」


声の主は学園長だった。学園長は教室に入ってくるなり、笑みを浮かべながら決闘を許可したのだ。これにて状況は逆転し、解決策は一気に決闘をするという方向に進み出すことになった。アリスは学園長が現れた瞬間に動揺し始め、抑止力となれずにいる。


「シュタイナー君。決闘をして気が収まるならしても構わん。ただし、こちらからの条件を飲んでもらうぞ?」


学園長はそう言った。それを聞いた夜明は、その条件というものに期待することにした。相手は首席合格者。束になってかかっても、勝ち目がないと夜明は感じていたのだ。


「参加は男のみだ。女子は不参加とすること。それで五分。武器は木刀のみ。これでどうだ?」


だが、学園長は夜明の予想とかけ離れた条件をシュタイナーに提案した。これが意味していることは、不利そうな夜明らから戦力を奪ったということである。


当たり前のことながら、シュタイナーがこれを断るはずがなかった。


「分かりました。協力感謝いたします」


シュタイナーはそう言って、学園長に頭を下げた。


このやりとりを見て、すぐにアリスが学園長に駆け寄る。やはり決闘はするべきでないと、学園長に反対しにいったのだろう。しかし、学園長と少し話し合ったアリスは、おとなしく元の位置に戻った。これを見た夜明は、アリスは本当に使えないと感じざるを得なかった。


「決まりだ。決闘は明日の早朝六時より多目的広場で行う。シュタイナー君対その他三人の男子生徒。時間制限は五分で、その間にシュタイナー君が三人を倒せれば、シュタイナー君の勝利。そのときは班の再構成を行う。もし五分の間にそれができなければ、班はこのままでいく。武器は木刀のみで防具は無し。いいな?」


そう学園長が聞くと、シュタイナーは頷いた。すでに勝ったものと思っているのか、シュタイナーの頬は緩み切っている。


また、夜明には理解不能であったがひょうきん二人の横顔もにやけていた。決闘はある程度覚悟して挑まなければならないと、ひょうきん二人の様子を見た夜明は感じた。


全ての用事が終わると、つまり厄介ごとを更に厄介にしてご満悦となった様子で、学園長はクラスを去っていった。


「はて、シュタイナー君は本当に勝てるかな?」


学園長は去り際にそんなことを口にする。ただ、夜明がその意味を理解することは叶わなかった。


その後、落ち着きを取り戻したクラスにアリスが何か話していたが、夜明の頭には何も入ってこなかった。夜明が入れなかったという方が正しいかもしれない。


少しだけ、夜明は明日どうするか考えた。だが、夜明は対人の戦闘スキルを全く知らない。格闘においても剣術においても素人である存在が、そんなことを考えても意味ないと感じ、夜明は対策さえ考えることを諦めた。唯一夜明が考えついたことは、班の再構成も悪いものではないかもしれないということだった。不仲な班でヴァンパイアと戦っても勝てない。ヴァンパイアはそんな柔な存在ではないのだ。


ひょうきん二人は、シュタイナーに悪口を叩かれたことに反発しているだけだと夜明は思っていた。冷静に対処して班の再構成を行わせれば、シュタイナーとは別の班になれる。そのことをひょうきん二人に分からせれば、決闘はしないで済むかもしれなかった。


問題が大きくなった一番の原因として、学園長が夜明らの意見を聞かないまま決定してしまったことがある。最終的に学園長権限で決闘を行うにしても、形式上の許可くらいとってほしいものであった。


夜明の考えが上手くいけば、決闘の中止やもしくは八百長化ができるかもしれない。あの銀髪美少女と離れることは夜明にとって惜しいことだったが、この際は仕方が無かった。


そんなことを無駄に考えていると、夜明はいつの間にか睡魔に襲われていた。今日は非常に多くのことがありすぎた。その疲れが今になって現れたのだ。そして夜明の意識は飛び、ホームルーム中にもかかわらず眠りについた。


その後、夜明は涼火に頭をつつかれるまで目を覚まさなかった。涼火に起こされた時、クラスには夜明と涼火だけとなっており、実に閑散としていた。


対して外は真っ暗で、空には無数の星が輝いている。夜明はそれが賑やかに思えた。

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